1章30話 フィシカ・エルベハート②
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「―――――ァァアアアッ!!」
『ガッッッッ!!!!!』木刀と木刀がぶつかる。耳で聞くよりも速く、大気の震えが体に…!目紛しいほどの情報が、眼球に…!弾く―――弾く、弾く!はじく!はじくっ!手数を減らすなっ『 ゴッ!』パワーで勝負するなっ『ガガガガガガ』いなせ!かわせ!瞬きすら惜しいのだから!『隙』を探す!それは思考より、呼吸より、心拍よ『バゴッッ!』り、優先しなくてはならないっ!それだけが、『私』の勝ち筋――――!
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―――轟音は止まない。私とキンライさんの、木刀が弾き合う音が、道場内を震わせる。打ち合いを始めてから、既に十分が経とうとしていた。私はこの十分間、彼の一撃を受け流したり、打ち返したり、避けたり…とにかく、守りで手一杯だ。
打ち合いをしている内に少しだけ冷静を取り戻した私は、この戦いがどれだけ不利であるかを悟った。
体格差はどこからどう見ても私、『フィシカ・パロム』の方が小さい。妖精の数え年で十歳の私――に対して、『ソード・キンライ』さんは恐らく四、五十歳。彼は私の身長の2倍以上はあり、圧倒的なパワーで私をねじ伏せる。私の腕力なんて、大の大人からすれば微弱なものだろう。
なので、力では勝負しない。木刀ならば多少の無理は聞く。彼の剣撃を受け流し、『隙』を作り、反撃を確実なものにする。そういう作戦だった。
…おかしい。隙が作れない。彼は異常だ!―――何故、何故弾いたはずの木刀が、目の前にあるの?こんなのどうしようもないじゃない…!
結果を端的に言うと、私の惨敗だった。終わり方も実に呆気ないもので――彼について行けず、私の鈍った一振りを全力で叩き返された。麻痺した手から離れた新品の木刀は、今や傷だらけの木刀になって、道場の隅へ転がっていった。両膝を崩しながらそれを見る私も傷だらけで、そしてそのまま意識を失ってしまったのだ。
「―――よ、起きたか嬢ちゃん。悪いな、夕方になっちまった」
目がさめると私は道場の縁側で仰向けに寝ていて、すぐ横でキンライさんが夕陽を眺めていた。ハッと意識が戻り、道場内を見たけど、もう影が落ちていて、人の気配は一切なかった。再び、私は寝転び、うつ伏せになった。肩を震わせ、みっともなく大きな声で泣いた。悔しくて泣いたのは、初めてだった。
「キンライさんも、剣術の天才なのね」
精一杯泣いた後、真っ赤に腫らした私が拗ねたように聞くと、彼はホッとして、それから笑った。
「天才?いいや違う。努力したのさ」
努力。この人も努力を棚に上げて――
「嬢ちゃんさ、きっと勘違いしてるぜ」
私の表情を見るなり、彼は言った。
「嬢ちゃんは…そうだな…剣が上手い!それは変わりようのない事実だ」
「アンタに負けたわ」
「経験が違うとも!負けたら『剣豪』の名折れだね!…俺が十五の時よりも、嬢ちゃんは強いよ。嬢ちゃんは何歳だ?」
「…十歳。それと、『フィシカ・パロム』よ。パロムは妖精にしかない姓だからフィシカって呼んで」
「フィシカ、お前は剣が上手い。それもただ上手いだけじゃ無い。この村の中で、師範すらも超えるレベルで上手い」
「そうよ、剣の天才と呼ばれていたもの。」
「きっと、周りからは良くない風に言われてたんだろ?『俺たちはこんなに頑張ってるのに、なんでお前なんかに負けないといけないんだ』みたいにな」
「…ええそうよ。だから努力をする奴は嫌い」
「ソコだよ。なんで嫌いなのか、言ってみな」
「…自分の為に努力する人なんて居ないわ。人は努力をする時、必ず周りに自慢するもの。絶対よ。『自分はこんなに頑張っている』『自分はお前より人間性で優れている』…それを見せつけてくる事に腹が立つの。私は彼らに何もしていないのに。…あの三人組の会話は聞いたでしょ?あいつらは『努力』を盾にして、努力する必要のない私を責め立てるの。それが毎日続いて――気づいたら、朝の自主練習をしている人全員が『努力を見せつける』奴らに見えてた」
