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今日から俺は四天王!  作者: くらいん
第1章
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1章38話 チート能力の正体



「パーカーは、いらないか。もう着ないよな…あ、と、は…」



四天王であり、勇者である『黒崎海斗』は自室の整理をしていた。簡単な話、魔王城から出ていくことにしたのだ。もっと言うと、これから四天王ではなくなるし、勇者とも呼ばれなくなるかもしれない。


これまでの生活の様子から、この世界における『勇者』とは、RPGに出てくるようなものとニュアンスが違うのだろう。ユウシャ、という役職や伝説ではなく、『勇ましい者』としての意味でなければ、カイトは当てはまらない。


カイトは国の人々に認められているから『勇者』なのであって、その国を出るのであればーーーましてやその国の王を殺すのであれば、そう呼ばれることはなくなるだろう。


「まあ、四天王とか勇者とか、もうどうでもいいけどな」


異世界に浮かれていたカイトも、仲間の死によって現実を受け止めた。もう浮かれない。気を緩めない。一つの目的のために躊躇わないことを決めたのだ。







あらかたの掃除を終え、荷物を纏めると、部屋の物寂しい様子を感じ、カイトはため息をついた。


「この部屋を借りてから、もう直ぐで一年経つのか。高校の寮に次ぐ長さだったなあ。ここまで愛着の湧くベッドはいつ振りだったか…あ?」


カイトが寝床を見つめると、ベッドと壁の間に何かが挟まっていることに気がつく。窓の日光に反射しでは輝くソレは、気がつかなかったのが不思議なくらいの存在感を放っていた。


近づき、その輝きに手を伸ばす。


「…持ち手?なんか、結構長いなコレ。何が挟まって…」


掴んだソレを、隙間からズルズルと取り出す。引く手に重みがフッとなくなり、そのブツを取り出したことを察知する。


手に握ったソレは、数年の歳月が経ったような埃を被ったーーー秘剣オメガであった。


「あっ?…あーーーっ!」


瞬間、カイトの脳内に溢れ出した存在しないきおーーー否、めっちゃ前の記憶。1章8話くらいの記憶。


「しまった、全くもって存在を忘れてた!どうしよ、置いておくわけにいかないしなあ。質屋にでも入れるか」


秘剣オメガ、ニカニカと笑う、態度の悪い老商人から貰った剣。持ち主を選ぶという伝説の剣だという。カイトは前に一度、機械魔兵という怪物での戦闘でオメガを使用したが、それ以降は使うのをやめていた。



ともかく、重い。

ずっしりとくるその剣は、振り回すには不向きだった。

機械魔兵たちの体は紙風船のような薄い膜だったため切ることができたが、戦闘面で全く役に立たず、基本は気弾でのバトルになっていた。


「それに、剣なら自分で作れるしな」


四天王となった者に与えられる能力。『スペードの証』は具現化の大幅な補助であり、剣をイメージすれば生成できる。武器を使い捨てることができるという戦闘スタイルは、大雑把なカイトにとってピッタリだった。


「本棚は、ブローのばっかりか。うし、出る」


鏡の隣に置かれた本棚には、植物関係の本が置かれていた。『トド国の不思議な植物リマスター版』『日本人に教えるミリネア植物の育て方』『バカな人間はこう動かせ!礼儀編』


