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003

 光点が空を舞う。鳥のような速度で、地を被う森を黄色い光で照らしながら飛ぶ。

 不規則に、あらゆる方向へ、しかし何処へ向かうでもなく。黄色い光の塊は、深い森の空を舞っていた。


「————!」


 しばらくの間それは続けられていたが、ある時突然に、それは動きを止めた。

 何が原因かは分からない。だが光の塊はやがて目映いばかりに光を増し、音を立てて振動を始める。


 そして、それはとある方角へと弾かれたように飛び出した。高速で空を駆け、やがて光は蝋燭を吹き消したように掻き消えて見えなくなった。


  ++++++


 ダカットが案内された部屋は、宿と言うには少し狭い一室だった。簡素なベッドと小さなサイドテーブルが一つ置かれた以外には何もない、質素な部屋である。


「ほらここだよ!」


 エイリャはダカット部屋に引っ張り込むと、自分はベッドにストンと腰掛けた。その横に、ダカットもゆっくりと腰を下ろす。


「はやく、お話しして!」

「そうだな、何から話すか……」


 ベッドを軋ませて座るダカットに、エイリャは首を傾げた。


「おじさん、なんでマント脱がないの?」

「む。いや、これは——」

「お部屋に入ったら脱がなきゃいけないんだよ」

「脱げない理由があるんだ」

「ふーん」


 エイリャは首を傾げるが、直ぐに顔一杯に笑みを浮かべた。


「えいっ!」


 そしてダカットの外套に飛びついたかと思うと、掴んだそれを身体全体を使って引っ張った。


「ぬうっ!?」


 布が風を叩く音を立ててダカットの外套が翻ると、その下に隠されていた彼の肉体が顕わになる。


「うわあ、なにこれ!」


 鉄だ。そこには肉ではなく、鉄で出来た身体があった。と言っても、全てがそうというわけではない。

 まず胴体は筋肉質な普通の肉体である。そして左腕も人間のそれだ。しかし、それ以外の部位である両足と右腕が醜い鉄塊で出来ていたのである。


「すまない、気味が悪いだろう」


 それは整った鎧のようなものではない。ガラクタを寄せ集めて無理矢理腕や脚の形にしたような、酷く歪な代物だ。巨大でゴツゴツとしており、石塊のゴーレムでももう少しマシな造形をしているだろう。

 そんなものが人体の腕や脚になっているのだから、彼の見た目は魔物よりも怪物じみたものになっていた。


「ううん、かっこいい!」


 しかし、エイリャはダカットが隠していた身体を見て喜んだ。


「……そうか?」

「つよそうだもん!」

「そう言うものなのか」


 子供の感性故か、それともエイリャが特殊であるのか。ダカットの恐ろしげな外見は、彼女にとって好意的なものに映ったのである。


「そうか。そう見えるか」


 ダカットはうなだれたまま、巨大な右手を見つめてため息を一つ吐いた。そして顔を上げると、彼はじっとエイリャを見つめる。


「おじさん?」

「どんな話が良い?」

「え?」

「冒険の話だ。どんな話が聞きたい」


 ダカットが聞いたのは、エイリャの求めていた話の内容である。エイリャは突然の問いに即答できず、頭を傾けた。


「えっと、えっとね……そうだ、お姫様の話が良い!」

「そんな話はない」

「えー。じゃあどんな話があるの?」

「そうだな、じゃあお姫様ではないが、キャラバンの女商人の話をしよう」

「商人さん?」

「そうだ、その女はな——」


 それからダカットは、エイリャに対してぽつぽつと体験談を語り出す。それは決して英雄的なストーリーではなかったが、エイリャは瞳を輝かせて彼の話に聞き入っていた。

 娯楽の少ない村においては、彼の話す冒険譚でも十分に未知的で興味を引くものだったのだ。


 そんなダカットの身の上話は数時間ばかり続けられ、エイリャの母親が声をかけて漸く終わったのだった。


  ++++++


「それじゃあおじさん、わたしお母さんのおてつだいしてくるね!」


 そう言ってエイリャが部屋から出て行った後、ダカットはベッドの上に仰向けに倒れ込んだ。


「疲れた」


 そう呟く彼の声は多少かすれていた。長く喋り続けたせいか、彼の喉は渇いていたし、疲労もたまっていたのだ。

 しかしそれでも、ダカットの顔には微笑みが浮かんでいた。何故ならば、エイリャは彼にとって好意的な人物だったからである。


 ダカットは自らの右手を持ち上げ、手のひらを見つめながら小さく笑みを漏らした。


「格好良いか」


 そう言われたのが初めてというわけではない。今までにも好意的な人物は何人もいた。

 しかし、彼の腕が、両足が人間と大きく異なっているのも確かなのだ。


「……」


 ダカットは強く、右手が軋みを上げるほどに握り締めた。ギリギリと鉄の擦れる音がして、彼の表情が苦悶に歪む。

 目をきつく閉じ、口角を下げ、眉間に皺を寄せる。彼はそれをしばしの間続けていたが、やがて力を抜いて右腕をベッドに落とした。


 そうなった後の彼に、先程の微笑みは浮かんでいない。ただ眠っているかのように身じろぎもせずに身体を横たえる。

 それはしばらく、エマが夕食の時間を告げる声が聞こえるまで続いたが、彼女の声が聞こえると彼はゆっくりとベッドから身体を起こして立ち上がった。


 そしてダカットはその身に外套を纏うと、身体を屈めてドアから食卓へと向かう。

 いくら身体が半分ほど人間でなくとも、食事が要らないわけではないのだ。

ストーリーの都合上切りどころがなくて長くなってしまいました;


評価・感想をお待ちしております。m(_ _)m


2017/11/11:行間に改行を挿入しました。

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