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今日から俺は四天王!  作者: くらいん
第1章
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1章42話 対決!カイト&α VS ブラッディ・ラヴ その①

人気のない城下とは違い、城内ではアズフィルア国の兵士たちがカイトを襲った。四天王以外との交流をあまり持たなかったカイトは比較的心を楽にして戦った。


とはいえ、彼らもブローやブラッディ、キンライの部下であるため、決して大きな危害を加えてはならない。


必要以上に傷つけず、それでいて立ち向かえない程に相手をする。ある時には能力で壁を作って封じ込め、ある時には天井の崩落で足止めをし、ある時には打撃で気絶まで持ち込み…中には四天王に匹敵するほどの実力を持つ兵士もいたが、今のカイトでは相手にならなかった。


妖精、『フィシカ・エルベハート』と融合、短命の代わりに絶大な力を得ることができる『キーレスト』への変化。膨大な魔力とそれを操る力は、全ての兵士を蹴散らした。



カイトが魔王を討つ理由は2つ。


カイトの周りの人達を傷つける魔王を止めたいから。


魔王にはカイトを操る力を持っている可能性があるから。



(魔王の催暗眼…いわゆる『魔眼』ってやつ。俺の意識を強制的に途切れさせた正体不明の能力だ。魔王はどうも俺を強くさせたがる傾向にある。俺の力を何かに利用しようとしているのは間違いないし、『魔眼』にまだ秘密が隠されているはずだ)


「くそっ。こっちは手札見せてる状態だってのに…とりあえず眼に気をつけて戦うしかない」


城内を走り回りながら、カイトは魔王が佇む王室へと向かっていく。王室は城の最上階。そこへ続く階段はすぐそこだ。





この世界では、『魔力の色による能力』『種族による能力』『外部からの付与や個人的に持つ能力』の3つが存在する。


例えばカイト。それぞれ『青色の魔力による具現化』『人間特有の膨大な魔力』『具現化の超強化』が当てはまる。具現化の超強化においては魔王から与えられた高密度の魔力源、『スペードの証』による外付けの力だ。


この3点から導き出される戦い方は、精密な具現化を膨大な魔力によって再現するトリッキー戦術。




対して魔王。『黒色の魔力による身体の影化、泥化(と思われる)』『鬼族(と思われる)特有の身体硬化』『魔眼による催眠能力(と思われる)』に加えて一国の自然エネルギーを全て吸い取ったことによる『膨大な魔力』。



(せっかく剣技を極めかけている所だが、ここは遠距離から攻めるのが得策だ。となると、ヴァンの『カエンダン』とか、ブローの『エレメント・フォース』『サウザンドアロー』を具現化で再現して攻撃するべきだな。魔王の間までもうすぐ。だが、その前に―――)


走り抜けると、懐かしい広間に出た。いわゆるダンスホールであり、今は亡き元四天王『ソード・キンライ』と王国軍の三銃士『ヴァン・フレイビア』が激闘を繰り広げた舞台である。


広間の瓦礫は片付いてはあるものの、崩落した壁や柱、天井などはそのままで、魔術的な防壁が張られているだけだった。


そして、最上階へ続く階段の先に、彼女はいた。




「―――止まりなさいカイトちゃん。動くと撃たれるわよん」



「…ブラッディ。弓使いだったのか」


四天王の一人、紅一点。『治癒』の能力を持つ大胆でグラマラスな女性。『ブラッディ・ラヴ』が、ピンク色に光る弓を構えて、矢を番えていた。



「アタシ、魔力のキャパ少ないからさ!街のバリアや治癒に回すと攻撃系統の魔術使えないのよね。これなら機構が単純な弓と矢の具現化だけで済むし、敵に近づかないで済むわ」


「退いてくれよ、魔王に用があるんだ。ブラッディだってこの力に敵わないことくらいわかって―――ッ!」


話しながらカイトは歩を進めようとした瞬間。鋭い一矢がカイトを襲う。カイトは瞬時に構え、抜刀の勢いで矢を切り、矢の軌道を変えた。矢はカイトの右脇腹を通り…瞬間―――パチン、と音が鳴り、切り落とした矢が霧のような細かい粒子へと弾けた。


