名前と家族構成
亀更新…
「$*K%€○#&!!」
眩しい。意識が戻ってくると同時に女性の声が間近で聞こえた。そして巨人に持ち上げられたかような浮遊感を感じる。
とうとう転生が完了したらしい。一瞬だったなぁ。俺を持ち上げているこの女性はきっと母親か産婆さんなのだろう。
ここには人間が何人かいるようだが、言っている内容はさっぱり分からないからこれから覚えていくしかないのか。
テンプレ的には言語チートで最初から理解できてるのが嬉しいなと思ったがそううまくはいかないようだ。それ系の能力を持ってないしな。地道にいこう。
母親なのかは分からないが声の聞こえた方を見ようと思ったが体は赤ちゃんになったからか違和感があるし目なんて開く気配すらない。大丈夫なのだろうかこれ。いやきっと産まれたばかりだから何もできないのだろう。そうじゃないと困る。
あ。産まれたばかりだった。赤ちゃんの最初の仕事をするのを忘れていた。ここは全力で。
「おぎゃああ!おぎゃああ!」
全力で泣いてやった。これで安心したのだろう。抱えている女性から安堵の気配がする。心配かけてごめんよ。
「%¥〒#&#£/〆@$*〃」
「…&%$〒&$£ゝ*♢¥#」
おっ?2人目の女性の声がする。こちらの女性はなんとなく優しい声色だ。
あ…眠い…
そして俺の意識はあっけなくフェードアウトした。
♢
「マリー様!お生まれになりましたよ!」
長年アルグレイ家に仕えてきたメイドである私はベッドで疲れた様子を見せるマリー様に見えるよう、たった今生まれた赤ちゃんを抱えて眼前に持って行く。
私の腕の中で収まる大きさをしたグレーの髪のこの小さな赤ちゃんがアルグレイ伯爵家の嫡男となるのでしょう。記念すべき第一子です。
しかし、確か赤ちゃんは産まれるとすぐに泣くと聞いたことがあります。先程から動く気配もないのは…ま…まさか……
と、思った束の間、腕の中の赤ちゃんが身じろぎすると、
「おぎゃああ!おぎゃああ!」
とっても大きな声で泣きました!よかったです。とても元気そうで思わずホッと息をついてしまいました。
大泣きしている赤ちゃんをマリー様に見せます。マリー様の普段はサラサラとした長いオレンジの髪が今は汗でおでこに張り付いてしまっています。私は子供を産んだ経験がありませんが相当なものだと聞いています。そしてマリー様の出産に立ち会った身としては、思わず怖気付いてしまうほどの大変さが感じられました。
マリー様は必死に泣いているグレーの髪をした小さな赤ちゃんを見ると、ふにゃりと顔を崩し微笑みました。
「マリー様、元気な男の子です。」
「…嬉しいわ。私が母親になるだなんて」
マリー様と話していると赤ちゃんは寝てしまったようです。スヤスヤと眠っています。
産着に包まれた赤ちゃんをベッドで体を持ち上げているマリー様に渡します。赤ちゃんを抱えたマリー様はまるで1枚の絵画のように様になっていて、母親とはこうゆうものなのだと強く感じさせます。
赤ちゃんを抱いたマリー様は私に呼びかけます。
「それじゃあブレイドを呼びましょうか。別室でそわそわしているでしょうからね」
「かしこまりました。旦那様をお呼びしてきますね」
私はドアを開けてこの家の主人であるブレイド様を呼びに廊下を歩きます。
先程マリー様がおっしゃっていた通り、旦那様はお産が始まると同時に、言葉は悪いですが慌てふためいたため、邪魔になると判断された産婆の方や他の使用人に別室に隔離されたのでした。
しばらく歩いていると旦那様のいらっしゃる部屋の前に辿り着きました。旦那様も気が気でない様子がドア越しにも伝わってきます。落ち着かない足音がずっと聞こえてくるのです。ここで聞いていても仕方ないので旦那様を呼びましょう。
「旦那様、無事お生まれになりま“ガチャ”「本当かっ!すぐ行くぞマリー!」…したよ……」
よっぽど待ち望んでいたのでしょう。私が声をかけ終わる前にドアが開きドタドタと音をたてて旦那様はマリー様の元へ走って行きました。
旦那様も去ってしまったので私も戻りましょう。そして旦那様、せめてドアは閉めましょう。
マリー様の元へ戻ると、ちょうど旦那様がマリー様から赤ちゃんを渡されておっかなびっくり受け取ろうとするところでした。
旦那様は、明らかに慣れない手つきで赤ちゃんを抱えています。しかしあれですね、旦那様もグレーの短髪なので同じ色の髪の赤ちゃんを抱いていると親子感がとてもします。
赤ちゃんを抱えた旦那様が腕の中の子を見ながら話しています。
「実際に抱いてみるとこんなに軽くて小さいのだな……俺と同じ色の髪をしているが、顔はマリーに似ているな。将来はハンサム間違いなしだな!
