屋敷から実家
アイデアを忘れないうちに文字に…!
「アッシュよ、修練場に行くぞ!」
「Oh…デジャビュ……」
じいちゃんに連れられて今日も日が昇る前に修練場へ。
明日の早朝に馬車に乗って帰るから、今日がじいちゃんに色々と教われる最後の日だ。
そして当分は時間を体力作りに当てるべきだそうで、だだっ広い修練場を2人でマラソンしている。
走り始めて15分も経たないうちに疲れてきた。まあ子供の体力だもんな。
元気に先導するじいちゃんは、俺のペースが落ちているのに気づいたようで振り返って戻ってくる。
「疲れてきたか、アッシュ」
「もう、限界、だよ」
「よしじゃあ後5分頑張ったら終わろうかの」
「うへぇ」
本当にしんどい。中高生なら5分程度、となるかもしれないが身長が1mくらいしかない俺は限界の電池の容量も小さいのだ。
走ってるのか歩いてるのか分からない速度で地獄の5分を終えた俺は15分の休憩を与えられた後、木剣を持たされてじいちゃんの素振りを真似していた。
もう1時間くらい休みたいんですが。ダメですか?あ、ダメ?時間が無いもんね。
「次に肘を少しだけ上に持ち上げ、そこから一気に振り下ろすのじゃ。ポイントは下に向かって降るのではなく、こうして剣を身体に引き寄せるようにして敵を斬るのじゃ」
じいちゃんが俺の背中から覆い被さるようにして両腕を掴み、正しい素振りの型になるよう操作している。
「よし、もう一回やってみい」
「わかったよ」
えーと、目の前の敵を右上から左下に斬るイメージで。
構えて、斬る!
「もう少しじゃの。手の動きはいいんじゃが足が付いてこなかったのう」
「えー、今の完璧だと思ったのに」
「完璧というのはこういうんじゃな、アッシュよ木剣を一度貸してくれるかの」
「ほい」
5歳が使う用だけあって筋肉に包まれたじいちゃんにはどう見てもサイズ比がおかしいが取り敢えず渡す。
「じゃあいくぞ、よく見ておれ」
じいちゃんにとってはずいぶんと短い剣を持った途端---
「うわぁ!!」
巨大化した!と錯覚するほどの圧迫感がじいちゃんから噴き出して俺の身体が重くなる。そして何より、
「け、剣が見える……?」
子供用のちゃっちい木剣だったはずなのに、まるで真剣の如く鋭く伸びる透明な剣身が、俺の目に見えているのだ。
「アッシュよ、これが剣士の1つの到達点でもある剣気じゃ。魔法とは別の、気という力を極めることでこんなことも出来るのじゃ」
オーラのようなもので型どられた剣を持ったじいちゃんは、20mほど離れた弓矢練習用の的に向かって真横に一閃する。
スッ
3秒経ち、音という音がしないまま的が半分になって地面に落ちた。
「す、すごい…」
呼吸も忘れて魅入ってしまった。衝撃だった。
魔力を使わずにこんな事が出来るなんて。
この世界は魔法が支配しているかと思ったが、この光景を見てしまうとそんな風には全然思えない。
じいちゃんが体力作りを勧める理由がよく分かる。いくら強い魔法が撃てたとしても、これじゃあ近づかれたら終わりだ。
近づかれなくても場合によっては遠くから真っ二つにされてしまう。
逃げる為の体力と対抗する為の技術を獲得しなければ。
「おじいちゃん!僕、やるよ!もっと厳しく教えてほしい!」
「お、やる気になったのう。ええぞ、その調子じゃ。じゃが先に朝ごはんじゃな」
「はぁっ……はっ……」
「さすがに飲み込みが早いのう。家に帰っても教えた基礎練習はしっかりと続けるんじゃぞ」
「…うんっ……はぁっ……」
もう無理。基本の基本をなんとか形にしてもらって、自分一人で出来るようにはなったけど……
体力の消費が尋常じゃなく早い。
正しい型で数回振っただけでマラソン並みに疲れ果ててしまった。じいちゃんが言うには、持久力と瞬発力が人並みはずれた水準にないと、まともに訓練も出来ないそうだ。
