儀式
定期更新めざしたい
4歳になった。正確には4歳と11ヶ月ほど。もう少しで5歳になり、神殿へステータスを確認しにいく。俺はもう自分のステータスを知っているが、普通は子供の初めての晴れ舞台を家族総出で見に行く一大イベントになっているらしい。
この4年で魔法もだいぶ使いこなせるようになってきている。使う場面があればまた紹介したい。直接目にしていなくても周りの様子を確かめることのできる魔法とか光学迷彩ぽいのとかも習得したのだ。
神殿で確認するのがあと1週間に迫った今日、家の中では疲れた様子を見せる男の子が1人。俺だ。
「かあさま、あとなんかい着替えればいいのですか?」
「アッシュちゃんに一番似合うのが見つかるまでよ!」
「もう20着くらいためしているじゃないですか…」
「うーん、灰色の髪色だから似合うのはやっぱりこっちかしらねぇ。いやでもこっちもありなのよねぇ」
ママン聞いてないし。なんでも神殿に行く時には皆おめかしをするのが一般的らしい。中でも貴族は親が力を入れて自慢の子を見せびらかしながら向かうとか。うちもそうだが。
「ねぇ、メリー、これとこれならどっちがいいかしら」
「アッシュ様にはこの黒ベースの方が見栄えも良く周りからも一目置かれることでしょう」
「そうよねぇ…決めたわ!アッシュちゃん!こっちの黒い方を着てちょうだい!」
「わかったよかあさま」
いつも通りマリーの側でアッシュの着替えの手伝いをしていたメリッサの意見もありようやく服が決まったようだ。
服を着てママンに見せる。
「どうかなかあさま」
「もおおおお一番可愛いすぎるわアッシュちゃん!すっごい一番よ!」
言葉になってない言葉を発しながら目をキラキラと輝かせたママンに抱きつかれる。頭をなでりこされるがままになっていると、ドアを開けてパパンがやってきた。
「おぉ、決まってるなアッシュ。着替えが終わったなら持っていくものを決めておけ。これから1週間近く家に帰ってこないぞ」
「え?そうなの?」
そんなにかかるもんなの?
「あぁ、言ってなかったな。これから行く事になる神殿は王都にあるんだ。それで、このアルグレイ家から王都までは馬車で2日かかる。途中通る村で1泊して2日目に王都に入る計算だ。何かあって遅れても大丈夫なように少し早めに出るんだ」
王都!立派なお城があったりするのかな。
ママンも口を開く。
「それで王都に着いたらおじいちゃんの家にお泊まりするのよ」
「おじいちゃん?」
「えぇ。アッシュちゃんのお父さんのお父さんよ」
言葉の意味は知っているのだが、俺におじいちゃんがいるのか。楽しみだな。どんな人なのだろう。
馬車が進む。
2頭の馬に引かれた幌馬車が数名の護衛を引き連れて王都への舗装された道を進んでいた。馬車の中には3名の人影があった。
「もうすぐ王都が見えるはずだぞアッシュ。ほら見てみろ。あれが王都だ」
「うわぁおっきいね!奥の方に見えるのって…」
「そうよ。あれが王様が住んでいるお城よ」
「かっこいいね!」
王都の城壁越しに尖塔が見えるんだが、縮尺が分からなくなるほど大きいのがこの距離からでも明らかで、王の威光を内外に示しているようだ。とにかく大きい。昔、ドイツのノイシュバンシュタイン城を見たときくらいの衝撃を感じた。
城壁を越えて王城の方向へ向かって進む。危ないという理由で馬車から顔を出すことは叶わなかったが、活気ある空気が馬車の壁越しに伝わってきている。老若男女の声がそこかしこから聞こえてきている。
門をいくつか通過して段々と静かな場所になってきている。もうすぐおじいちゃんの家に着くそうだ。
「着きました。今ドアを開けます」
外でメリッサの声がする。どうやらおじいちゃん家に着いたらしい。パパンとママンが外に出る準備をする。俺も持ち物なんてないけど外に出る準備をする。
メリッサに連れられて外に出る。
大きい。王城とはもちろん比べ物にならないが、立派な屋敷だ。華美な装飾とかはないが、噴水であったり花壇や生えそろった木々など自然の配置がバランスいいのだろうか一見質素に見えるが実は荘厳な雰囲気も出ている。
両開きのドアを開いて中に入っていく。
勝手を知ってるパパンが案内にきた執事と話しながら先を進んでいる。おじいちゃんのところへ直行するようだ。
