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第一話:出会い

 剣と魔法の国、ナロード王国のウラーワ村。

 そろそろ秋になろうかという季節の午後、穏やかな陽の光が村を照らしていた。

 村の奥まった場所にある冒険者ギルドの掲示板を、二人連れの男女が眺めている。

 二人とも革製の冒険服を着ている。

 目当ては、他の冒険者からの求職依頼だ。

「できれば攻撃力の強いウォリアーをパーティの仲間にしたいんだけど」と剣士のケンが一緒に掲示板を見ている少女に話かける。

 同じ冒険者パーティで行動していた剣士のジョージが、前回の仕事の帰りに大怪我をして実家に帰ってしまったので、このウラーワ村の冒険者ギルドで代わりになる仲間を探しているのだが、どうせなら力の強い人にしたいとケンは考えていた。

 ケンは自分の剣技に一応自信を持っているが、少し打撃力が足りないと先輩格のジョージに忠告されたことを気にしていた。

「うーん、なかなか良さそうな人がいないね」と魔法使いのナオミが掲示板を見ながら、ケンに答える。

 ナオミは魔法使いだが、他の魔法使いが通常着るようなローブは着用していない。

 革製の上着にズボンを履いている。

 その恰好の方が動きやすいからと本人は言っている。

 活発な女の子だ。

 ケンとナオミは幼馴染で同い年、まるで兄妹のように育ったので、気軽に意見を言い合える仲だ。

 ケンはちらりとナオミの横顔を見る。

 長いきれいな黒髪をポニーテールにしていて、顔は鼻筋も通っていて、性格も明るく、優しい。

 ちょっと頑固なところがあるけれど。

 本当は恋人にしたいくらいだけど、幼馴染なんで何となく気恥ずかしくて、ケンは自分の気持ちを言い出せないままになっている。


 二人が掲示板を引き続きじっくり見ていると、ケンの腰を誰かが手で叩いた。

 ケンが後ろを振り向く。

 誰もいないと思いつつ下を見ると、背が低く金色の髪の毛をボサボサにしている女の子が、ケンを見上げていた。

 巨大な斧を肩に担いでいて、刃渡りはその子の顔の二倍ぐらいある。

 柄も含めると本人の背丈より大きい斧だ。

 白い長袖シャツ、灰色のくるぶしまであるスカートに作業用の茶色いエプロンを着ている。

 エプロンの正面には大きいポケットが付いていて、その上にライチョウの大きい絵の刺繍がしてある。

「冒険者。仲間。役に立つ」と片言で話しかけながら、その女の子はムスッとした顔をして、大きな目でケンを見上げている。

 女の子がふざけているのかと思ったケンは、再び掲示板の方へ顔を戻した。

「キャ!」とナオミが声を上げた。

 今度はナオミがお尻を叩かれた。

 ナオミが振り向くと、さっきの女の子がまだいる。

「力強い。役に立つ。仲間! 仲間!」とその子が片腕を曲げて、力こぶを見せるような仕草をした。

「えーと、どうしよう」とナオミがケンに困った顔で聞く。

「お嬢ちゃん、子供の遊びは他の場所でやってくれないかなあ」とケンは優しく女の子に言い聞かせるが、

「遊んでない。子供でも働く。仲間!」と女の子は相変わらずムスッとした顔をしている。

「私たちは冒険者を探しているの」とナオミが体をかがんで、女の子に顔を近づけて言ったが、

「モンスター倒す。慣れている。負けたこと無い」と女の子は言い張った。

「参ったなあ」と頭をかきながら失笑するケン。

 しかし、女の子は真剣な顔をして、二人を見上げている。

「あなた、お名前は?」とナオミが聞くと、

「ハナ」と女の子は答える。

「うーん、職業は何?」とケンが質問する。

「木こり」と言いながら、ハナと名乗る女の子はケンたちに自分が持っている斧を誇らしげに見せた。

「ハナちゃん、私たちは木こりさんじゃなくて、強い剣士かウォリアー、闘士を探しているの」とナオミがハナにわからせようとするが、

「あたし、強い木こり」と少し自信ありげに、ハナは片手で斧を突き出す。

「困ったなあ」と顔を見合わすケンとナオミ。

「仲間! 仲間!」と言いながら、再び真剣な顔でハナはケンとナオミを見上げている。


 それにしても、随分デカい斧だなあと思ったケンは、

「ちょっとその斧を貸してくれない」と頼むとハナは無言で斧をケンの方へ差し出した。

 ケンが片手で斧を受け取ると、そのあまりの重さに、

「うわ!」と声を出して斧を掴んだまま、重さに耐えきれず、そのまま前方に引っ繰り返ってしまった。

「アハハ!」その、滑稽さにナオミは思わず笑う。

「笑うなよ~」とバツの悪い顔をして服に付いた土を手で払いながら、ケンは立ち上がった。

 すると、ハナは地面に刺さった斧を片手でひょいと持ち上げる。

 小さいハナのどこにこんな怪力があるのかと、ケンは驚いた。

 ハナは、「仲間! 仲間!」と言い続ける。

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