「…努力をする必要が無いっていうのは?」
「んと…周りから『天才』とか『センスが良い』とか『才能がある』とか言われている内に気がついたんだけどね。先天的な剣の才能を褒めてくれる人全員、私が努力をしていると言う前提が無いの。だから、私に努力は要らないのかなぁって」
「なるほどな。じゃあ剣術の練習はしたことないんだな」
「うん。何をしたら努力になるのかわからなくて…。一回だけ、一回だけよ?道場のお昼休みで、素振りをしてみたの」
「どうだった?」
「何も。ただ、道場内の皆が驚いた顔をしていたから――きっと私に努力は似合わないんだなって」
「驚いた顔ね。ちょっと傷ついたろ」
「それはもう!やれと言ったのに、いざやったら心外な顔なんて、私にどうしろと言うのよ。だから努力をする人なんて嫌いなのよ」
「ん、大体わかった!」
「え?」
私の十年間で培ってきた人生観を述べると、キンライさんは目を細め、ニヤリと笑った。
「若いな、少女!」
なんだかものすごくバカにされた気分になり、腹が立った。こうまで弱音を吐き出したのに、一体何のつもりなのよ。
「いや、言い方が悪かったか?にしても…環境が悪かった…としかフォロー出来んが、それにしても捻くれた十歳児だな」
キンライさんは続ける。
「最初も言ったが、勘違いなんだよ。ハッキリ言ってやるが、お前さんは『天才』じゃない。確かに村では一番かもしれんが、こんなレベルの低いところで粋がってるようじゃまだまだヒヨッコだとも」
「天才じゃ、ない?」
「ああ、フィシカ・パロムは剣術が得意な普通の娘だ。まだまだ努力が足りないね」
初めて言われた言葉に思考が追いつかない。そうか、村の外に出れば、私より剣が優れている人がいる可能性がある!現に、このキンライという人も村の外から来てるじゃないの!
「勘違いはまだあるぞ。『努力を自慢する奴』の話だが、過敏になり過ぎだな。確かに努力をお飾りにしようとする奴はいるし、なんなら実際に努力は装飾品に成り得る。けど、誰しもがそうって訳じゃない」
キンライさんは私にキッパリと言う。
「全員が全員、お前に見せつけてる訳無いから。まあ、そうだな…そのくらいの年齢なら良くある事だよ」
キンライさんは私の頭を、励ますように大きな手でポンポンと叩いた。
話が終わる頃には、夕陽が沈みかけていて、村は綺麗なオレンジ色に染まっていた。動くことのできない私は、キンライさんにおんぶされていた。筋肉質な体からは、ドッシリとした頼もしさが感じられた。
「綺麗な村だな。ここは」
「ねえ、キンライさんは何の為に努力してるの?」
背中から下ろしてもらった私は、家の扉を開ける前に、気になることを彼に聞いた。
「そういやその話はしてなかったな。フィシカは『人は自分の為に努力をしない』と言うが、それも大袈裟に考えすぎだ。証拠に、俺は自分の為に努力をしている」
「どうして?」
「一番の理由としては、剣が好きだから!…だな。世の中には、周りの目より自分の目を大事にする奴もいるんだよ」
私を家まで送ると、キンライさんは来た道を戻ろうとした。私は、彼にまだ聞きたいことがあったので呼び止めたが、
「オジサンはもう眠いんでな。もうめんどいから明日聞いてやんよ」
軽くあしらわれたような気がして、また腹が立った。
その日の晩、私は浴槽の中に浸かりながら今日の振り返りをしていた。今日の私は、天才らしく振舞えていたかどうか。明日の私は、どう振舞えばいいか。それを考えるのが日課だった。考えてみると、今日の私は非常に落ち着きがなく、恥ずかしい所ばかりを彼に見せた。負けなどという醜態を晒し、目の前で気絶。不幸中の幸いか、門下生は誰一人として残っていなかったので、この出来事はキンライさんと師範、そして私だけが知っている。が、その後だ。気絶から目覚めた後、大声で泣きだしたではないか。私は赤面し、浴槽のお湯をブクブクと口で泡立たせた。今日の醜態を思い返す内に、私は何故かキンライさんに苛立ちを覚えた。私はすぐに風呂から出て、さっさと寝ることにした。