「…燃やしていこうかな。いやいいか」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※







「フン、起きたかと思えばどこへ行く?」


魔王城を出るとき、魔王が門に寄っかかて一言告げた。


「…テメェこそ、どのツラ下げて俺の前に居やがる」


ここから出る以上、どこかで会うとは分かっていた。だから、もう決めているのだ。


「我が国の大事な戦力だろう?寝たきりの貴様が心配でな、こうして見に―――」


―――放たれた『明星一閃』は、魔王の喉元を紙一重で止められる。


瞬間移動したかの様に、魔王の目前に現れたカイト。

魔王は咄嗟に『暗手』を発動、絡ませて動きを止めた。


剣先は凄まじい力を押さえつけられ、カタカタと震えている。


「―――退()け。一週間後、万全にしてまた来てやるよ」


決めたのだ。もう魔王に対して無であろうと。


「フ、その目…寝ている間にまた強くなったか?俺への目つきが違う…何かを覚悟した目だ」


伸ばされた暗手をスルスルと戻すと、カイトも急造の剣を消滅させる。



「いいだろう、約束しよう。貴様が戻るまでの一週間、誰も殺すことはしない」


「勝手にしろチビ」


カイトはそのまま魔王を横切り、門を抜けて歩き出した。




城外へ出ると、青色の煌く魔力を纏わせ、放出。

空を飛んでトド国へ向かった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※








―――『トド国へ行ってどうするの?』


ジェット機の様な空の旅。

ふと、頭の中でフィシカの声が話しかける。


記憶と深く関わりがある生命エネルギー。ソレを全て魔力に変換し、カイトに溶けたフィシカ。カイトは今、フィシカの記憶全てを受け継いでいる。


全く他人の、完璧に独立した記憶。脳内で人格が分かれるのは自然なことだった。




「この世界、魔力と生命エネルギー…とは別に自然エネルギーがあるだろ?空気に溶けてるっていうやつ」


『ええ、木々の多いトド国では豊富な自然エネルギーがあるわ。身体が魔力でできている妖精族は、自然エネルギーを取り込んで魔力を補給しているの』


「そう、魔力の補給。いくらニンゲンの魔力保有量が多いからって、戦いでガス欠しちゃあ意味がない。溜めれるモンは少しでも溜めないとな」


『確かに、妖精と融合した『キーレスト』ならそれも可能かもしれないわね。本来、自然エネルギーの吸収は術式がないとできないけど、今のカイトなら無くても回復できるはずだわ』


「ああ。どうやら俺の具現化能力、ちょっと問題がある。俺の記憶が曖昧なものを作るとき、像がぼやけてうまく形成されないんだが、それでも無理矢理形にしようとすると、大幅に魔力を消費して作ることができる。問題っていうのは、曖昧かどうかが判断しづらいってことだ」


『自分では完璧に理解したと思っていても、想像以上に消費してしまう。技の再現が博打行為になってしまうのね。強力な技を、全く理解していない状態で再現したら、身体に相当な負荷がかかるはず。スキも生まれるわ』





例えば、『明星一閃』や『カエンダン』などの技は、本物を何度も見たり、食らって体験したり、自分自身が何度も発動したり…体験し、理解した。再現するための余分な魔力は削られ、魔力消費も本物に近くなっていく。




「起源やしくみを知らなくても再現できる…という都合上、本物より魔力消費が少ない場合もあり得るだろう」


『使えば使うほど、洗練されていく。技を自分のものにしていくのね。理解が甘いものを再現するときに魔力を大量に消費するのはなぜ?』




「記憶に紐づけられた生命エネルギー、それを変換した魔力…きっと、魔力で俺の記憶を巡っているんだ。体験を記憶の中で反芻させて、再現度を高める。だから消費が激しい」




『それが、超具現化の仕組み…技を組み合わせるときも、脳内で再現し、それを魔力で通している。だから具現化が可能なのね』


「…この仕組みがもし本当なら、やっぱりこの能力ぶっ壊れてる…!初めて魔王に会ったとき、『スペードの証は昔から人間が向いている』なんて言ってたが…向いてるなんてモンじゃない、魔力保有量が多い奴専用の能力だ…!」


『洗練した技の魔力消費が少ないこと?技の組み合わせ?トリッキーな戦闘スタイル?確かに応用の効く能力ね。魔力の動きも大きいから、確かに専用と言ってもーーー』


「違う!ヤベェのは、一度でも見てしまえばーーーいや、記憶にさえあれば、その技を完璧に再現できてしまうという点だ!魔力がある限りは、どんなものでも俺の技になっちまう。それに、妖精の記憶を引き継げてしまう以上、俺自身が経験しなくてもいいんだ!ーーーーーーやりようによっては非人道的なチート技だよ」





ーーー魔術の達人が、妖精族だったとしよう。



その男は、小さい頃から魔術が好きで、身体が魔力で作られた自分を誇りに思った。


その好奇心から、幼い頃から親元を離れ、世界中の魔導書を読み漁った。中には封印された魔導書を手に入れるため、危険を冒すこともあった。究極の魔術を求める苦しい旅の果てに、腕を失うこともあった。片目を失うこともあった。


魔術に没頭し、友人や家族を棄て、自分の寿命すらも犠牲にした。



ついにその魔術師は幾千もの夜を超えて、一つの大魔術を開発した。





そして、それを見た人間は魔術師を取り込み―――なんの努力もせず大魔術を得た。


そんなことが、罷り通るのだ。







カイトは顔を引き締め、脳内のフィシカに告げる。


「トド国に来たのは、魔力回復のためだけじゃない。俺たちはもっと『キーレスト』について知る必要がある…目的地は、トド国の最北。妖精が暮らすフィシカの故郷ーーーカルク村だ!」




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