1章40話 決戦準備!
カルク村の丘に吹く海風は、カイトを通って過ぎ去っていく。草花が揺られ、サラサラと音を鳴らしながらなびく。
「ここにいたのか。どうだ、回復はしたかい?」
風を感じているカイトを見つけ、ミガルが声をかける。
「『ええ、やっぱりこの村はいいわね。空気が綺麗』」
「…俺はクロサキカイトに話しかけてるんだ」
「『……ああ、悪い、だいぶ回復した」
「ーー飲まれすぎだ。戻れなくなるぞ」
ミガルには、魔王討伐のことを話した。長命のエルフであるミガルならば、『黒い魔力』について何か知っているかもしれないと思ったのだ。
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魔力は6種類ある。赤、青、緑、黄、白、黒の6色に分けられ、それぞれ得意な分野がある。
赤…エネルギーを高密度にする事で自体の身体強化や強い熱を発し炎の生成を行う事が可能。
青…物質の具現化が得意。青の魔力自体温度が非常に低いため、具現化を利用して氷の生成が可能。
緑…空気中の魔力を操りやすく、宙に浮く事や地脈エネルギーを利用し、植物の生成が可能。
黄…物質や知能の低い生物に自身の魔力を注入し強化や使役が可能。魔法剣や召喚獣などに流用できる。
白…時間を操ることが可能。しかし、白の魔力は人工生成の為、希少かつ身体が耐えれず短命な者が多い。
黒…空間を操ることが可能。しかし、白の魔力と同様に希少であり、短命である。
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これらの情報は、城に来たばかりのカイトがメモに記したものだ。どう考えても、白と黒の記述が少ない。情報が少ない。
「黒い魔力についてだが…はっきり言ってなんでもアリなタイプだ。だからこそ『空間』という曖昧な表現で表すしかないんだ。話を聞くに、右腕の形が大きく変わったらしいが、これは魔力だろう」
ミガルが考察を話す。カイトはミガルの元へ近づき、話を聞く。
「てことは…空間をいじって、形を変えている?」
「それじゃあ腕が千切れる。腕を黒い魔力に染めて空間と同化させてるんだ。泥の様に見えるのは、あえて完全に一体化していないからだろう。肉体の情報が残っているんだ。そしてお前らが放った、『明星一閃』という『光』を扱う技で腕が消えることから、魔王は『影』という概念に空間を見出し、利用しているんだろう。とすれば、大量の腕で攻撃してくるのも納得がいく。実体の証明が不安定だから腕一本じゃあ脆いんだ」
「概念?実体?ちょって待て急に話が難しくなった」
「簡単に言うと、『影』と一体化することで自在に動かせる。影だから当然、ヘニャヘニャだし、光に弱い」
「ふうん…影なら、腕を硬化したり目に特別な力を宿すことも可能?」
魔王と戦った時に出会した能力。自在に動き、増える右腕。金属の様に硬くなる左腕。催眠を仕掛けてきた眼。そのどれもが厄介なものだった。しかしそのどれもがヘニャヘニャで、光に弱いのならーー
「いや、それぞれ独立して働くものだろう。性質がバラバラ過ぎる。腕を硬化させるものは、単純に種族としての能力だな。『鬼』族の典型的な能力だ。そして眼の能力、基本的に『魔眼』は個人で開花したり他人から受け取るものが殆どだ。魔力や種族によるものではない、個人の能力と言っていいだろう」
「鬼、か。鬼はどんな種族なんだ?」
「うむ。パワーが強く、ツノの力によって身体に負荷をかけ、力をより高める。全体的に大きいカラダをしているのが特徴だ。性格としても、義理堅い奴が多く、感情が豊かだな」
カイトは魔王の姿を思い出す。
ストレートの黒髪にはツノなんてとか見つからない。
召喚されてすぐに「ちっさいなー」と呟いてしまうほどの小柄。というかほぼ子供。
性格においても義理などなく、常に冷酷だった。
「いや、俺がキーレストになった時にバカ笑ってたな。嫌な方に感情が豊かだな」
「ツノが見えなかった?ということは、本領を発揮していないか、別の種族か…いずれにせよ、戦い方はある程度固定されたな」
「ああ。相手の眼を見ず、影を光で破る。後は、単純なパワー比べだ」
「鬼かもしれない相手にパワー比べ、ね。魔力性質が天才級の『赤』ならわからなくもないが…」
「頼りになるのはこの身一つだけだ。どうにかするさ」
「増援は見込めないのか」
「仲間を増やしたら俺が守らなきゃいけないから、防戦に傾く。魔王もソコを突いてくるだろうな」
「…へえ?守らなきゃ、ね」
「ああ、俺のせいで誰かが死ぬのは耐えられない。そのための戦いだ…魔力、だいぶ戻ったよ。ありがとうな。明日には出る」
「こちらこそ。悪いが俺は村から出られない身でね、君から良い知らせが来ることを楽しみにしていよう」
「ああ。明日だ。明日、決着がつく」
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3日前…
「がっ…ぐっ…なんで、バレて…」
「っち!胸糞わりーヤツだぜ。カイトの真似して王城に入り込むなんてな」
ブローの能力は『変装』。対象の相手を何もかもコピーして、なりすます事ができる。話す内容も、意識は本人ではなくコピー元になっている。コピー元が知り合いだったとしても、違和感なくやり過ごす事ができる。
はずだ。
しかし現状、変装をしたブローは首を絞められ、宙に浮いている。
「なんでバレたか、だぁ?コッチにはめちゃくちゃ眼の良狙撃手がいるんでな、バレて当然なのさ。おいレツ!これでいーんだな!?」
「うん。そいつ、カイトお兄ちゃんじゃない。この微かに見える緑色の魔力…四天王の『ブロー・シェイト』だ」
「が、ぐ…う」
「ま、つーわけだ。単独で乗り込むなんざー、随分度胸があるじゃねーか。目的はなんだ、言え」
ヴァンはカイトの姿をしたブローを、さらにきつく締め上げる。
「ぐっ…俺が死ねば、カイトは助からないかもしれない…離して、くれ」
「助からねーだと?おい、レツ」
「…嘘は言ってないみたい。四天王、抵抗しないと誓えるか」
「誓う。魔王様に、いや、カイトに誓うよ」
「…ふん、俺ら側の勇者に見つからなくてよかったな…で?カイトが何だって?」
レツの話を聞き、ヴァンは手を緩める。ブローは変装を解き、喉元を抑えながら苦しそうに咳き込む。それから、決死の覚悟をしたような目つきで、ヴァンを見た。
「けほっ、けほっ…三銃士達にお願いがあってな。カイトと一緒に魔王を討伐して欲しいんだ」
「…は?」
魔王討伐まで、あと少し。




