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異世界転生へ

すみません転生し終わりませんでした(´・ω・`)

 


 今日は夏休み前最後の登校日だ。高校2年生なのだから夏休みには大学受験の勉強を始めろと担任からも言われているがあと1年と半分あるのだ。まだ焦る必要がどこにある?

 しかもどうせ俺の通っているこの自称進学校は夏休みが始まると同時に夏期講習が学校で開催されるのだ。勉強したくなくてもさせられるのだからモチベも上がらない。


 終業式のために体育館で集まった全校生徒がクラスごとに教室へ戻って行き、俺らも教室へと戻った。


 もう夏休みが始まったようなものなのでガヤガヤとするクラスに担任がドアを開けて入ってきた。

 席には着くが喋りっぱなしの生徒に担任がプリントを回した。

 担任が何か言っているが今配られたプリントに全部書いてあるのでさっさと解散にしてほしい。どうせ夏休みの過ごし方をどうこうって話だろう?夏期講習で明日もここへ来るのに夏休みもなにもなぁ。


 だが夏休みが始まると思うとワクワクするのは抑えられない。いくら夏期講習の分を差し引こうとも1ヶ月弱は休みが与えられるのだ。何をしようか今から楽しみで仕方がないが、何かをする予定もない。


泣いてもいない。




 いつのまにか担任の話も終わっていたようだ。担任がちょうどドアから去って行くところだった。

ホームルームが終わりさらに騒がしくなった教室で俺はすぐにカバンにプリントを入れて立ち上がった。まだお昼時で時間があるので早く映画を観に行きたいのだ。つい昨日始まったアクション物をずっと楽しみにしていて早くこの日が来るのを待っていたのだ。



 これから遊びに行く話などをしているクラスメイトを横目に教室を出る。早足で階段を降り、靴に履き替えて駅まで急ぐ。


 周りを見ても数人も同じ制服姿がいないようだ。これなら学生の少ない電車に乗れそうで殊更嬉しくなる。

座れることを祈りながら駅のホームへと降りると、タイミング良くやってきた電車に乗り込んだ。幸運なことに車内にほとんど人はいなかったので、空いていた角の席に座る。



 一息ついてケータイとイヤホンを出し、最近のお気に入りのプレイリストを開く、と同時に視界の隅に制服姿が目に入った。残念なことにその制服姿はこちらへやってくるようだ。


「あれ?禹白(うしろ)じゃん。偶然だねぇ」


 声のした女の子の方へ顔を向けると、同じ高校に通っている山下美咲の姿があった。


「山下さんか。早くないか?」


「先生の話が早く終わったのよ。それに今日は予定があったからとっとと帰ってきちゃったの」


 山下美咲は高校イチと言っていいほどの美少女だ。非の打ち所のない美少女でありながらプロポーションも完璧とゆう芸能界にいてもおかしくない逸材である。


 そしてその交友関係は広く、同学年だけではなく先輩後輩にも友達がいるらしい。男女関係ない友達に囲まれている姿をよく見かける。今も見かけて驚いたが予定があったのか。なるほど納得だ。



「それよりもさ、そこに座っていいかな」


「……あぁ、構わないよ」

 山下さんが黒に近い茶色のポニーテールを揺らしながら俺の横の席を指差し聞いてきた。

 俺としては最近組んだプレイリストを再生したかったのだが、断るのもおかしい。というか山下さんがどこで降りるのかは知らないがそれまで俺と喋るつもりか?