よし、マリー。この子の名前を付けるぞ!」
「はいあなた。付けてあげて」
この世界で名付けはとても重要なこととなっています。個に名前を付けることで神様にその存在が認められ、その個に祝福が与えられるのです。一番身近な私たちを例にとると、名前を付けられることで神様が与えてくれた祝福が個人のスキルとなって自由に使えるようになるのです。
そんな大事な儀式である名付けが目の前で行われるようです。旦那さまが凛とした顔で口を開きました。
「この子の名前は アッシュ・アルグレイ と名付ける!」
赤ちゃんの名前はアッシュ様と名付けられたことによって神様に祝福されました。マリー様も嬉しそうにアッシュ様を見つめています。
「あなた、5年後が楽しみね」
「あぁ、そうだな。俺たちの子なんだ、きっと素晴らしいスキルを授かっているだろう。もちろんどんなスキルであろうと愛ているがな」
この3年後というのは、子供が5才になると神殿にて祝福で授かったスキルの確認をすることが義務付けられているということです。神殿にはステータスが表示される宝珠があり、そこに触れると個人のステータスが写し出される仕組みになっているのです。宝珠はアーティファクトと呼ばれる、古代から存在しているとても貴重な道具で、その構造も仕組みも全く判明していないそうです。ただ普通に使えるので神殿に置いてあるのだそうです。
私もアッシュ様のスキルがとても気になります。橙炎の魔女と呼ばれているマリー様と豪剣と呼ばれるブレイド様のご子息なので魔法スキルか剣スキルのどちらかが祝福されていそうですが。もちろん全く関係のないスキルが授けられることもあります。過去には王族の方に農業スキルが授けられたそうで、その方はいつの日か大農場を経営して大成功したそうです。なので血統とは必ずしも関わっているわけではないのですが、親のスキルと近いものが授けられる割合が比較的高いそうです。
そうゆう私は両親とは関係ないスキルを持っていますが。
♢
なんだかんだで1週間が経った。
1週間で体をバタバタ動かすこともできるようになったし、目も開くようになった。よくは見えないけれど。
俺が今いるのは赤ちゃん用の柵で囲われたベッドの上だ。
ベッドの周りにあるのは木製の椅子とクローゼットくらいでだいぶ寂しいが特段気にならない。母さんやメイドさんがすごい構ってくれるからな!
転生したあの日、寝て起きたら俺の持つ能力の使い方が頭に入っていた。残念ながら魔力が足りなくて発動は出来ないようで、それが直感でわかった。
そう。この世界には魔力があったのだ。生まれてすぐに気づいたのが、周りに漂っていたり体の中に何かがあることで、後日よく調べてみると体の中の丹田のあたりにまとまって集まっていることが分かった。有り余っていた時間でその魔力的なものを丹田から動かしてみようとしても、動いてる気がする!?くらいにしか動かないのでもっと頑張りたい。スムーズに動かせたことでどうなるとかはわからないのだが。
話を能力に戻すが、その前に以前、転生する前に白い空間で見たステータスはこちら。
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NAME: 禹白 浩巳
RACE: ヒューマン
AGE: 17
ABILITY: 《光魔法“亜種”》《魔力極大》
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そして今念じると出てくるステータスはこちら
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NAME: アッシュ・アルグレイ
RACE: ヒューマン
AGE: 0
ABILITY: 《光魔法“亜種”》《魔力極大》
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変わったのは名前と年齢だ。どうやら俺はアッシュと名付けられたようだ。さすがに“亜種”と響きがとても似ているのは偶然だろう。……偶然だよな?
《魔力極大》があるのに魔力が足りないのかって?俺もそう思ったが、この能力は魔力量の成長速度への補正だそうで、魔力の増やし方が分からない俺には無用の長物となっている。
《光魔法“亜種”》は、想像していた光魔法は大体使えるらしい。回復とか。ホーリー○○みたいなのとか。明かりを出したりもできるそう。その上で、“亜種”になったことで使えるようになったものは、これはもう光魔法と言っていいのかっていうのもあったが、今はどの魔法も使えないので使えるようになってからおいおい説明していくとしよう。
とりあえずは体をジタバタして体力を増やすことと、魔力の操作をもっと容易くできるように訓練することがしばらくの課題かな。
またこの1週間で家族構成がなんとなくわかってきた。
まず母親のマリー。まだ目がよく見えないので分からないがオレンジのロングで柔らかい声が特徴だ。
そして父親のブレイド。ガタイがすごく良い。こちらは灰色の髪をしている。
そしてなんとこの家にはメイドがいるのだ。メイドさんの名前はメリッサ。母さんからはメリーと呼ばれている。緑色をしたショートで落ち着いた雰囲気がする。そしてよく母さんと一緒に行動している。
他にも何人かいるようだが、直接世話をされることがないのでまだ分からずじまいだ。
とりあえずおやすみなさい。
この体になってから眠気に抗えない。
兎になりたい