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プロローグ

 真っ暗な闇夜の中に、小さな焚き火が栄える。

 焚き火は時折薪を弾けさせ、そのたびに舞い上がる火の粉が吊された小ぶりの鍋をあぶっていた。


 静かな夜だ。小さく薪が弾ける音以外には、虫の鳴き声一つも聞こえない。


「……」


 その静けさの中で、ズズズという何かを啜る音が鳴った。


 音を立てたのは、焚き火の前に座っていた大柄な男だ。外套で身を包んだ黒髪の男。彼は左腕だけを外に出し、その手に持った椀でスープを啜っていたのだ。

 熱さからか、彼は時間をかけてちびちびと飲んでいたが、やがて椀に残ったスープが少なくなると、残りをぐいと飲み干した。


「はぁっ」

「おーじさんっ」


 男が止めていた息を吐き出した直後、彼の背後から勢いよく小さな子供が抱きついてきた。後ろを見れば、子供は可愛らしい赤毛の女の子であることが分かる。


「なにのんでるの?」

「エイリャ、寝たんじゃないのか」

「えへへ」


 少女、エイリャは男の問いかけに照れたように笑った。彼女の向こう側には簡素な天幕が張られている。先程まで彼女はその中で寝ていた筈だが、実際には今のような時間まで起きていたのだ。


 男は椀を膝に置き、左腕だけで鍋からお玉でスープを注ぎ足すと、エイリャに向けてその椀を差し出した。


「飲むか」

「うん!」


 エイリャは両手で椀を受け取ると、男の横に座り込んでスープにふーふーと息を吹きかける。

 そして少し前に男がやっていたように、彼女もちびちびとスープを飲み始めた。


 男はそんな少女を眺めながら、呟くように問いかける。


「美味いか」

「うん、おいしい!」

「寒くはないか」

「あったかいよ」

「眠れないか」

「ううん、だいじょうぶだよ」


 男が問いかける度、エイリャは楽しげに応えた。それに対して男はただ淡々と問いを続けるが、やがて問いのネタが尽きて黙り込む。

 男はあまり会話が上手い方ではなかったのである。


「ねえおじさん」

 そうして静かになった男に、今度はエイリャが話しかけた。


「何だ?」

「わたしたち、何処へ行くの?」


 今は夜。二人が行っているのは野宿だ。彼らはここに定住しているわけではない。

 であれば彼らには向かう場所が存在するが、エイリャはそれを知らなかった。


「南だ」

「みなみって、なにがあるの?」

「町がある」

「町!」


 男の応えた内容に、エイリャは目を輝かせる。

「わたし、町にいくのはじめて!」

「そうか」


 小さな子供にとって、町というのは憧れの対象だ。故にエイリャの反応は当然のものと言えたが、それに対する男の態度は素っ気ないものだった。

 彼は小さく答えを返すと、エイリャの頭を左手でぐりぐりと撫でる。


「あうー」

「もう寝ろ。明日の朝にはここを発つ」

「えー」

「町までは距離がある。休まないと辛いぞ」

「はーい」


 男の命令のような言葉にエイリャは頬を膨らませたが、彼女は結局、渋々とではあるが頷いた。


「……ねえ、おじさん」

「なんだ」

「ここで寝てもいい?」


 しかしそれも、無条件でと言うわけではない。彼女はその代わりにと言ったように、男の脇にコロンと転がってみせる。ねだるような仕草だ。

 男はそんなエイリャに、了承するように頷いた。


「ああ」

「やった」


 笑顔で喜ぶエイリャに、男は彼女の外套を引っ張り、彼女の頭が地面に付かないように広げてやる。

 そして彼女の寝床が出来上がると、男はエイリャを見下ろして小さく言葉をかけた。


「エイリャ」

「なあに? おじさん」

「俺のことはダカットと呼べ。長い付き合いになる」


 長い旅の連れに、余所余所しさは要らない。そう言うように、男、ダカットはエイリャの頭を撫でつける。

 エイリャはそんなダカットに、えへへと締まりのない笑顔を見せた。


「うん。ダカットおじさん、おやすみなさい」

「お休み、エイリャ」


 ダカットはそれきり撫でるのを止め、エイリャも彼にくっついて瞳を閉じる。やがてエイリャが寝息を立て始めると、ダカットは彼女の寝顔を見つめながら、静かに焚き火に薪をくべた。


 暖かな夜、静かな夜が更けていく。

 彼ら二人の旅は、今日この夜から始まったのだ。

初投稿です。

多分に読み辛い部分もあると思いますが、宜しければ感想・評価をお願い致します。

辛辣でもいいんじゃよ!


2017/10/26 : 文章を少し修正し、文章間に改行を挿入しました。

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