 こういうのが山下美咲ファンを増やす要因なんだろうなぁー。周りでも何人もの男子が告白したと聞いている。そして同数が玉砕したとも。

 それでいて彼氏がいたことがないという噂だからこの高校にもお目にかかる男子がいなかったのだろう。勝手な想像だが。


「ごめんね、今から曲聴こうとしてたんでしょ」


「いや、暇で出しただけだから気にしないで」


「そう?ならいいんだけど」


 首を傾げながら話す山下さんはとてもかわいい。こりゃ皆んな落ちる訳だと1人納得しながら喋っていると終点の駅にそろそろ着くようだ。


「もう着くよ。山下さんもここで乗り換えか。あっという間だったね」


「おぉー、禹白の話が面白くてすぐ着いちゃった。私この駅で用事があるのよ。付き合ってくれてありがとね」


 笑顔が眩しい。疲れが吹き飛ぶようだ。もともと疲れていなかったが。


 駅のホームへ電車が滑って行く。だんだん速度を落とす車内からホームをぼうっと眺める。この駅で人が全然いないホームを見るのも久しぶりだな。と感想を心の中で述べながら立ち上がる。山下さんも同時に立ち上がり完全に速度の止まったドアの前で開くのを待つ。ドア越しにホームを見るとリュックを背負った男が1人立っている。


 なんだか挙動不審だな、と思った束の間、ドアが開くと同時に男が右腕を振り上げた。その手には光る何か。



「危ないっ!!!」


「きゃあああ!!!」



 咄嗟の判断でできたことは、右横にいた山下さんを後ろに下げ、左手でどうにか腕を抑えようとしたことだった。


 思いっきり押したせいか尻餅をついた山下さんとなんとか男との距離を開けようと渾身のタックルをかます。と同時に背中が熱くなった。

 これヤバイやつだ!と瞬時に悟り、これが痛みに変わる前にどうにかしないとと思ったら勝手に体が動いた。


 足を絡ませて男を倒し、その勢いで背中から何かが抜ける感触がした。だんだんと痛みに変わってきていて時間がないのがはっきりと分かった。


 コンクリートのホームに倒れた男の鼻っ面を思い切り殴り、怯んだところで立ち上がった。少しふらつくがまだ大丈夫だろう。倒れた男の股間に狙いを定め、全力で足を振りかぶり蹴り抜いた。