なにより、センスが無いと一生理解できない剣術らしい。その点俺は、基本中の基本をじいちゃんからのお墨付きを貰えたからセンスがある方なのだろう。良かった。
「何度も言うがの、この流派は体力が命じゃ。まずは体力を増やすんじゃぞ」
「分かったよ…おじいちゃん。聞いてなかったけど…この流派の名前って…?」
見上げた俺にじいちゃんは唇をニッと歪めて言った。
「ベルホワイト流剣術じゃ」
聞いた事ない。
お昼ご飯を食べた後はばあちゃんとの魔法の訓練だ。ここからは身体強化も使っていく。魔力を使う訓練とあって、じいちゃんだけの時には使わせてもらえなかったのだ。
「身体強化!よし!」
100%効率いい魔力配分ではないけれど、今できる最高の身体強化だ。魔力操作には自信があるからね、ある程度はすぐにこなせる様になるんだ。
パワーアップした状態で体を慣らしている俺の側でばあちゃんとじいちゃんが話している。
「そうですか、もう基本を教えたのですね」
「まだ足りない物は沢山あるがの」
「ベルホワイト流は体力勝負ですものね」
再び名前が出てきたので手を上げて質問する。
「そのベルホワイト流って誰が作ったの?」
「おじいちゃんのおじいちゃんじゃな。まだアルグレイという名を陛下から賜る前に戦争で武勲を上げた、ケーントー・ベルホワイトが使っていた剣術じゃ。そしてそれを4代に渡って受け継いでいるのがアッシュの産まれたアルグレイ家じゃ。アッシュもこの流派を会得したなら5代目になるの」
へぇ、うちの家系の剣術なんだ。なるほ---
「それにね、ケーントー・ベルホワイト様は1人で万の軍勢と互角に戦った英雄とも言うべきお方なのよ。圧倒的な殲滅力は比類する者なく、剣の一振りは竜巻を起こすとも言われていて、王国では絵本にもなっているんだから」
どうしたばあちゃん。急に話の熱量が上がったけど。
ばあちゃんの勢いに戸惑っているとじいちゃんが俺の耳元で囁いた。
「ばあさんは大ファンなんじゃ。一度話すと止まらなくなるから次から気をつけるんじゃぞ」
「う、うん」
「それでね------」
ばあちゃん、若いな。
15分後、元に(?)戻ったばあちゃんからしっかりと魔力の操作や運用、増やし方など王国でもトップクラスの魔法使いしか知らない情報を基に魔法の訓練をしていると、あっという間に日が暮れてしまった。
アーチの天井に取り付けられた魔道具が照らす食堂で、家族5人が揃って食事をしていた。
「アッシュちゃん今日はどんなことをしたの?」
「ベルホワイト流剣術の基礎を教えてもらったんだけどね、すぐに疲れちゃって全然できなかった」
「もうやり始めてるのか。早すぎないか?」
「教えたのは基礎の基礎だけじゃ。それに体力をつけるのが先と教えてあるぞい」
そういえば4代続いてるってことはパパンも流派を受け継いでるってことだよな。
「父さまも剣を飛ばすやつって出来るの?」
「飛ばす…あぁ飛斬か、出来るぞ。何故それをって、父さん。孫に良いところを見せたくなったのか?」
「ほっほっほ、目標があるっていいじゃろ?」
「うん!あれ出来るようになりたい!」
「アッシュならすぐに習得しそうじゃの」
王都での最後の夜が更けていった。
「それじゃあ元気での」
「またね、アッシュちゃん」
「じゃあね、おじいちゃん、おばあちゃん!」
2日間お世話になった屋敷の門の前で、馬車の窓から顔を出して挨拶する。2年後に学院に通う時にはまた屋敷にお世話になるのだが、それはそれだ。
パパンとママンもお別れの挨拶をして馬車に乗り込み、行きと同じ全員揃った馬車が石畳の道の上を進んでいく。
まだ太陽が昇らない時間だけあって人の活動も少ない。門から出るのは俺たちの様に遠出する馬車や、武装した冒険者達などがちらほらと見られる。
今日何も起こらなければ日が暮れるころには家に着くそうだ。
何も起こらなければ?
