第六話:蜂の子
翌朝、ナオミが宿屋の部屋で起きると、隣で寝ていたハナがいない。
「ハナちゃん!」と呼ぶが、返事が無い。
パジャマはちゃんと畳んで、部屋の椅子の上に置いてある。
斧が部屋の隅に置いたままなので、トイレにでも行ったのかとナオミが思っていると、廊下をパタパタと走る音がする。
扉を開けて、昨日の服装のハナが入ってきた。
エプロンのポケットから、何やら布製の袋を取り出した。
「昨日のお詫び。あげる」とハナがにこやかな顔をして、その袋をナオミに渡す。
「え、プレゼント? ありがとう」とナオミが袋の中を見ると、そこには蜂の幼虫が生きたまま、ぎっしりとつまって蠢いていた。
「ギャー!」とまたナオミが悲鳴をあげて、袋を放り投げた。
その悲鳴を聞きつけたケンが、
「ナオミ、大丈夫か!」と部屋の外の廊下で騒いでいる。
「蜂の子、嫌いか」とナオミが部屋の隅に投げ捨てた布袋をハナが拾って、落ち込んでいる。
「あ、いや、びっくりしただけ。怒ってないよ」とナオミはハナにひきつった笑いをみせながら、
「入っていいよ」と廊下で騒いでいるケンに声をかけた。
ゆっくりと扉を開けながら、なぜか背中から部屋に入ってくるケン。
そんなケンを見て、ハナは不思議そうな顔をしている。
ケンは首を後ろに曲げて、チラッとナオミたちの方を振り返って、
「どうした、何が起きた?」と聞く。
「えーと、ハナちゃんが虫をいっぱい持ってきたんだけど……」
ハナがケンに袋の中を見せる。
元気に蠢いている蜂の幼虫が見えた。
それを見たケンはちょっと鳥肌が立ったが、素知らぬふりで、
「何だ、それぐらいで悲鳴をあげるとは冒険者として心構えがないな」とナオミに冗談っぽく言って笑った。
「うるさいわねー!」とちょっとナオミが怒る。
「ハナ、それ、どうするの」とケンがハナに聞く。
「そのまま、食べる」
「え、生で食べるの」とケンとナオミはちょっとびっくりした。
「蜂の子。生で食べる。美味しい。塩で炒める。もっと美味しい」とハナが今度はケンに布袋を差し出した。
「あはは、塩か。俺は甘いもんが好きなんだよ、チョコレートとか」とケンは適当にごまかす。
それを聞いて、ケンは男のくせに甘いものが好きだったなあとナオミは思い出した。
「まあ、そういうことでハナにあげるよ」とケンが言うと、ハナはなんとなく寂しげに、
「蜂の子、栄養ある」と言った。
その後、三人で再び冒険者ギルドに行った。
「昨日のゴーレムが暴れた事件ですが、操っていた魔法使いのヒッキー・ヤマモトって何者なんですか」とケンが冒険者ギルドの主人に質問すると、
「それが正体不明と言うか、誰も知らないんだよ」と主人が困った顔をして答えた。
「けど、虐められた復讐とかなんとか叫んでましたよ」とナオミが言うと、
「復讐も何も、誰も知らないのに、いったいこの村に何の恨みがあるのか、それとも村人の誰かに恨みがあるのか、さっぱりわからないんだよ。みんな不思議がっているんだ。本人も復讐だとさわいでいるだけで、具体的なことは何も言わないんだ」とギルドの主人はさらに困惑気味に答える。
「何度も来てるんですか」と再びケンが聞く。
「昨日で五回目だよ。突然、村に来ては、冒険者ギルドあたりでゴーレムをめちゃくちゃに暴れさせたあげく、その場にいた冒険者とかに倒されるとさっさと逃げていく。別に金を要求したり盗むとかはしない。腹が減ったとか言って、食料品店の商品を勝手に食べたり、人の家に入り込んで昼寝してたことはあるけどな。ヤマモトの奴が何がしたいのかよくわからん」
「今までにも、ヤマモトが出現させたゴーレムを倒した人がいるんですか」
「ああ、いつもはだいたい魔法使いが倒しているんだが、斧でゴーレムを倒したのはその子が初めてだな。それも、不法投棄されたコンクリートブロックのせいで、いつもの二倍の大きさのゴーレムだ。凄いなあ」
主人の言葉を聞いて、ケンの隣に立っているハナは昨日と同様、得意げにニコニコしている。
「あと、ヤマモトは他の村にも現れて、ゴーレムを使って暴れているって噂もある。そこら中に恨みを持っているってどういうことなんだろう」と冒険者ギルドの主人も首をかしげている。
主人の話を聞いて、ヒッキー・ヤマモトとは単純に頭がおかしい人なのかもしれないなとケンは思った。
「そういうわけで、他の冒険者たちも気味悪がって、ヤマモトの件には関りを持ちたくないようなんだ」
「俺たちが、ヤマモトを捕まえていいですか」とケンが聞くと、
「かまわんよ。正式に依頼しよう。その女の子がいればゴーレムも簡単に倒せるだろうしな」とハナに向かって冒険者ギルドの主人が笑いかける。
ハナは斧を片手であげてますます得意そうな顔をした。
冒険者ギルドの主人とケンが手続きしている間、後ろのテーブルで座って待っているナオミとハナに他の冒険者の男が近づいて来た。
「最近、各地の村とかでゴーレムがやたら出現しているみたいだぞ」
「え、そうなんですか! それもヤマモトの仕業ですか」
「いや、犯人はそれぞれ別人らしいんだけどな。捕まった奴もいるらしい。ひょっとして魔法使いのあいだで流行っているのか、どれくらい大きいゴーレムを作れる競争とか」とその冒険者の男は何となく馬鹿にしたような感じで笑う。
「そんな話、聞いたことないですよ!」と魔法使いであるナオミは、ちょっと機嫌悪そうに答えた。
とは言え、ちょっと気になったので、そのことについてナオミは、手続きを終えたケンに伝えた。
「偶然なのかなあ」
「いや、ヤマモトや他の魔法使いの連中も操る黒幕みたいなのがいるのかも」とナオミが言うと、
「うーん、どっちにしろ、まずヤマモトを捕まえるのが先だな」とケンが答えた。