「お"お"お"おおおおおおおおおおおっ!!!!」



 男が絶叫を上げ背中を反らした直後に気を失ったように力が抜け、ピクリとも動かなくなった。



 これで当分は男も起きたとしても動けないだろう。全力でやったので相当深刻なダメージになっていると思う。潰すつもりでやったし。



 さてそろそろ本当に痛い。激痛だ。想像を絶する痛みってやつだ。倒れた男の近くに血濡れた包丁が落ちていて完全に俺を刺した凶器だろう。

 立っていることも限界で思わず座り込む。救急車呼ばないととも思うがその元気すらない。


「禹白!大丈夫!?禹白!!」


 あぁ、うん。先に救急車呼んでくれないかな。声出せないくらい億劫だし。


「禹白、私を庇って死ぬなんて嫌だよ……死なないで禹白!!!」


 あー山下さんの声が遠い。これ救急車来ても間に合わないやつかなー。あ、山下さんにこれは伝えなきゃ。



「山下さん……」


「な、なに!今救急車呼ぶから!」


「俺は運が…悪かっただけ……だから……山下さんが……気にすることはないよ………」


「喋らないで!もしもし!救急車を!○○駅の7番ホームに寄越してください!血が出て死にそうなんです!」


 相当焦っているのだろうポニーテールを振り乱しながら電話をする山下さんの姿が目に入る。


 あー意識もうっすらとし始めたーもうこれは川の向こうにおばぁちゃんが見え始める頃かなー

 痛みも感じなくなって来た。いや、寒いな。


 はぁ、来世に期待しよう。人助けして死ぬんだから相当良い身分に産まれたいな。具体的には中世ヨーロッパの貴族あたりに。




 あー


 もう音も聞こえないや。なんの感覚もないし自分がどこにいるのかもわからなくなってきた。ぶっちゃけ怖い。ここで死ぬのか。





 ………でも

 総評。山下さんを助けられて良かった。










「パンパカパーン。おめでとうございまーす。善行して死んだあなたには中世ヨーロッパ風の貴族に生まれ変わる権利がありまーす」



「はい?」



 突然女性の声が聞こえるなと思ったらテンプレみたいなセリフが飛んできていた。



「聞こえてましたよね?あなたには転生する権利があります。しかも中世ヨーロッパ風の貴族ですよ。あなたの望んだ来世ですね」


 あー、うんまぁ死ぬ直前にそう考えたかもしれないけどさすがに実際その通りになると聞いても混乱して追いつけないな。



 まあとりあえず、

「あなたは誰でしょうか?神様ですか?」



「そうですね、その認識が一番わかりやすいと思います。実際には管理人としての仕事ばかりしている超越者って感じですけど」


 声が響く。


「あ、それと《目を開く》と強く意識すると周りが見えるようになりますよ」


 強く念じてみる。おおっ視界が一気に広がった感じだ。白一色の空間に女性が真正面に立っている。この人が神様なのだろう。何か気になることも言っていたが。

 そして視線を下に向けてみる。な……んだこれは。光る球と化している。手も足も胴体すらない。目が開かないなと思ったよ。目すらないなこれは。

 1人で驚愕していると神様から声がかかった。


「禹白さん。あなたには私の管理する世界の1つに転生することができますが行きますか?ちなみに想像していらっしゃる通り剣と魔法のせk「行きます」……即決ですね……」



 剣と魔法の世界には行きたくて仕方なかった。何本もの作品を電車や家でも読んでいたから。


「ちなみにさらに補足説明しますと、魔物も魔王もいますし勇者もいます。文明的には中世と所によっては現代より進んでるって感じですかね」



 ほう。もしかして勇者は現代日本から召喚されたりするのかな。


「はい。過去にはそういう事例もありました。」


 ナチュラルに思考を読まれたな。まぁ気にしない。

 それで?行くことになる世界はステータス制か?


「全く動じないですね。しれっと質問してきてますし。そうですね。ステータスを子供の頃に調べる儀式がどこでも行われています。そこで良い素質を持った子供は王城に連れていかれたりするそうです」



 まぁステータスなんて概念があったらそんな世の中になるだろうな。

 神様は笑顔になって続ける。


「そして禹白さんには私が能力の底上げをするので王城行きまっしぐらです」


「いやだなおいっ いや待てよ?能力の底上げ?チートをパパッとくれる感じではなく?」


「はい。神様と言えども無から有を生み出すにはそれなりの制限がありまして。しかしもともと持っているものに改変を加えるのは問題ないんです」



 神様でも制限とかあるんだな。あれ?でも

「俺は特に能力を持ってないぞ?力が強いわけでも走るのが速いわけでもなかったし」


「それは魔力の無い地球で暮らしたからですね。ステータスも目に見えて表記されることもなかったので気づくことなく死んでしまっただけです。気づいても魔力が無いので発動はできませんでしたが」


 魔力って地球にはないのか。ダークマターとか宇宙にはあるって言われてたが魔力だったのかな。夢が広がるな今後の地球に。

 いや、思考がずれたな。


「それで?俺の能力って一体なんなんだ?」


「その前に、能力の話なのですが、あなたには2つの能力が与えられます。1つはあなたが地球で産まれた時に授かったもの。2つめはこれから産まれるあなたに与えられるものです。あなたがステータスを調べられた際に表記されるのはあなたが産まれた後に与えられた能力だけです。それ以外は書かれませんので安心してください」


 そもそも人は産まれた時に1つの能力が授けられるらしい。そしてそれが確認されて王城行きかどうかが決まると、


「はい。そしてあなたにとっての異世界で与えられる能力は《光魔法》スキルです。これは過去の勇者が持っていたとされる能力ですね」


 はい王城行きが確定しました!!!文句なしで直行でしょう!!!


