第十六話:スガーモ神殿
翌日は快晴。
馬車をスガーモ市の役場近くに停めて、後は徒歩。
ケンたちは、トゲヌーキ神殿の前の通りを歩く。
お年寄りが多いなあとケンは思った。
通りに並ぶ店で、いろんなお菓子を売っている。
「おい、ナオミ、うまそうなのが売っているぞ」
魚の形をした中に、甘い物がはいっているお菓子のようだ。
ハナがケンとナオミを見上げて、
「今、仕事中」と言ったが、
「これくらい、いいじゃないか。それに衛士隊にはちゃんと報告書を渡したし、冒険者ギルドから依頼された件は終了した。これは独自調査だ」とケンは言い訳する。
一個買って、三人で分けることにした。
頭の部分はナオミ、胴体はハナ、尻尾はケン。
「これ、甘くて美味しい」とナオミが言うと、
「甘くないぞ」とケンが不満そうだ。
「皮だけで中身入ってないじゃん」とナオミが指摘すると、
「あ、チキショウ、いんちきだ」とケンが悔しがる。
「アハハ!」と笑うナオミ。
すると、まだ口をつけていないハナが、お菓子をケンに差し出した。
「あげる」
「ハナは優しいなあ、おお、これは美味しい」とケンが喜んでいる。
「ハナちゃん、ケンをあんまり甘やかせないで」とナオミが釘をさすと、
「何だよ、自分もバクバク食べてたじゃないか。甘い物食べると太るぞ、って言うか、最近太ってないか、ナオミ」
「なにー、今の発言は許せん!」とケンの頭をポカポカ殴る。
「痛い、痛い」と逃げ出すケン。
追いかけるナオミ。
ふざけているケンとナオミをしょうがないなあという顔でハナも追いかける。
赤い物ばっかり売っている衣料品店があった。
「赤いパンツが売ってるよ、ケンも買う?」
「俺はまだ爺さんじゃないぞ」とケンが怒ってナオミを追いかける。
またもや、ふざけているケンとナオミを、しょうがないなあという顔でハナも追いかける。
トゲヌーキ神殿に到着した。
こじんまりと神殿だ。
黒い門をくぐると、お爺さんやお婆さんが大勢いる。
ハナくらいの背の高さの神様の像に、皆、紙を貼っている。
病気回復の祈願をしているようだ。
お婆さんがハナを見て、
「これはかわいい女の子じゃのう」と近づいて来た。
「どっから来た」
「ナガーノ山」とハナが答える。
「ずいぶん遠いとこから来たんじゃのう」
「うちの孫もこれくらいじゃ」
お爺さん、お婆さんたちが、ハナが珍しいのか集まって来た。
ハナはみんなに可愛がられて、ちょっと恥ずかしがっている。
集まって来た人たちに、
「ここら辺の神殿はこのトゲヌーキ神殿だけですか」とケンが聞くと、
「そうじゃよ」と皆、口をそろえて言う。
この小さい神殿がタナカと関係あるとは思えないなあとケンたちが話あっていると、
「ああ、そう言えばスガーモ神殿があるな」と言って、お爺さんやお婆さんたちが笑う。
「え、スガーモ神殿!」と驚くケンとナオミ。
「神殿じゃないけどな」とお爺さんが指さす方向にでかい建物が見える。
「神殿じゃないってどういう事ですか」
「あだ名だよ」
トゲヌーキ神殿から西の方へ少し離れた場所に、真四角の立方体の巨大な建物が見える。
隣の空き地にはコンクリートブロックがいっぱい放置されているとのことだ。
スガーモ神殿とあだ名で呼ばれている。
最近、急に建設されたタナカコーポレーションの記念碑だそうだ。
タナカってあの黒幕容疑者のタナカと関係あるのかなあとケンは思った。
入り口とかは無いそうで、ただ、コンクリートブロックを積み上げているだけみたいだ。
屋上に展望台があるだけで、そこに行くためには建物の端に一つだけある梯子で上るしかない。
展望台に上ったことがあるという土産物屋の若い人に聞くと、