「旦那様、東の方向1km先に多数の魔物がいます。数はおよそ30です」
「うーん、風向き考えるとこちらの存在がバレていると考えた方が良さそうだな。ありがとう、メリッサ」
回収してしまいました。
現在は領地近くの広めの森を進んだ、整地された道にいるのだが、馬に乗った護衛の兵士達と共に警戒していたママン専属メイドのメリッサが魔物の気配に気づいたようで、馬車をノックしてその事を伝えてきた。
「どうする?あなた」
「俺が出よう。ちょうどアッシュに見せたいものもあるしな」
「じゃあ撃ち漏らしがあれば私が処理しておくわね」
「ああ、ありがとう。アッシュ、見ておけよ」
「うん、わかった!」
パパンが何かを見せてくれるらしい。剣気かな?
どんなのか想像していると、再びメリッサが声をかけてきた。
「旦那様、やはり気づかれていたようです。5分後に接敵します」
「ああ、了解した。今回は俺が出るから邪魔にならないように離れるように護衛に伝えてくれ」
「かしこまりました」
メリッサはそれを聞いて素直に下がったが、ふと思う。
護衛の意味ないじゃん。
広場のようになった一角に馬車を止め、ここで戦うようだ。パパンは車内に立て掛けていた剣を手に取り、外に出て鞘から抜いた。
ドン!
「うひっ」
変な声が出ちゃった。
パパンの剣気がまるで空気砲で撃ち抜かれたかのように俺の体を通り抜けていった。
パパンの方から最近味わったのと似た重圧がのしかかり、動きすら阻害されたように感じる。
いや、事実動きが鈍っていると思ったら急に体が軽くなった。
「おっとすまんすまん。久しぶりで抑えが効かなかったよ」
ゼッテー嘘だ!申し訳なく思うならそのニヤケ顔を止めるんだ!
どうだ?パパ凄いだろう?って顔を止めるんだ!
「凄いね!一回死んじゃったかと思ったよ!」
「だろう?父さまは凄いんだぞ!」
「……あなた?」
「…さて、準備運動でもするかな」
ママンの冷ややかな声がパパンに突き刺さり、それまでの調子に乗った元気さが一気に鎮火した。うん、真面目が一番だよね。
5分が経つころ獣が近づいてくる気配が強くなった。嘘です。気配とか分かりません。
答えから言うと、光魔法を使って空からの景色を網膜に映しているだけです。
視点調節自由、フォーカス合わせ放題、光が届く限り射程無限という、お天道様が見ているぞ!状態を気軽に出来る魔法なのだ。
お天道様が悪用しようと思えばいくらでも出来るんですけどね。
これとレーザー系魔法を使ったら相手は敵に気づけぬまま死ぬというのが達成されるね。
達成目標にしている訳ではないけれど。
この魔法で迫る魔物は灰色の毛の狼だってことも判っているし、もう木々の間から肉眼で見える距離まで近づいているのもバッチリと把握している。
パパンに任せれば難なく終わると思うから今回は見てるだけにするけど。
「来たぞ!グレーウルフだ!リーダー種なし!」
遂に登場したようだ。
名前はグレーウルフと言うのか。
パパンが言ったリーダー種とは、一定規模の群れを率いる強力な個体を指す言葉で、リーダー種がいるといないとじゃ討伐難易度が随分と変わるらしい。
今回はいないらしいのであっという間に終わるだろう。
「ガウッ」
「ォォォォン!」
狼達は馬車を取り囲むこともせずに正面から突っ込んで来た。これがリーダー種の率いる集団だと組織的な動きで翻弄してくるので、360度警戒しなくてはならないらしい。