「はい。直行です。魔王が活動し始めてピリピリしてる世の中なので国も血眼で探しているでしょう」



 Oh……自由な暮らしができるのだろうか。

……あ、貴族に産まれるんだ。逃れるなんて出来るわけないのか。おわた。



「まぁ少しでも暮らしやすくするために私が能力の底上げをするのですが、先にもう1つの能力もお伝えしておきますね。あなたが地球にて獲得していた能力は《魔力増大》スキルですね。魔力の無い世界で魔力が増える能力って………ふふ」


 笑いおったでこの神様。しかし笑顔はかわええなぁ。……なんでエセ関西弁が出ているのだろうか。

 しかしまた気づいたところで、な能力だったな。異世界に行って初めて使えるものじゃないか。



「そして今言った2つの能力の底上げをしますね。………はい終わりました。ステータス、と念じてみてください」


 よし、ステータス


----------------


NAME: 禹白 浩巳

RACE: ヒューマン

AGE: 17

ABILITY: 《光魔法》《魔力極大》


----------------


 おぉ、視界の真ん中に映ったこれがステータスか。

 種族の欄があるということは獣人とかもいるのだろうきっと。心躍るなもふもふパラダイスに。


 そしてアビリティの欄には《光魔法》と《魔力極大》が。あれ?《光魔法》?


「何も変わってないと思われるでしょうが、子供の頃の儀式対策で名前を変えているだけです。数文字消すだけだったので変えているとも言い難いですが。《光魔法》の文字を見つめてみてください」


 ほう?数文字消したということは光魔法という単語に何が付け足されていたのだろう?

 ステータスの《光魔法》をじっと見つめてみる。


 お、表記が変わった。


----------------


NAME: 禹白 浩巳

RACE: ヒューマン

AGE: 17

ABILITY: 《光魔法“亜種”》《魔力極大》


----------------



亜種が付いた。

亜種とは。

いや、意味は分かるが光魔法に亜種が付くとどうなるのだろう。回復系か?攻撃がどうにかなるのか?

1人でウンウン唸っていると神様が口を開いた。


「能力の使い方は、向こうで産まれて体と名前を手に入れた時に自然と分かるようなシステムになっています。あなたならきっと難なく使いこなすでしょう」



 ほう?不思議なシステムだな。まぁそうゆうものだと理解しておこう。




「ほとんど話は終わったので、これはついでですが、あなたか生前で得意だったことは向こうでも同じく得意になってます。何のことか分かりますか?」


はて、得意だったこととな?ゆで卵の殻をバラバラにする事なくうまく剥けることとか?

あれいっぺんに取れた時が気持ちいいんだよな。


「違いますね。いや、器用だったという証明にはなりますか……」


違ったのか。自信あったのにな。


「銃器を持って戦うゲームがありましたよね?それであなたは無類の強さを発揮していました。そこまで貴方がゲームに打ち込まなかったので気づかなかったのでしょうが」


ああ、やってたなFPS。趣味を探してた時期に1ヶ月くらいは続けていて、次第に課金勢に勝てなくなって飽きたやつだ。


「敵に標準を合わせる力、つまりエイム力が高かったのです。敵の次の動きを予測して標準を合わせる能力は、その神懸かり的な精度と未来予知レベルの予測を合わせて一種のスキルと言ってもいいくらいに」


全然知らなかった。これくらいはみんな出来るもんだと思って遊んでたからなぁ。すぐリズムゲーに移ったのは勿体無かったかあ。


仕方ないか。来世で銃があったら使ってみようかな。




「あなたにお伝えすべきこと、することは全て終わりました。あとはあなたの返事1つで異世界へと送ります。次に目が覚めた時は赤ん坊の姿となっております。そして、次に私と会うのはあなたが再び死んだ時か、神殿で運が良ければ会えるでしょう。何か聞いておくべきことはありますか?」


「いえ、特にはありませんね。色々ありがとうございました。運良く生きて再び会えることを祈っておきます。神様に」


「ふふ、私に祈ってもご利益ないですよ。それでは今から送ります。それではあなたの幸せを願って。いってらっしゃい」


「いってきます」



 神様が手をすいーっと横に動かすと俺の光の球となっていた体が光を増し、俺の意識は遠くへと消えていった。




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