1章 3話 国の事情と専門用語
歓談の間の壁に掛けてある時計は、9時40分辺りを指している。
「ふむ、集まりましたな。では、四天王定期集会を始めましょう。」
口を開いたのはダンディなおじいさん。
昔から、異世界のおじいちゃんは強いと決まっているのだ。きっと怖くて強いに違いない。
一体、定期集会とはどのような話をするのだろうか。きっと異世界独特の、ロマン溢れる作戦会議みたいな感じがそこにはあるはずだ。
「そうですね...。じゃあいつも通り今日のご飯当番を....」
今した予想と大きく外れてる気が。
「おいじーさん、自己紹介した方がいいんじゃねーか。」
「あの、今なんかほんわかした会話が...」
あのおじいさんはそういう人であって、おそらく他はブローみたいに真面目に。
「アタシはイヤよ!昨日も一昨日も当番だったもん!」
「おめーはカレー作っただけだろうが!」
「しかし、美味でしたぞ。」
「そういう事を言ってるんじゃなくて!俺はカレーのルーだけ作るその精神が...」
考えるのをやめよう。
「あのさ!俺から自己紹介するよ。俺は黒崎海斗。異世界召喚されてきて、17歳。好きな色は青!えーと...あとは....カレーも好きだよ!」
出だしは大事だ。この3人に圧倒されないようにしないとな。どう見ても圧倒されるなんて事はなさそうだが。
海斗の自己紹介が終わり、3人も次々に話しだした。
「おっと、自己紹介...そうでしたな。では私も。『ダイヤ』の『ソード・キンライ』と申します。主に、武力や魔王様の側近をしています。後は、趣味で剣術指南や、掃除です。これからよろしくお願いします。カレーは好きですぞ。」
執事服を着こなし、腰に長剣を装備している。彼の目は優しく、それでいて少し鋭さを持つ。顎髭はもみあげまで伸び、それがまた白髪の良さを引き立てている。葉巻が似合いそうな、異世界のダンディである。
「『クローバー』の『ブロー・シェイト』だ。国内の環境の整備、書類整理をしてる。後は、『スペード』のお前の世話だ。カレーは好きだ。」
ブローは全身フードで、魔法の力なのか顔が暗くて見えない。身長からして海斗と同じくらいの歳である事はわかるが、声は中性的で男なのか女なのかはっきりしない。今後に期待である。
「『ハート』の『ブラッディ・ラヴ』よ。主に周りをうろちょろして警備や手伝いをしてるわ!もっと言うとアタシは何にもしてないわ!雑用ね!カレーは大好きよ!カレーしか作れないわ!」
痴女みたいな服をしている。谷間のよく見える、赤を基調としたそのボンテージのような服装は目のやり場にとても困る。ガーターベルトがいい感じにエロい。ただし、話し方からワガママな雰囲気と、品の悪さが伺える。笑顔がステキである。
ある疑問が浮かんだ。
「えっと、キンライさんは武力関係の仕事と、魔王の側近で合ってますか?」
「ええ、敬語でなくてもいいですよ。同じ四天王じゃないですか。」
そのままそっくり返しても良いところだが、彼には敬語がなんとなくあってるような気がしたので海斗は「じゃ、遠慮なく」と言って流した。
「で、ブローが環境整備や、書類整理。ブラッディさん、が警備だよね。」
2人は不思議そうに頷いた。
「で、俺は?『スペード』ってなんの仕事すんの?」
そう。昨日魔王からスペードがどうのこうの言われたが、仕事自体は聞かされていない。何故スペードが空いていたのかも。
「それはー、みんなのまとめやく!」
ビシッと手を挙げたラヴが言った。
「で、スペードってなにすんの?ぶーちゃん」
ちょっとぉ!アタシ言ったじゃん!なんて声が聞こえるが大雑把すぎて話にならない気がしたのでブローに聞き直した。
「そうだな、お前以外の僕ら3人はそれぞれ部隊を持っている。その部隊と僕ら3人をまとめ、全体を動かすのがお前の仕事だ。正直、なにしても構わない。言ってしまえば僕らのリーダーだ。」
(そんなめんどくさ...大変そうな仕事をなんで俺に...!)
