1章25話 旅先の王様が「なろう系」だった件
玉座から勢いよく立ち上がり、彼女は俺に指を指す。
「私はこの国の王様よ!さっさと恐れ慄き、ひれ伏しなさい家畜っ!」
「いや同種なんスけど…」
まさか、本当に俺達以外に異世界召喚された奴がいるとは…
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テントを片付け早々に森を出た俺たちは、前と同じように馬車に揺られ続け、遂に3つ目の国『トド』に到着した。道中が自然で溢れていた事からも推測できたが、俺が経験した2つの国、アズフィルアやサンライトよりも圧倒的に緑が豊かだった。巨大樹の森で見た木々よりも遥かに大きい大木を中心に、RPGの中盤で出てきそうなドーム状かつ木造の小屋が並んでいる。巨大樹の森での「テンプレゴブリン&オーク」にも興奮したが、この景観もまた俺を驚かせてくれた。陽射しを遮るように、俺は目の上に手を当てて町を見渡した。
ヤバい、語彙力が溶ける。大樹の中に居るであろう、精霊王的な中ボスポジションの老人に会いたい。あそこの家の端の壺を片っ端から叩き割りたい。タンスも本棚も調べたい。分かりやすく剣の看板と盾の看板を下げている大きな家に入り最良の装備を買い尽くし装備したい。あそこの酒場で弾けないピアノを弾いてみたい。かくしつうろを探したい。永遠に走り回る子犬と少年の前に立って邪魔をしてやりたい。むむ、あの耳長はもしやエルフでは―――」
「カイトおにいちゃん。声、もれてるよ。」
目を椎茸フォルムに輝かせる俺を、レツが止める。
「へ?…ああ悪い悪い!興奮するとついクセが…凄えよ、ココ。なんつーかさ、今まで出てこなかった俺のゲーム脳が溢れる場所っつーか!宿屋は泊まるんだよな?一緒の部屋で、四隅のベッド!何ギルだろうな…そういやこの世界の通貨はGか…」
「そんな部屋もギルなんて通貨もないわよ。まずはココの王様に会いましょう。私の名義で、というか『エルベハート家』名義で推薦状を出していますから、快く滞在を許可してくださるかと。」
少しずつ敬語を崩しているフィシカだが、手際の良さは変わらず、俺に城の場所を教えてくれた。馬車を引いてくれていたマタさんは「疲れたから、ワタシとレツくんで先に休んでるねぇ。」と言って、レツと一緒に坂を下り宿屋に向かっていった。
「うし、荷物も置いたし王様の所いくか。早いとこ事情話して次の旅の準備を済ませよう。推薦状っていうのは…?」
「貴方の人柄や功績を、王様に伝える為のものです。一応、サンライト国からっていう事だから色々と矛盾は生じるけどそこは口頭で説明します。」
「へえ、別に何の功績もないけどな、俺。」
「ええそうね。でも無理矢理『勇者』の肩書きを利用するわ。貴方アズフィルアで演説したらしいわね?私は見たことも聞いたこともなかったけど、顔や名前はある程度知られてると思っていて。」
―――演説?