「――――――動いた」


ブラッディは呟くと、そっと弓から手を離した。弓は桃色の魔力を帯び、やがてその端が数本の矢に形作られた。矢は自動的に弓にセットされ、それを確認したかのように弓の弦が引き絞られる。


「言ったでしょう?()()()()って!」


ブラッディが両手を広げると、無数の魔法陣が彼女の背後に出現する。大量の魔法陣はそれぞれ弓矢を形成し、一斉にカイトへ引き絞られる。


「低コストな発射機構とそれに合う弾。そして、『動くものを打て』という単純な命令術式が書き込まれた魔法陣。アタシはココでカイトちゃんが手間取ってるのを見てるってワケ…魔王様のところなんか、行かせないわっ!」


言い終わると、大量の矢がカイトへと発射される。


(不味いっ!バリアを―――)


―――『バリアはダメ!防御に魔力を集中したら動けなくなるわ!遮蔽物に隠れて!』


脳内に聞こえたのは、フィシカの声。その声を信じ、咄嗟に身体の魔力をブースト。ジェット機のように加速し、近くにある大きな柱へと逃げ込む。矢はカイトの後を追うように地面へと刺さり、逃げた先の分厚い柱を無数に突き刺した。隠れた後も、矢は止まることなく柱を打ち付けている。柱に直撃した音がホール内を包む。


「っぶねえ!マシンガンでもねえのに撃ちすぎだろ!」


―――『彼女、頭が良いタイプね?頭脳戦に持ち込まれると厄介だわ。戦略を積み上げられる前に状況を打開しないと』


またもや脳内で声が聞こえる。記憶を全て引き継いだ結果の多重人格だが、主人格よりも冷静に状況を分析してくれている。


「頭が良いタイプだって?ブラッディって何も考えてないような素振りが多かったけど…いや、魔法を教えてくれた時はその片鱗があったか」


「『魔法陣を使いこなす時点でお察しよ。知識は能力や魔力に依存しないもの』―――そうと決まったら、ここから高速で近づいて仕留める!」


カイトは水色の魔力を放出し、全身に纏う。青色の光を煌めかせると、光線のように青い残像を残しながらブラッディの元へ飛んだ。


「あら!案外判断が早いのね!もう少し遅かったら―――」


激しく降り続ける矢雨を置き去りに急接近し、一枚の壁のように展開された弓の裏へ回り込む。抜けた先、標的であるブラッディはカイトへ向かって魔法陣を展開していた。


「―――ここでリタイアだったのにさ!」


(『魔法陣!?』大量の弓矢でブラッディの姿は見えなかったが…『この一瞬で背の丈まである魔法陣を生成なんてあり得ないわ!』)


fixation(フィクセイション)!『炎龍(えんりゅう)の吐息』!」


ブラッディが詠唱をすると目の前の魔法陣が赤く光り、炎が渦となって現れる。炎は大気中の酸素を轟々と燃やしながら、カイトへ迫る。


創造(クリエイト)っ、バリア!」


咄嗟に前方へ魔力を放出、青いエネルギー体は詠唱により瞬時に具現化…半透明な壁へと姿を変えた。


炎はカイトと、カイトを守るバリアを包み、轟音を鳴らし続ける。


「ぐ、ああああああっ!!」


―――『何、カイト!?どうしたの!?』


「それ、悪手よ。四天王を甘く見ないでちょうだい?」


はあ!と声を上げ、ブラッディは魔法陣へ力を入れる。陣の光はさらに増し、呼応する様に炎の勢いも増していく。


「あ、ぐうっ…!ね、熱だ!バリアじゃ防ぎきれないほど熱い…!」


「皮膚が爛れちゃったら後で治してあげるわよ?アタシ、ブローと違って手は抜かない主義なの!魔王倒すなら、アタシぐらい突破しなさいよねっ!」


―――『彼女、赤の魔力属性なのね。しかもこの技、純粋に魔力を炎に変えているだけの単純な仕組み…彼女の腕前なら相当な精度の威力ね』


(正面からは防ぐので精一杯の炎、背面は動くと撃たれる大量の弓矢、このままじっとしてたら熱でノックアウト…いや、何かおかしい!)


カイトは遮蔽物に隠れた時のことを思い出す。『動いたら撃つ』という仕組みであるはずの弓矢。しかし、カイトが遮蔽物に隠れ、動きが止まっている間でも矢雨は降り続いていた。


(考えられるのは―――『()()()()』はブラフ!)


