子供たちの誕生会の予定
短編です。四話で終わる予定です。
商国の代表を務めるエルフの商人であるギードには、人族の魔法剣士である妻との間に三人の子供たちがいる。
エルフの少年ユイリと人族の少女ミキリアの双子、そして末娘が精霊族であるナティリアだ。七歳の双子と四歳の末っ子、三人は誕生日が同じである。
この国では子供の誕生祝いを毎年行うのは裕福な家だけだ。
ささやかでも行っているギード一家はそれに相当するだろう。
両親が何も言わなくても、子供たちをかわいがっている祖父母や知り合いや精霊たちが「やろうやろう」とうるさいので仕方がないのだ。
その日は母親の両親が商国を訪れていた。
商国の森の中にあるギードの館は、仕事用も兼ね、かなり広い造りになっている。
この家の執事である黒髪の青年がお茶とお菓子を配っている。その来客用の広い居間で、ギード一家と祖父母とで、今年の誕生祝いの相談をしていた。
父親であるギードが遠方への商談に旅立つ前にと、冬の初めに子供たちの誕生祝いを行うことになった。
日程については毎年だいたいこのくらいの日というのはあっても、特に何日にやるという指定はない。
誰にだって都合というものがあるからだ。
「それでね、王都の劇場で観劇というのはどうかしら。もちろん、皆で」
子供たちの祖母である老舗商会の会長夫人が提案する。
「ほんと!、行ってもいいの?」
エルフ族の少年ユイリは、うれしそうな声をあげる。
「……面白いの?」
脳筋の母親の顔を見上げているミキリアは、双子の相方であるユイリほど興味はなさそうだ。
「ねーねー、王都って人がいっぱいいるんでしょー」
もうすぐ五歳になる末娘のナティリアはその黒い瞳を輝かせる。精霊族であるこの幼子はあまり外に出たことがない。
そのはしゃぎように幼子の眷属である青年執事は顔を顰める。
双子はこの秋まで王都の祖父母の元で一年半ほど暮らしていた。
今度の冬で八歳になる音楽好きのユイリは期待に胸を膨らませる。
王都にいた頃は外からしか劇場を見ることはなかったが、漏れ出て来る音楽には興味があった。
「ユイリには王都にいた間、あまり外へ連れて行ってやれなかったからな」
祖父は元軍人特有の背筋の伸びた姿勢のまま座っているが、孫に対しては爺ばか全開である。
「エルフの子供だから仕方がないとはいえ、少々心苦しく思っていた」
そう言われると父親のギードは遠慮も出来ない。
王都ではまだまだエルフ族は珍しい。その子供となればもっと希少で、衆目を集めることになるだろう。
人族であるミキリアのほうはまだ気軽に外に出られたようで、その差がまた祖父母は気になっていた。
珍しい黒髪のエルフであるギードは王都はあまり好きではない。
気配察知に優れた彼は、大量に流れ込む人族の複雑な感情が苦手で、王都に滞在していると体調を崩すのである。
「わかりました。それでは手配をこちらに任せていただけませんでしょうか」
ギードは相手を気遣いつつ話を進める。
「いえいえ、私が言い出したのだから手配はこちらでー」
祖母は思いがけないギードの申し出に驚いている。
「親としても何か手伝わせてください」
と、ギードはにっこり微笑む。だがその裏で、最低限の手を打てるように牽制しているのだ。
母親であるタミリアは実家の両親を見送った後、夫であるギードに話しかける。
「何か考えがあるの?」
「まあね」
王都暮らしで人族である祖父母が考えるほどエルフ族の境遇は甘くない。
ギードの出発の日が近づいている。
挨拶がてらギードは『始まりの町』領主のシャルネを訪ねた。
シャルネは国王の娘でありながら、母親が庶民だったため継承権のない外戚の身分である。
一通りの報告を終えた後、劇場について聞いてみる。
「王都の劇場ですか?。今は何のお話をやっていたかしら」
護衛のダークエルフのイヴォンが答える。
「確か、『砂漠の英雄』だったかと」
彼は、人族であるシャルネとの子供であるキーナという三歳の娘を抱いていた。
キーナは人族とダークエルフ族の間に生まれたが、種族は父親と同じダークエルフだ。
「どんな内容なの?」
シャルネの言葉に、エルフの侍女であるネイミがお茶を配る手を止めた。
「砂漠の真ん中にある貧しい国に旅のエルフの青年が迷い込み、親切にしていただいた方々を救うお話ですわ」
と、うっとりとした顔で話してくれた。
ギードは嫌な予感がして苦笑いする。
「とりあえず、手配をお願いします」
「わかったわ。それでは席が取れ次第、連絡するわね」
地方領主とはいえ国王の娘であり、夫はダークエルフ傭兵隊の元隊長である。取れないわけはない。
「よろしくお願いします」
ギードは長居は無用と領主館を出る。
数日後、一家は王都にいた。
祖父母の家でささやかにお祝いを兼ねた昼食会が開かれた。
そこでギードは、双子が急に王都を去ってしまったことに義兄一家や使用人たちに文句を言われてしまう。
「せっかく仲良くなったのにー」
従兄にあたるレリガスもしゅんとしている。
しかしそれは、この夏にレリガスの友人たちが双子を見ようと家に押しかけて、ひと騒動になったせいでもあった。
彼はその後、双子が帰ってしまったことをずっと気にしていた。
「またいつでも会えますよ。生きていれば」
ギードは慰めるように甥っ子の肩を叩いた。
「そういえば、レリガスさんはそろそろご卒業でしたね」
庶民の子供たちが通う学校は十三歳が最高学年で、そのあとは各自修行に出たり、専門の学校へ通ったりする。
「どこかへ勉強に行かれるのですか?」
祖父母が経営する商会の後継とはいえ、まだ成人前である。
ギードはおそらく一旦どこかの店に修行に出されるのだろうと思っていた。
「それが、まだ何も決まっていませんの」
兄嫁が残念そうに答える。
「本来ならこの店で教えるつもりだったのだが」
どうやらユイリたちをいざこざに巻き込んだせいで、店の使用人たちから顰蹙をかったらしい。
義兄は仕方ないという顔をした。
「どこか受け入れてくれる商会を探してはいるが、これでも跡取りなのでな」
あまり遠くへは出せないという。
「それならー」
ギードは一つ提案してみることにした。