「おじいちゃんはどこにいるのですか?」
「修練場にいるらしい。まったく衰えないよな」
おじいちゃん武闘派が確定しました。今まで勝手にイメージしてた柔和なおじいちゃん像が崩れてゆく。
修練場についた。広いが地面と弓矢用だろうか丸い的くらいしかない。
そこには2人の人物がいた。1人は自身の身長ほどもある大剣を振り回して素振りをしている老人。すごい、剣を振る度に風が巻き起こっている。もう1人は修練場にある縁に座ってお茶を飲んでいるおばあさん。
「父さん、母さん、来たよ」
「おぉ、ブレイドよ、思ったより早かったのぉ」
「順調に来れたんだ。今日は父さんの孫を連れて来たよ。アッシュ、挨拶」
「はじめまして、アッシュ・アルグレイです」
「元気な挨拶でよいのう。アッシュのおじいちゃんのギルファンドじゃ。そして横にいるのが」
「おばあちゃんのテレーズよ。テレーズおばあちゃんと呼んでちょうだい。アッシュちゃん」
やはりこの2人がおじいちゃんおばあちゃんだったようだ。おじいちゃんは厳つい顔と父さんに負けない程の筋肉に包まれた体で年齢を感じさせない。おばあちゃんは若い頃は美人さんだったろうなと思わせる面影があり、優しい目でこちらを見ている。
2人にお世話になりながら数日が経ち、神殿へ向かう時間になった。一緒に行くのは父母メイド、祖父母の5人と従者が数名だ。
しかしみんなは喋っているだけでなかなか出発しないので聞いてみる。
「かあさま、早く神殿へ行かないのですか?」
「そうね、そろそろ行きましょうか。それではテレーズさんお願いしますわ」
ママンがテレーズおばあちゃんに向かって頭を軽く下げる。何をおばあちゃんにお願いしたのだろう、と首を傾げていると、そのテレーズおばあちゃんがこちらに手を伸ばしながら話しかけてきた。
「アッシュちゃん、今から転移をするのよ。すぐに神殿に着くけれど、慣れないとバランスを崩して危ないから手を繋いでいましょうね」
なんと優しげな表情で微笑んでいるテレーズおばあちゃんはこの国に2人しかいない転移魔法使いだそうだ。やはりあるのか転移。俺もやろうと思えば転移的なことはできなくもないと無駄に張り合ってみる。
おばあちゃんと手を繋いで周りを見ると、誰も手を繋いでいない。別に接触してなくても転移できるようだ。おばあちゃんの準備ができたようで魔力の高まりを隣で感じる。
「それじゃあ神殿へ直接転移するわよ。3.2.1」
目の前が暗転したと同時に周りの景色が一変する。今までは屋敷のロビーにいたのに、目の前に見えるのは石造りの壁だ。壁は見上げると随分遠くに天井が見え、真上には宗教画の様なものが天井に直接描かれていることがわかる。
「よくぞいらっしゃいました」
後ろから声をかけられる。振り返ると白い修道服を着た60くらいの女性がこちらに近づいてくるところだった。
「久しぶりだなクレラ。相変わらず元気そうだ」
「相変わらずなのはあなたの方ねギルファンド、それにテレーズも」
どうやらおじいちゃん達の知り合いの様だ。楽しそうに話し始めたところでパパンが口を挟む。
「父さん達も久しぶりで会話が弾むのは分かるけれど、今日の主役を忘れてないかい?」
「おぉ、これはすまんのぅアッシュよ。思わず盛り上がってしまったわい」
「ううん、大丈夫だよ。それよりクレラさんはここの神殿の人なの?」
「ええ、そうよ。ここで司祭をやっているの。そしてあなたのステータス開示の儀式を担当するのも私よ。よろしくねアッシュちゃん」
「はい、よろしくおねがいします」
その後家族を連れ立ってクレラさんと神殿の中を歩いて、控え室の様なところへ連れられた。後10分ほどで儀式をする部屋が開くそうで、そうしたらすぐに儀式が行われるらしい。
しばらく話していると部屋が空くと人が知らせに来た。部屋を出て廊下を歩いていると、儀式を終わらせたのだろう向かいの部屋から同い年くらいの女の子がその子のおじいさんと思しき人と手を繋いでこちらへ歩いて来た。
女の子は可愛い顔をしている。ツインテールにした艶のある青髪を揺らしながらニコニコとおじいさんと喋っている。
こちらに気がつくと話すのをやめ、俺をガン見し始めた。なんだ?何か顔についてるのか?
