007
ダカットとエイリャが解体を終わらせて一息を吐いた頃、二人の元に男が歩いて近寄ってきた。先程表でエマと言葉を交わしていた男、カロンである。
「カロンおじさんだ」
「おじさんじゃないって、いつも言ってるだろ。お兄さんと呼んでくれよ。俺、成人したばかりなんだぜ」
「だって、おじさんのほうが言いやすいだもん」
彼はエイリャと楽しげに会話をする一方で、ダカットには厳しい目を向けていた。何故なら彼はダカットを敵視しているし、この場に来たのもそれが理由だったのだ。
「それよりエイリャ。俺はちょっと、そこのおじさんと話があるからどこかで遊んできてくれないか」
「なんで?」
彼の言う会話とは、きっと子供に聞かせるものではないのだろう。ダカットはそう察すると、彼の言うとおりにエイリャをこの場から離れさせることにした。
「エイリャ」
「なあに?」
「この桶を村の猟師に渡してくれ」
「わかった!」
ホーンラットの脚一本と、皮を丸めたものを桶に入れてエイリャに渡す。彼女はそれを受け取ると、桶の取っ手を両手で持ち、重そうにどこかへと運んでいった。
カロンはそれを見送った後、重たげに口を開く。
「あんた、ダカットさん、だったか。俺はカロンって言うんだ。さっきはすまなかった」
「何の話だ」
「聞いてたんだろ。さっき表で随分なことを言っちまったから」
「ああ」
そのことか、とダカットは言葉を返した。
確かに聞いていた。一般的に失礼とされるようなことを言われていたのを。
しかしそれはダカットにとってはどうでも良い事だった。彼の懸念は尤もであるし、内容もそれほど過激なことではなかったからだ。
そしてそれは、今もそうである。
「気にしなくていい」
「……そうか」
カロンは先程からずっと険しい顔をしていた。ダカットに謝っている最中もそうだ。
言葉ではダカットに謝罪しつつも、本心ではダカットのことを疑っているのである。
とはいえそれでも謝罪しに来た辺りが律儀というか、このカロンという青年の心根がダカットには窺い知れた。
「すまないけど、俺はあんたを信用できない。……なあ、あんた、この村に何をしに来たんだ?」
「……」
ダカットは返答を躊躇した。
話したところで彼の疑いは晴れないだろう。だが話せば少しは緩和できるだろうし、己の目的にも近づけるかも知れない。だからそれは良い。
しかし問題は別なところに存在しているのだ。
「もしかして、言えないようなことなのか?」
「いや」
ダカットは己の外套の下にある右手を見やり、その鉄屑を僅かに動かした。これを目の前の青年に見せて良いものか、彼は迷ったのだ。
「分かった、話そう」
だが結局のところ、ダカットは旅の理由を話すことにした。何故ならば、ここで言わなければこの村でダカットが信用を得るのは難しくなるからだ。
現地民からの情報なくして、彼の目的を捜索するのは限りなく難しいのである。
「これを見てくれ」
そう言うと、ダカットは身体を覆い隠す外套を押しのけて、右腕をのっそりとカロンの前に差し出した。その際に外套は大きく翻り、彼の全身を、その巨大な脚も青年の視線に晒す。
「うっ!?」
「俺は、これを治す方法を探している」
仰け反るカロンに対して、ダカットはそう話を切り出した。
書き溜めが消費されていく……。
ちなみにストーリーの進行はわざと遅くしています。
早いほうが面白いかもしれませんが、それだとキャラの掘り下げや説明が不十分になりがちなので。
評価・感想をお待ちしてます。
2017/11/16:行間に改行を挿入しました。