第二話:ゴーレム出現
突然、ケンたちが立っている場所の近くで騒ぎが起きた。
「またヒッキー・ヤマモトが現れたぞ!」と数人の村人たちが大声を出している。
ケンとナオミがその方向に振り向くと、黒いシルクハットをかぶって、タキシード姿に黒いマントを着た変な男がいた。
顔は白塗りでピエロみたいな化粧をしていて、手には液体が入ったガラス瓶を持っている。
冒険者ギルドの建物の正面近くで、大声でわめきちらしていた。
「アッハッハ! 魔法使いヒッキー・ヤマモト様の登場だ! よくも俺様を虐めてくれたな、復讐してやる!」
そう叫ぶなり、ヒッキー・ヤマモトと名乗る男は、水が入っているガラス瓶の中から小さくて黒い石を取り出して、地面に放り投げる。
その黒い石は地面から少し浮いている。
同時に、ヤマモトが何やらわけのわからない呪文を唱え始めた。
ヤマモトが立っている場所のすぐ近くに四角い石がたくさん置いてあったのだが、それらが舞い上がり、もの凄い勢いで空中をくるくると回り始めた。
周りの村人から悲鳴があがる。
そこら辺に落ちていた小さい石や砂利まで巻き込みながら、次第にそれらは互いにくっつき合い、人の形を作って、地面に横たわった。
人形の頭部と思われる部分の天辺の中央に、黒い石が張り付いているのが見える。
「行け、ゴーレムよ! 片っ端から叩き潰せ!」とヤマモトが叫ぶ。
全身が大小の四角い石で組み立てられた人形が、立ち上がって動き出す。
普通の大人の二倍はある大きさだ。
その人形は、あたりかまわず村の建物を破壊し、暴れ始めた。
「モンスターだ!」と叫びながら村人たちが逃げていく。
「俺にまかせろ!」とその場にいた筋骨たくましい若者が挑むが、たちまちゴーレムに吹っ飛ばされ冒険者ギルドの壁に叩きつけられた。
他にゴーレムに立ち向かうものはいない。
ケンたちの方にゴーレムが近づいて来る。
冒険者ギルドの掲示板は、周りが家屋で囲まれている場所にあり袋小路だ。
「ウィンドアロー!」とナオミが呪文を唱えて、魔法で風の矢をゴーレムに放つ。
ゴーレムに命中するが、少しぐらついただけで、あまり効果がないようだ。
ゴーレムが腕を振り回しながら、ゆっくりと近づいてくる。
「あれ……」ナオミは一瞬めまいがして、体がふらついた。
ケンはナオミとハナを守ろうと、剣を鞘から抜いてかまえた。
しかし、あの巨大なゴーレムを倒せるだろうかと、額に汗を浮かべている。
すると、突然、ケンの後ろにいたハナが斧を持って前方に走りだした。
「おい、ハナやめろ!」とケンが止めようとするが、間に合わない。
ハナは斧を持ってゴーレムに向かって、もの凄い速さで砂煙をあげながら突進する。
ゴーレムが片腕を上げた。
狙いはハナだ。
ハナを叩き潰そうと、石で出来た拳を振り下ろす。
「ハナちゃん、危ない!」とナオミが悲鳴をあげた。
ゴーレムの拳が自分の頭に当たる寸前、ハナはさっと横によけると同時に軽やかに跳躍した。
巨大なゴーレムの頭部あたりまで飛び上がる。
空中でハナは大きく振りかぶって、斧をゴーレムの頭部に叩きつけた。
ガン! と打撃音がしてゴーレムの頭部は粉々に割れる。
ハナはそのまま、スッと平然な顔をして地面に着地。
ゴーレムの体がバラバラに崩れていく。
そして、地面には瓦礫の山が残された。
「凄い、あの巨大なゴーレムを一撃で倒すなんて」と信じられない光景にケンとナオミは呆然と突っ立っている。
ヤマモトがゴーレムの頭頂部にあった黒い石をスイッと手元に戻した。
手のひらに戻した黒い石は割れている。
「黒魔石ごとゴーレムの頭部を破壊するとは、信じられん。これじゃあ、役に立たん!」と叫んだ後、ヤマモトは焦った表情をしながら、
「くそ、一旦、神殿に退却だ!」とバタバタと走りながら、かっこ悪く逃げていった。
「ナオミ、大丈夫か」とケンがナオミが聞く。
「えっ、なに?」
「さっき、ちょっとふらついてたけど」
「ああ、ほんのちょっとめまいがしただけ。全然、大丈夫」とナオミが答える。
ハナが斧を担ぎながら得意満面で、ケンにパタパタと走り寄って来た。
手のひらをケンに見せて、「お金、お金」と話しかける。
「え、お金?」と戸惑うケン。
「モンスター倒した。お金くれ」とハナがケンの服の袖を引っ張ってねだる。
「いや、俺に言われても」とケンがとまどっていると、ナオミがハナに向かって、
「ハナちゃん、大活躍だったけど、冒険者ギルドに登録してないから、報酬、つまりお金は貰えないよ」と教えてあげた。
すると、ハナはがっかりした顔をして、
「そうか」と言ったきり、斧を持ってその場で立ったまま、しょんぼりとしている。
そのハナを見て、
「俺たちのパーティに入れてやろう」とケンがナオミに持ちかけた。
「え、大丈夫なの?」
「今の見ただろ。あの巨大なゴーレムを一撃で倒したんだぜ」
「けど、まだ小さい女の子じゃないの」とナオミが心配そうな顔をする。
「だって、こんな怪力の冒険者って、俺、見たことないよ」と言った後、ケンはハナに向かって、
「ハナ、俺の名前はケン。職業は剣士だ。俺たちと一緒に冒険しようぜ!」と呼びかけると、
「冒険者! 冒険者!」とハナが嬉しそうに飛び跳ねる。
それを見て、ナオミも承知せざるを得なくなった。
「ハナちゃん、私の名前はナオミ。魔法使い。よろしくね」と言うと、
「あたし、木こり。ヨロシク」とハナはケンとナオミ向かって、丁寧に頭を下げた。