特に何も言われないので、すれ違いざまにニコリと会釈をして部屋へ向かう。
部屋の中に入ると対面する様に椅子が2脚とその間にテーブルの上に置かれた台座があり、その上に大人の頭ほどの大きさのある水晶が乗っかっている。
クレラさんと向かい合って座り、水晶を見つめる。家族は俺の横に立って見守っている。
そして水晶に手を置くように指示された。手を置くと水晶からステータスが宙に浮かび出るらしい。ディスプレイのように大きく映し出されたステータスが公開される。
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NAME: アッシュ・アルグレイ
RACE: ヒューマン
AGE: 5
ABILITY: 《光魔法》
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神様の言っていた通り《光魔法》だけが表示されている。まぁ騒動の種が思いっきり書かれているからどうしようもないんだが。
「えっ!《光魔法》!?」
「勇者が持っていたとされるスキルか!」
「さすがアッシュちゃんね!私達の子だわ!」
家族達は大騒ぎでこちらが反応に困るほどだ。
王都行きが確定とされたスキルだからな。慌てるのも仕方ないだろう。他人事のようにその様子を眺めていると、クレラ司祭が話しかけてきた。
「アッシュちゃん、《光魔法》の『ライト』って念じてみてくれないかしら」
信じきれないのだろう。《光魔法》の代表とされる魔法を見せるように言われたので、発動させる。家族にも魔法を見せるのが初めてだな。
「『ライト』」
手の平に丸い灯りがつく。LEDをイメージしたので明るい光が部屋を満たす。
「もういいわ。どうやら本当のようね。ギルファンド、これからが大変よきっと」
「あぁ、分かっている。決して間違えたりせん。この子は絶対に守る」
おじいちゃん達が決意を新たにしているのが申し訳ない。これから先どうなるのかと聞いたところ、恐らく、と頭に付いたが、王都の学院に普通に通いその後は魔王討伐の先陣を切るべくどこかで訓練することになるかもしれないとのことだ。
まだ分からないことは沢山あるが、王都の学校に通うのはほぼ確定らしい。そのための勉強をこれからどんどんやるそうだ。うへぇ。
帰りもテレーズおばあちゃんの転移で一瞬で屋敷に戻り、儀式が終わったことでいつもより豪勢な晩ご飯を食べて寝た。
♢
時刻は夜、アッシュが寝た後、魔道具で明るくした室内に大人達が集まり話している。
「アッシュに《光魔法》が出たことは正確に国王様にお伝えする」
「それは避けられないわよね、どんな祝福が与えられたかは義務でお伝えしなくてはならないもの」
「幸い今の国王様は穏健派だから強制連行されることはないだろう。7歳から5年間はしっかりと学院での生活が送れるはずだ」
貴族は7歳になると王都にある王立オールスタッド学院に入学することが推奨されている。推奨とされているが、貴族に生まれた者は総じて入学している。社交の場になっていたり、卒業後のコネを作るために5年間を使う者も少なくないのだ。
「でもブレイドよ、5年間は学校に通えるとして、まずどこから通うんじゃ?学生寮もあるがうちからでも学院は遠くないぞ?うちを貸しても構わないが、その分うちにいる間はアッシュを鍛えることにするがの」
「それは助かる。王都に家を持っていないからどうしようか迷っていたんだ。父さんの庇護下に置かれるなら安心して送り出せる。母さんもそれでいいかな?」
こうしてアッシュは1人眠り、大人たちの夜が更けていった。