次の日。私は目がいつも通り身支度をして、道場まで走っていった。景色を見ると、張り付くような冷たい風があたりを包んでいたので、「いつもより早い朝なんだな」と感じた。場内に入ると、すぐに素振りの音が聞こえた。空気を鋭く切る音だ。一定の間隔で、絶え間無く。耳を澄ませると、上履きと床が擦れる高い音、木刀を握り直す低い音、そして彼の息遣いが聞こえた。
彼の手が止まる。汗を肩で拭うと、半開きの扉から覗いている私と目が合ってしまった。バレた。
「よう、今日は随分と早いんだな。それともいつも早いのか?―――まあ、なんにせよ…おはよう、フィシカ」
むぅ…目が合ってしまったことに屈辱を感じつつ、私も優しく挨拶を返した。この数週間、彼が剣を教えようとしてくれるのだ。瞬間、私は昨日の醜態を思い出した。顔が引きつりそうになるが、抑える。こんな醜態を晒した相手に、教わる事など何もない。と言うより学ぶ事があって欲しく無い。そんな複雑な心境で、私は淑女らしい挨拶を心掛けた。
「ええ、おはようございます――――キンライさん。私は皆より、少しだけ早いのよ?」
ああ、またどうでも良い嘘をついてしまった。本当はもっと寝ていたいのにね。
「嘘つけ。本当はもっと寝てたいんだろ」
「そっそんな事無いわよ!」
ドキッとして、つい口調が荒くなる。彼の前だと、どうしても突っ張ってしまう。
「まあ、自主練の仕方もわからないんだろ?早く支度して、こっち来い。稽古つけてやるよ」
そう言って、彼は再び素振りを始めた。素振りを改めて見ると、一振りに丁寧さが感じられ、振るごとに重さ、速さ、技術が増しているようだった。そんな振りを見ている内に、さっきまで私が感じていた複雑な感情はもう感じなくなっていた。
それから、私の生活は一変した。朝はみんなより先に来て、キンライさんと練習。午後は皆が帰った後もキンライさんと練習。退屈だった道場はあっという間に変わっていった。
「ミガルは…あの師範はレベルを低めに設定してたからな。他の連中が丁度いいくらいだから、嬢ちゃんが退屈なのも頷ける」
「剣士一筋なら剣に魔力を通す事が多い。出来てんのは嬢ちゃんだけみたいだがなぁ」
「挙げるなら観察眼。フィシカ、それがお前の長所だ」
「まあ筋力が足らんな。何もしなかったツケだ。技術だけじゃ伸び悩むぞ」
「『技』の一つや二つ教えてやるよ…一番難しいヤツ?参ったなぁ」
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期間にして三週間。私はひたすらにキンライさんから剣を学んでいた。それまでは完璧だと感じていた私の振りは、日に日に精度を増していき、自分が成長しているのを感じる度に、「彼に近づいている」と思い嬉しくなった。筋力の増加はもちろんのこと、道場では教えてくれなかった『技』というものを幾つか教えてもらった。簡単なものは一目で覚える事ができたが、何度試してもマスター出来ない技があった。そのうちの一つが―――
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「『胡蝶剣舞』」
「こちょうけんぶ?剣舞…踊るの?戦ってるのに?」
「踊ってるように見えるんだよ。動きに一切の無駄を無くし、相手の隙を適確にとらえる――やってやるよ、来な」
「――――ふっ!」
木刀をキンライさんに打ち込む。
人には必ずクセがある。
キンライさんにだって、数日間打ち込んでいるとある程度のクセを感じる。
彼は踏み込みが強く、振りも意外と大振り気味。一振りの後の隙が大きく、動き続けるというよりは、その場に止まって打ち合いを挑んでくるので、足は止まりがちだ。(ただし、天才の私が極限まで集中して粗探しをし、やっと見つけられたもの。気晴らし程度にしかならず、あって無いようなものなのよね)
とにかく、クセを読めば自然と戦いに苦労しなくなるのである。次の一手、二手、三手を読みやすいからだ。