おそらく俺は今、嫌な顏をしていたのだろう、ブローが立ち上がり見下ろしながら言葉を放った。
「何故自分が、と思ったか?甘いな。人間という種族の器を持つお前だから、手違いでも魔王軍に現れた勇者がお前だからだ。残念だがお前しかいない。どういうつもりか理解できないが、お前はこの国に現れた、たった独りのニンゲンの勇者だ。少しは考えてくれ。」
彼は冷たく言葉を放った。なんだよ。脅さなくたって、いいだろ。海斗は不満そうな目をブローに向け、それから目を逸らした。
キンライが口を開いた。
「さて、海斗殿はこの国について、いやこの世界について詳しく知らない様子。私たち3人で教えてあげましょう。今日の定期集会の内容は決まりですね。」
ブローがドサっと座り、それから3人が説明に入った。
「ミリネア、と呼ばれているこの世界は4つの国に分かれています。アズフィルア、サンライト、ドド、メカトロニムの4つです。特徴を挙げましょう。」
長い説明になるだろう、キンライの話の入りからカイトはそう感じた。
我が国アズフィルアは、魔族が多く暮らす国です。魔法に関しては一番と言えるでしょう。ドドの国を中心に考えるなら、東の位置にあります。
次にサンライト、王国軍ですね。人間に似た種族『オビ』が多く住んでいます。まあ、こちらでは人間と呼んでいますし、貴方のような異世界から来た者も『ニンゲン』と呼んでいますので、見た目に大した変わりはないです。
地図では、ドドの国から西の方角。サンライト国とは長い間敵対関係にあります。しかし、お互い攻めきれず硬直状態が続いています。
ここで現れたのが『勇者』です。こちらの時間軸で5000年。5000年に一度、地球のとある一族達から召喚されるのです。
勇者とは他の地球の人間よりも魔力が高く、非常に強力な者なのです。
そして戦争が硬直状態の今、どちらかに勇者が来る事で世界の流れは一気に変わるはずでした。
...変わるはずだったのですがまさかの事態が起きました。2人の勇者です。この様子では、まだ硬直は解けないでしょう。
キンライは敵国、『サンライト』と自国、『アズフィルア』の説明を簡単にしてくれた。
5000年に一度の勇者。それが今回は2人...確かに自体は混乱するだろうと思った。
「場を悪くしてすまなかったな。」
キンライの話が終わると、ブローが別の国について話し始めた。
さて、ドドの国は魔族と人間が共存している。地方の訛りで、『ドド』共『トド』とも言う...まあ、どうでもいいか。
ドドの国は、アズフィルアとサンライトの中心にある、戦いが嫌いな王が治める平和な国さ。
ただ、アズフィルアからサンライトに行く時はドドの国を通るしかない。空の経路、海の経路はメカトロニムに行く時のみと4つの国が決めたんだ。
ドドは商業が盛んだ。加えて森林が多く、動物も多く暮らす。そうだな、エルフやオーク、ゴブリンなどの種族が多いかな。お前も行ってみるといい。サンライトの伏兵に気をつける必要があるがな。
ちなみに王はニンゲン、と言う噂もある。だが人間かニンゲンかなんて魔力くらいしか変わらない。本当かどうかは怪しいな。
「えーとね、メカトロニムって言うのは機械と魔力を合体させたような国よ。」
最後に、ブラッディが話す。4つ目の国の話だ。
アタシはよくわかんないけど、機械を魔力で動かして兵器作ったり、便利な道具作ったり...。
あっ!そうそう、あの国からウチに来た機械技師がいるわよ!確かアタシの部隊にいたわ。話聞いて来てもいいんじゃない?地球の文化の応用をいっぱいしてるから、馴染みのあるアイテムでも作ってるんじゃないかしらね。
でもあそこの王様ってアタシ見た事ないわ。て言うか、あの国自体ナニ考えてるかよくわかんないんだよね。
「覚えましたかな?」
「ドドしか頭に入ってこなかった。」
「名前のインパクトがでかいからだろう。まあ、今はそんなに覚える必要はない。ひとまずは、自分の国が『アズフィルア』であること、敵が『サンライト』だと言うことを覚えてればいい」
「そーよ、アタシなんてアズフィルア以外わかんないわ。」
「駄目では?」
一気に4つの国の事を教えられたが、海斗は完全に理解していないようだ。
ぶっちゃけ4つ一気に言われてもわからないのが普通だ。別にこの第3話だけを読み返す必要はない。
一息ついたところで、4人は時計を見た。11時50分辺りを指していた。
「おや、お昼の時間ですかな。さあさあ食べましょう。カレーを食べましょう。」
キンライはゆっくりを席を立ち、食堂へ向かった。
「おいじーさん、今日なんもしてねーぞ僕ら。」
ブローが続く。
「いいんじゃない?午後から仕事しましょ。カイト君もいるしね!」
お前はいつも何もしてないだろう。
ブローの声が聞こえて、そしてラヴも歩いていった。
「...俺もカレー食うかな。」
そうして9時30分終了予定だった会議室、歓談の間の椅子は、暖かいまま正午を迎えた。
とても大事な話ですが、ブラッディ・ラヴはカレーしか作れません。甘口のみです。キンライさんは辛口が好みですが、カレー自体が好きなので口を挟みません。ブローはカレーライスが好きです。
あと、これはどうでもいいんですけど、今後もこんな感じのゆったりしたペースのつもりです。よろしくお願いします。