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001

 人口の少ない、森に面した辺境の農村。低い木の柵でぐるりと囲われたその村に、ある日一人の男がふらりと現れた。

 彼は男と言うにはあまりにも巨大だった。身長は二メートル半ばほどもあるが、身体は外套ですっぽりと被っているために、その下が本当に人間であるのかは分からない。


 しかし、彼の頭は見た目も大きさも、間違いなく人間の男のそれだ。

 だから彼、ダカットは人間であるかはともかくとして、男であるのは間違いがない。


「ここは何処だ」


 村に入って直ぐ、村の入り口でダカットは呟いた。

 彼がこの村まで旅をしてきたのは事実である。しかし、特にこの村に用があって訪れた訳ではない。

 では何故ここに来たのかと言われれば、ただ道沿いに旅をしてきただけなのである。

 故にダカットは宿もなさそうな村にたどり着いて、少し困ってしまったのだ。


「ああ、しらないひとがいる!」


 ダカットが突っ立っていると、突然甲高い声が聞こえてきた。子供の声だ。

 見れば、村の中から小さな女の子が、ツタタターと全力疾走してくるのが目に入る。


「わー! おっきいおじさんだ!」

「村の子か」


 精々が七か八、十にも満たない年頃の幼い子供だ。赤毛の可愛らしい女の子だった。


「あたし、エイリャ! おじさんは?」

「ダカットだ」

「よろしくね!」


 しゅたり、と右手を挙げてエイリャは可愛らしく声を上げた。ダカットもそれに合わせて、僅かにぺこりと頭を下げる。

 と言っても元の身長差がありすぎるために、ダカットがエイリャを覗き込んだようにしか見えない状況ではあったが。

 ともあれ、エイリャはそれで何事かに満足したのか、今度はダカットに質問を始めた。


「おじさんは、なにしにきたの?」

「特に何も」

「ふーん、じゃあ何できたの?」

「旅の途中で、偶然寄ったんだ」

「旅人なの?」

「いや、冒険者だ」

「ぼうけんしゃ?」


 質問の中で、エイリャは聞かない言葉に首を傾げた。


「そう言う職業がある」

「ぼうけんすると、お金がもらえるの? うーん……」


 冒険者。言葉にすれば冒険する人だが、それが職業であるとは一体何なのか。

 エイリャの知る冒険と言えば、お話の中で英雄が仲間と一緒に魔物のはびこる山や森を探索する事である。

 怪物を倒したり、宝物を見つけたり、お姫様を助けたりするのだ。それがエイリャの中での冒険だった。

 そしてそれは世間一般で言う、英雄の所作である。エイリャは思考がそこにたどり着くと、表情をパッと輝かせて笑った。


「すごいのね!」

「凄くはない。人から出された依頼をこなすだけの仕事だ」


 しかし現実はエイリャが思い描くほど輝かしいものではない。もっと泥臭くて危険な仕事である。冒険だけで食べていける人間はほんの一握りだ。


「いらい?」

「怪物の討伐、物資の捜索、戦場の数合わせ。何でもやる」

「えー。でも、冒険するんでしょ?」

「確かに冒険もする。だが何でもしすぎて、他に呼び方がないらしい」


 冒険というのは便利な言葉である。何せ人の手の入らない場所に行けば、それはイコール冒険と言っても嘘ではないからだ。

 山や森の調査も冒険。魔物と戦うのも冒険。勿論、遺跡のお宝を探しても冒険。

 とかく何をしても、彼らのような仕事は冒険と表現できる。逆に言えば、行うことが多岐にわたりすぎるが為に、冒険者と呼ぶ以外に方法がないのだ。


「へんなのー」


 もう興味がないのか、それとも話が少し難しかったのか。エイリャは分かったような、分からないような顔をした。

 ダカットからしても、今の話は半分言葉遊びのようなものであったように思う。子供にする話でもない。

 だからダカットもそこで話を終わりにして、話題を変えることにした。何せいつまでもここに突っ立っていても、一向に休むことは出来ないからだ。


「ところで聞きたいんだが、この村に宿はないか」

「あるよ」

「あるのか」


 聞いておきながら、ダカットは驚いていた。

 普通なら辺境の農村に宿などはない。訪れる人間はそこらに天幕でも張って寝るのが基本だ。

 それが、この村には宿があるという。ダカットにとってはありがたい話だった。


「あんないしてあげるから、あとで冒険のはなしして!」

「む、だが、冒険者とはいってもな」


 エイリャにせがまれて、ダカットは困った。

 先程彼が語ったように、冒険者の仕事は依頼されたことをこなして行くような仕事が基本である。冒険の話と言ってもどんな話をすれば良いのか、ダカットには分からない。


「しってる。でも、冒険もするんでしょ?」


 しかし、子供に笑顔でそんなことを言われてしまえば、大人としては頷くしかなかった。


「わかった」

「やくそくだよ!」


 エイリャはそう言うと、彼を先導するように歩き出した。男が釣られて歩き出すと、ガシャン、ガシャン、という音が鳴る。

 等間隔で鳴る音は、ダカットが歩を進める度に彼の脚から鳴っていた。


「おじさんの足音ってへんなの!」

「体質なんだ」

「へんなの! あはははは!」


 そう言って笑うエイリャを眺めながら、ダカットはこの後しなければならない冒険話に頭を悩ませていた。

基本的に一話の長さはまちまちになる予定です。

ですが短いという声が多い場合は、二話分を連結させて投稿するかも知れません。

その辺の感覚は自分ではよく分からないので、評価や感想を頂けたら嬉しいです。


2017/12/26:文章訂正しました。

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