打ち合いをし続け、彼の重く鋭い剣撃を耐え続ける。弾かれても、いなしきれなくてもなんとか体勢を立て直し、次の一撃に耐えられる。だけど、これじゃ…
「くっ、ね、ねえ!何も変わらないじゃ無いの!」
木刀を振り下ろし、数歩下がって私は叫んだ。
「お、そうだ。今のは何も変わってない。『胡蝶剣舞』の『無駄を一切無くし相手の隙を必ず打つ』という特徴がないな。前振りだよ前振り。今からやっから、アザだらけを覚悟しとけよ――」
「なによ、アンタの大振りなんか―――え?」
彼の目つきが変わっている。辺りに黄金色の魔力が満ち始め、彼を中心に薄く渦巻く。構えも変わっている…が、何か特別な型をしている訳でもなくただふらりと立ち尽くしているようにも見える。彼は呟く。
「――――『胡蝶剣舞』」
渦は急速に彼に絡まり、淡く溶ける。キンライさんの身体が金色に優しく光る。さらに木刀へ光が絡まり、やがて輝く一本に変わる。
「―――この技は、カウンターに近い。おいで、フィシカ」
今までとは違った空気を感じる。これが、彼の本気かもしれない。そう思うと好奇心が止まない。私は最速で彼に切りかかった。
彼は、私の一撃を弾く。
すかさず私は次の一撃を、キンライさんへ打つ。
弾かれる。けど私の勢いは止まらず、ひたすら流れるように打ち続ける。キンライさんは前とは違う、最小限の動きで、私の剣撃をいなす。…なるほど、確かに今まで以上に隙が無い。本当に無い。え?無さすぎない?幾ら切ってもブレない。まるで空気を切っているみたい。流れるように打つ、よりも流されるように打っているように錯覚する。
私が攻める形で長い剣撃が続く。
(あっ…!)
ほんの一瞬、いなされた時に自身の脇に隙ができたのを感じる。いつもの打ち合いなら余裕でカバーできるミス。なのだが…
(打たれる!)
本脳で感じる。彼は絶対にココへ鋭く一撃を打つ!私は体のバランスを少し崩しながら、無理に体勢を立て直す。これなら、重い一撃でもなんとか7、8割は和らぐだろう。私は彼の強振りに身構えた。だが、キンライさんはそれほどそれ程強くない、素早い一撃を私の脇に、『完璧に』入れた。
「かっ…!」
痛い!けど、まあ、耐えられるレベル。もし、本当に刃が付いている真剣ならば、そこまで深くない切り傷で済むだろう。私は次の一撃も想定しながら、剣撃を続ける。
その後も私は小さな隙を確実に、完璧に狙われていった。ひとつひとつは弱い攻撃。だがそれを確実に当てられる。私の剣撃ば少しずつ崩れていき、隙が増え、大きくなる。確実な一撃を当てられるたびにバランスが崩れる。息が乱れる。ペースが崩れる。―――飲まれる。
最初は前へ前へと進んでいたはずの足は、いつの間にか押され気味になり、一歩、また一歩下がっていくような流れになる。私の振りが鈍くなっていくのに対し、キンライさんの振りは速度を増していく。
「はあっ、はあっ、はあっ―――」
「―――――」
キンライさんの呼吸に乱れはない。そして、遂に私は、一振りを打ち上げられ、バンザイの状態に。この攻防の中で一番の隙を見せてしまう。
防ぐ事も、かわすことも、和らげることもできない。完全にフリーの状態。両手は体の中心から離れていく。当然、木刀も頭の後ろにある。下半身は少し浮いたまま完全に伸び上がり、動作のキャンセルは効かない。攻撃の流れ、弾かれ方から、腰を曲げることも伸ばすことも、捻ることもできない。まるで、両手両足を広げて無重力の中を漂っているような、どうしようもない感覚。今ならば、どんな振りでも十割の衝撃が身体に加わるだろう。何にもできないと確信したまま、彼を見る。私はこれから死ぬのだ。磔になって、足先から頭の先までゆっくり刃物を入れられる、そんな感覚で、絶望を抱きながら死ぬのだ。彼の構えと、私の現状が、そう確信させる。
キンライさんの持つ木刀が更に輝く。それは目映く、私の視覚情報を阻害する。木刀に稲妻が走る。
そして、今までで最強の、重く、鋭く、硬く、強く、痛く、強烈な一撃が、『死』が、私の、首元へ届いて――――――
死
ん
だ
?