「広い屋上だが、周りに柵があっただけだよ。見晴らしは良かったけど」
「なにか、他にありませんでしたか」
しばらく考えて、
「たしか、中央に穴があいていた。拳が入るくらい。雨が降ったときの排水口じゃねーかな。なんで中央にあるのかわからないけど」とその若者は言った。
「ちょっと、行ってみよう」とケンたちは、スガーモ神殿と言われている建物に向かう。
タナカとあのバカでかい建物が関係しているとすると、なんで建てたんだろうとケンとナオミがはなしあっていると、
「ガンタイ」とハナが指さした。
黒い眼帯をした男が大きい鞄を持って歩いている。
「タナカだ」とケンが叫んだ。
「あ、お前たちか」と後ろを振り向いたタナカも気づいた。
「待て、タナカ」とケンたちは追いかける。
「くそ!」とタナカがまた砂嵐攻撃。
三人が目を瞑っているあいだに、タナカがスガーモ神殿に走って逃げる。
砂嵐はすぐに止んだ。
タナカは少し、よろけている。
やっぱり、神聖魔法師のスズキさんが推測していた通り、タナカは弱っているのかとナオミは思った。
さらに、追いかけるケンたち。
タナカはスガーモ神殿の梯子を登って行く。
タナカが、梯子の途中で大きな黒魔石を投げる。
巨大なゴーレムが現れた。
大人の三人分の背丈の巨大ゴーレムだ。
「ナオミは衛士隊に連絡してくれ」とケンが叫ぶ。
「わかった」とナオミはスガーモ市衛士隊支部まで走って行く。
デカいゴーレムが拳を振り上げて、ケンとハナに襲いかかった。
二人は左右によける。
ゴーレムの拳が地面に叩きつけられる。
地面に大穴が出来た。
ハナが跳躍するが、この前のウラーワ村の時のようにゴーレムの頭の上までは届かない。
斧で胸辺りを破壊するが、まだゴーレムは動いている。
ケンはゴーレムの膝辺りを、剣で叩く。
ゴーレムが斜めに傾いた。
そこに、ハナがもう一度、跳躍した。
ガンッと音を立てて、ゴーレムの頭部を斧で破壊。
天辺にある黒魔石も同時に破壊した。
ゴーレムが崩れ落ちる。
「やったな、ハナ!」
腕を振り上げるハナ。
ハナとケンがゴーレムと戦っている間にタナカはスガーモ神殿の屋上へ登り、梯子を外して地面に落とす。
屋上へ登れないようにしてしまった。
ケンとハナがスガーモ神殿近くまで来ると、タナカが黒魔石を上からばら撒く。
空き地のコンクリートブロックがゴーレムに変身する。
さきほどのと同じくらいの大型のゴーレムが、スガーモ神殿を取り囲む。
三十体はいる。
まるでゴーレムの軍団だ。
しかし、攻撃してこない。
ここで籠城するつもりかなあとケンは思った。
ケンとハナはタナカが逃げないように見張っている。
屋上で、タナカが何かしているようだが、高くて見えない。
ナオミが戻って来た。
ちょっとよろける。
「大丈夫か、ナオミ、また黒魔石のせいか」とケンが心配して声をかけたが、
「違う、走ったんで、ちょっと疲れただけ。それより、軍隊がやって来るみたい」
それを聞いて、
「タナカ、軍隊が来るみたいだ。もう、降参した方がいいぞ!」とケンが怒鳴ると、
「うるさい!」とタナカが鞄を屋上から投げつけてきた。
地面に落ちたカバンから、ガラスの割れる音がして、水が噴き出す。
カバンの中には割れた大きなガラス瓶が入っていた。
どうやらタナカは黒魔石を運んでいたらしい。
「鞄を投げて攻撃なんて、もう魔力が尽きかけているのかなあ」とナオミが言った。
「俺たちが見張っているあいだに、屋上で何かしていた雰囲気なんだけど」
「けど、どうするつもりだろう。梯子まで外したら、あそこから逃げられない」
「うん」とハナもうなづいた。