「はっ!」
正面から対峙するパパンは剣を振り上げ、オーラを纏った剣を目にも留まらぬ速度で振り抜く。
不可視の斬撃は先頭を走る10頭を半分に裂いて即死させ、後続の足を止めさせた。
未知の攻撃に警戒して、ただウロつくだけの獲物に容赦しないのは判っているのでパパンの動きをよく見て分析する。
次はどんな攻撃をするのか。
「よっと」
「消えた!?」
まるで縮地だ。パパンが一瞬にして掻き消えたと思ったら1体の狼の首を切り飛ばしていて、その瞬間には次の狼の首を胴体とオサラバさせていた。5秒とかからずに更に10体を殺してしまった。
「アッシュ、次は大技行くぞ!どういう仕組みなのか分かるかな?」
パパンが残り10体となった狼に向かって剣を構えて眼を閉じる。仲間が殺されて随分と目減りした狼達は、表情を恐怖に染めながらも逃げられないと悟ったのかなりふり構わず突進してきた。
どんどん近づく狼に対してパパンはまだ動かない。
まだ。まだ---
「---!」
目をカッと開いたパパンからは何も感じなかった。
だが、走っていた狼は生命を失ったかのように膝をガクッと折って力尽き、地面を転がりパパンのそばで動かなくなった。
「よし、これで全部倒したかな」
「はい、周囲に魔物はいません」
「マリー、コイツらを燃やしておいてくれるか?」
「あなた、私の分を残しておいてくれなかったの?」
「いや、それは撃ち漏らしたらって約束じゃ」
「まあいいけどね、さっさと終わらせてしまうわ。《焼却》」
ママンの手から放たれた丸いオレンジの炎が30に分裂し、狼全てに降りかかりその骸を燃やし始めた。
一切血の付いていない剣を振って鞘に収めたパパンが声をかけてくる。
「アッシュ、最後は何をしたか分かったか?」
「ううん、全くわからなかった。血が出てないから剣で斬った訳じゃないんだろうし」
「ヒントとしては剣気、だな」
剣気。
木の枝すら真剣にしてしまう。
斬撃を飛ばす。
身体に負荷がかかるあの圧力。
ここからさっきのを分析すると……
「うーん、剣気を飛ばして……どうするんだろ」
はっはっはと笑ったパパンはその大きな手で頭を撫でてきた。
「さっきアッシュが感じたあの重圧があるだろ?」
「うん」
「あれをもっと圧縮して狼に向かって殺すって意思と共にぶつけるんだ。まあ結構概念的な技だから分からないとは思うけどな」
「そんなのできる気がしないよ」
「俺もやろうと思ってから確立するまで10年はかかったからな。だが素材を傷付けずに回収できるから出来ると便利だぞ」
「ほえー、先の長い話だね」
「アッシュちゃん、あなた、そろそろ行くわよ」
「はい、母さま」
「おう、ありがとうマリー」
狼からは特に価値のある素材は採れないそうで、ママンが燃やし尽くして再度出発する。
今の戦いは30分もかからずに終わったので今日中に帰れるのは変わらないそうだ。良かった。
「ただいまー」
帰ってきた!ビバ!家!
馬車は疲れるね!1日座りっぱなしってのが辛い。まだ子供の身長だから立ち上がって血流を巡らせることが出来たけど。
本当のことを言うとヒールでちょくちょく回復させていたから精神的な疲れしかないけど。
でも今日は疲れたから寝る!お風呂に入ってないけど寝るのさ!おやすみ!