「―――ここまで。…これが俺の『必殺技』だ」
「―――あ」
汗が噴き出す。心音が身体に響く。焦点が合わない。気づけば、私は尻餅をついてキンライさんを見上げていた。彼の最後の一撃は、私の首へ触れるか触れないかのところで止まっていた。
「意地悪して悪かったな。立てるか?」
差し出された手を掴み、引っ張られるように立ち上がる。意地悪な顔をしてる。
「『必殺技』っていうのは、日本語から来ていて、元は『必ず殺す技』という意味だ。ウン前年前の勇者がキッカケで、『自身の唯一の切り札』という意味で多く使われるようになったな」
「切り札…」
「そう、切り札。それは『自分史上最高の威力を誇る攻撃』であったり、『自分史上最高の守りを見せる防御』であったり。一発逆転の、いわゆるアイデンティティとなるものだ」
キンライさんは、「あんまりこう言うのは人に見せないんだけどな」と笑いながら私の頭をポンと撫でた。ちょっと照れている自分に気がついた。
時間は、どんどん過ぎていって―――
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長い稽古から時が経ち、ついにキンライさんがこの地を発つ日になった。
「村を出て、貴方について行くわ」
「あー…そう言うと思った」
私が決死の覚悟で頼み込むと、キンライさんは頬を掻きながら顔を背けた。
「悪いが俺には、俺個人の目的がある。嬢ちゃんみたいな子どもを連れては行けない」
「そんな…!」
「そうだな、剣の修行を積むのにはうってつけの場所があるんだ。そこへの招待状なら書いてやれるぜ。年齢も若いのが多くてな」
エルベハート家は代々サンライト国の格闘場の主催を担当していて、多くの門下生がそこで技を磨きながら働いているらしい。優秀な人材は勿論、サンライト国の立派な兵士として――
「私はトド国生まれよ。サンライト兵になる気は…」
「何のための招待状だよ。エルベハート家当主には付き合いがある。俺に借りがあるから――孫くらいの年齢になるのか?可愛がってくれると思うぞ」
懐からペンとサンライト国の地図を出し、印をつけて私にくれた。どうやらココがそうらしい。
「そう言うと思った…ので招待状はもうある」
「な、なによ。私、アンタに――キンライさんが、私の目標なのに―――」
せっかく見つけた、私より強い人。肉体的にも、精神的にも。私に新しい世界をみせてくれた人。
俯く私の頭に、キンライさんは手を置く。子どもを宥めるように。手の感触に、つい浸ってしまう。まるで―――
「私ね、父親がいないの」
「――そうか」
「この村は妖精族だけだから、お父さんは人間と――」
「――ああ、無理して言わなくていい」
「…だから、だからね。例え短くてもキンライさんは――」
父親のような存在だったのよ。そう言いかけて、やめた。彼は私の言葉を聞いている。優しくではなく、何かの選択を待つように。――真に目標であるならば、この感情はきっと要らないものだ。
「――貴方に追いつくわ。その時は、また」
私は表情を引き締めて、キンライさんに言った。
彼も同じように、決意したように言った。撫でていた手は、もう無い。
「ああ、次に会う時は剣士としてだ。その名、忘れないでおこう」
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旅立ちの日。私は『フィシカ・パロム』ではなく、ただの『フィシカ』として、サンライト国へ向かった。
なんか長くなっちゃって、前半に書いた部分忘れました。なんかもう過去編いいかなって思ったんでフィシカはまた今度書きます。