思いついた瞬間、背後から一本の矢が放たれ―――カイトの右脇腹を貫いた。


「がふっ…!」


「嘘に気づいた?でも、もう遅いっ!」


炎を受ける壁を背にして、カイトは咄嗟に振り向いた。突破したはずの弓の群は、全てこちらへ照準を合わせ矢をつがえている。


―――『カイト、ここまで囲まれたら無傷で脱出は無理よ!最小限の隙で逃げなさい!『胡蝶剣舞』で学んだ観察眼を上手く使うのよ!』


「スキを見て、ね…!」


カイトは脇腹に刺さった矢を見る。魔力で形成された矢は、少しずつ像が曖昧になり、大気に混ざるように消えていった。


(…矢の消え方が、違う?)


―――『カイト、来るわ!』


「っ!《創造》『バリア』!」


左手で炎を守るバリア、右手で矢雨を守るバリアを展開する。矢雨はバリアの一部分を局所的に攻撃し、突破を試みている。一方炎は、熱のみがじわじわとカイトを襲っている。相変わらず状況は芳しくない。


「はぁ…はぁ…!」


服なのか、肌なのか、髪なのか。何かが焦げる匂いがする。カイトは汗をダラダラと流しながら、肌を赤く熱らせながら、脱出のチャンスを伺う。


「はぁ…はぁ…矢の、狙い方も…変だ。この物量、確かに機構が単純じゃないと働かないと、思う…ブラッディは魔力が少ないって、ブローも…言ってたしな…はぁ…はぁ…」


炎の出力が少しずつ弱くなっているのを感じる。おそらく炎の攻撃は魔法陣から出力し()()なければならない仕組みだ。であれば、魔法陣から離れるのは不可能。この炎の裏には、魔法陣に魔力を注ぎ続け、疲れを見せているブラッディがいるはず。


まだ、もう少しだけ耐えたら、一気に炎が弱まり逃げの一手が打てるかもしれない。


「矢が集中的に狙っているバリアの先は、俺の右脇腹付近と―――左腰に収めてある剣付近。頭や心臓がある上半身は狙ってない…つまり、『俺』を狙ってない!別の『何かを狙い続ける』機構って事だ!」


頭で考え続けると、別人格であるフィシカと混ざる。直感的に想像をアウトプットし、仮定を作り出していく。


―――『カイト!炎が弱まって…』


「ああ!抜けるぞ!」


左手の魔力をバリアの維持から、剣の生成に変更。技を詠唱する。


明星一閃(みょうじょういっせん)!」


魔力を凝縮―――眩い青を輝かせ、鋭い一撃をバリア越しに炎へ突いた。衝撃波は自身のバリアを破り、炎を蹴散らし、その先の魔法陣まで届いた。


「きゃっ…そんな技覚えてるのねっ!ふう、ホント…慣れるとズルい能力!」


魔法陣のヒビを見て、ブラッディは衝撃波から距離をとり、攻撃を回避する。カイトは汗だらけで息が切れているが、ブラッディも同じく、荒い息遣いをしていた。


「ちょっと疲れちゃったからお休みっ!矢の連射速度を上げるからそれで遊んで待っててね?」


弓が桃色の魔力を纏わせると、周囲に矢が数本生成された。生まれた矢は次々に弓へセットされ、間髪入れずに発射されていく。


「矢雨だけなら飛んで逃げられる!『遮蔽物へ退避よ!』ああ!」


矢雨に対するバリアも解除。瞬時に全身の魔力を噴出、勢いで素早く移動する。


矢の速度は数倍まで上がり、威力も増している。再び柱の影へ隠れたものの、このままでは時間の問題だろう。


「―――っふう!なんとか逃れたな…ぐっ…」


脇腹からは血が滲み、ジクジクとカイトを痛めつけていた。汗が傷口に染みる。


ーーー『ごめんなさい。無闇に近づくのは大失敗ね。止めるべきだった』


「はは、突っ込んだのは俺だし、決めたのも俺だよ。それに収穫もあった…勝てるぜ」




11月くらいに書いてたんですけど詰まってそのままでした。一旦切り上げて出します。

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