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従兄の就職の予定


「実を言うと、ちょうど王都で従業員を募集しようかと考えていたところです」


商国という名の商会の長であるギードは、土産物店を生業なりわいとしている。 


『始まりの町』教会前通りに領主シャルネの出資による本店があり、タミリアの妹夫婦が店長をしている。


他に『魔法の塔の町』にも売店があり、こちらはギードの眷属である風の最上位精霊のリンが店長を務め、塔の関係者が代理で店番をしてくれている。


もちろん商国にも店はあるが、こちらは基本的には大口取引のための試作品や従業員用だ。


「陛下からの依頼で、王宮内にあるエルフ兵用の売店を任されることになりまして」


店長はすでに古株になっているエルフの女性フーニャに決まっている。


 フーニャは傭兵隊の中でも数少ないダークエルフ以外の隊員で、対エルフ族用の情報収集に活躍していた。


しかし先頃、隊長だったイヴォンが引退し、彼に心酔していたフーニャも王都へ戻って来た。


元々王宮内の売店で働いていた彼女からの推薦もあり、ギードはエルフ兵の薬なども任されるようになっている。


彼女の助手として一人付けたいのだが、商国は獣人が多く、王都で働くには彼らでは不安過ぎた。




「エルフ用だけでなく人族用も扱う予定なので、王都で自由に動ける人族の者が欲しいんですよね」


エルフ族はとにかく引きこもりがちで、新しい情報に疎い。


そんな彼らに王宮の外から新しい情報と品物を届ける仕事になる。


「レリガスさんさえよければ、どうでしょう?」


老舗の跡取りという身元がしっかりしていること。商人として十分な教育が受けられていること。


何より王都に住んでいることが大きい。


ギードは王都の町中に知り合いが少ないのである。


「いいのでしょうか。私なんかで」


レリガスは仕事の話をきちんと聞こうと背筋を伸ばした。


彼の両親や祖父母は心配そうに顔を見合わせている。


「まだわかりませんよ。ただ」


黒さを隠したギードの笑顔は、エルフであることを差し引いても胡散臭い。


「失敗したら当然大事になりますし、王宮内の情報を持ち出したりすれば犯罪者になります」


レリガスがぎくりと身体を硬直させる。


「今までの『子供だから』という言い訳が通用しませんからね」


「ああ、それはどこでも同じだな」


ギードの言葉に祖父が重みのある声で賛同する。




 レリガスは、正直、自分は商人に向いていないと思っていた。


今まで両親や祖父母の仕事ぶりを見てきて、その厳しさも知っている。


本当にやりたいことは魔道具作りだが、魔力のない自分には無理だということもわかっている。


しかし卒業を間近に控え、成人である十五歳までもう二年しかない。


友達の中にはそろそろ就職が決まり、すでに学校より仕事場へ行く者が増えている。


 レリガスは焦っていた。当然、自分は祖父の店で働くものだと思っていたのだ。


実際には両親も、商会長である祖父もあまり良い顔をしない。


店の従業員たちとの折り合いもうまくいかず、戸惑っているところだった。


王都の同年代の友人たちの中ではうまくやってきたつもりだったが、従弟いとこであるユイリと出会ってからは何となくうまくいっていない気がする。


商人として、様々な種族とうまくやっていく自信がなくなってしまっていた。





「でも本当にこの子を雇っていただけるのでしょうか」


レリガスの母親は不安気な顔をしている。


「詳しい話は自分が旅から戻ってからになりますから、それまでに考えておいてください」


ギードはある意味、この甥っ子が店の使用人たちからうとまれたのは双子のせいもあると思っていた。


(あんな特殊な子供と比べられたらたまらないよな)


産まれてから今まで裕福な商家の跡取りとして大切に育てられてきた少年が、突然現れた従兄妹に使用人たちの関心を奪われてしまう。


きっと寂しい思いをしただろう。


申し訳なく思い、彼を商国の従業員のひとりとして受け入れる態勢は整えておくつもりだ。


「もし、自分が旅から戻るのが遅くなったとしても、ちゃんと店の者には伝えておきます」


卒業の春まで、まだ時間はある。


他に良い勤め先が見つかるならそれもいい。とりあえずの救済策として伝えておいた。




 遅い昼食を終えると、伯父夫婦と店の使用人一同からの贈り物として、双子と末っ子には観劇用の豪華な服一式が用意されていた。


子供たちはそれに着替え、祖父母の前でくるりと回って見せている。


「おじちゃまー、おばちゃまー、ありがとー」


ギード家族の末っ子であるナティリアが伯父夫婦に抱き付いている。


妖精族であるこの幼子は、服を着るという行為が必要ではない。いつも身に着けているように見える服はすべて魔力で作られているのだ。


それを理解している家族は彼女に服を用意するということがない。


「ナティ、こんなの初めてー」


それを知らない祖父母や伯父夫婦は、今までナティリアは姉のお下がりをもらっていると思っていた。


見たことがある服が多かったからだが、それはミキリアの服をナティリアが真似まねしていただけである。


初めて自分専用の服をもらったナティリアは王都が大好きになった。




「それではそろそろ出かけようか」


祖父母は息子一家と娘一家を連れて劇場へ向かう。


祖父母の商会から劇場はそんなに離れていない。


のんびりと商店街の店を冷やかしながら歩いて向かうことにした。


(大丈夫なのか?)


こっそり義兄がギードに聞いてくる。


大勢の人族が行き交う大通りを、エルフの親子を連れて歩くのは彼も緊張するようだ。


(大丈夫ですよ。一応)


ギードは気配を消すことが得意であり、ユイリは認識阻害付きの魔道具を身に着けている。


知り合いでもない限りはあまり気づかれない。


「ギドちゃん、こっちこっちー」


ギードはミキリアが大好物だという屋台を教えてもらい、いくつか購入して眷属たちへの土産にした。



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