俺はアズフィルア国にいた時のことを思い出す。確か、俺が始めて城から出られた日。アズフィルア国の勇者として、新たな四天王の一角として、約800万人の前で…
「…ね、ねえ、どうしたの?顔真っ赤よ?」
「…いや、その事は忘れてくれ。俺がまだ浮かれてた時の黒歴史なんだ…」
大樹へと長い階段が続く。大樹は近くで見ると一本の木ではなく、いくつもの幹が重なり作られていた。外から、等間隔で空いている穴の中を覗くと、廊下や部屋に階段などが形成されていて、生活スペースとしての役割を完全にこなしていた。幹の大部分は居住区らしく、不思議と明るい城の中に入るとさらに上へと続く謎の装置が浮いていた。
「なんだこの円盤。どうやって浮いてんだ?」
「乗りましょう。大樹の自然エネルギーを利用している移動用のマテリアルです。」
フィシカはひょいと黄土色の円盤の上に乗った。円盤に描かれた魔法陣が蒼く光る。遅れて俺も円盤の上に乗る。魔法陣の色がピンクに変わる。負荷を色で表しているのだろうか。落ちるのが怖いので、俺は中央に寄った。「いきますよ」と彼女がいうと円盤の下から魔力が噴射され、中々のスピードとGで上へと上がっていった。
「うおっ」
「ふふ、慣れませんよね、こういうの」
円盤がピタリと床にはまり、俺たちは上の階に着いた。床は磨かれた石で、周りは枝の壁と葉で覆われている。外から見える木の幹の上、いわゆる葉っぱでもっさりしている部分は、中から見ると細い枝で丸く囲まれ、空間が作られていた。葉の隙間から見える空が薄い緑色に輝いているのは、この空間だけバリアが張られているからだとフィシカが教えてくれた。
「そういや、この国の王様は俺と同じ世界から来た人間かもって知り合いが言ってたな。そこんとこどうなの?」
「そうね、可能性は高いわ。王様が変わってからこの国はより平和的な思想になったもの。いえ、今までがそうじゃないって話ではないんですけど…なんというか、少し変わっていらっしゃるらしいわ。」
「変わってる?…考え方が異世界寄りじゃないって事だよな。ますます怪しい。王様の名前は?」
「『シズク』、だったかな…王様の名前はあまり一般には公開されないからあやふやね。」
「シズク…雫?滴?なんにせよ日本人っぽいな…男女も分からんがこれは期待が高まる。話が合う年齢だといいけど…」
「この扉の先が玉座の間ですよ。入りましょう。」
「あ、ああ。」
獣人2人が槍を持って扉の横で佇んでいる。その格好良さに少し緊張を覚えながら、俺は扉を開けた。
中に入ると、並んだ兵士とレッドカーペットの奥に、少しだけ高い床に置かれた玉座に座っている、緑色の長髪の女性と、その横に杖を持ち、紫色の座布団に座る老人がいた。女性の年齢は、おそらく俺と同じか、少し上――落ち着いた優しい目を見つめ、俺は「大人しい人である」という印象を受けた。彼女が口を開く。
「―――ここまで来てくれてありがとう。貴方が、フィシカさんね?」
彼女は優しくフィシカに笑いかけた。よく手入れされた髪が、彼女の動きに合わせて揺れる。
「お初にお目にかかります、女王殿下。本日私達が来たのは――」
「堅くならなくていいわよ。私そういうのは苦手なの。――彼のことと滞在許可でしょう?推薦状は読んだわ。少し、彼と2人で話がしたいの…いいかしら?」
「はい。では私は外で待たせていただきます。――カイト様、失礼のないようにして下さいね。」
フィシカは俺にだけ聞こえるように、耳元で囁いた。急に名前で呼ばれたのに驚きつつ、俺もまたフィシカにだけ聞こえるように小さく返事をした。
「貴方達もお願い。じいやだけ残っていて。」
そう言って他の兵士達も扉から出て行き(一礼していた)広い空間で俺と彼女と謎の老人だけになった。
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沈黙が続く。この空間は小鳥の囀りがよく聞こえ、気持ちのいい風が吹く。少し緊張がほぐれ、「俺がまず自己紹介しないといけないのでは?」と気がつき、慌てて話す。
「―――初めまして。黒崎海斗って言います。歳は今年で18で、えと、友達に巻き込まれてこの世界に来たっつーか、不慮の事故でココに来て――」
「18歳…黒崎君今18歳って言った?」
「へ?ええ、まあ…」
目の前の女性は一瞬、顔をぱあっと輝かせ、ハッと驚き、咳払いをした。
「…コホン。私も、同じ18歳よ。ビックリしたわ。黒崎君もっと年上かと思ってた。身体しっかりしているから。」
「同い年なのか!?そっか、そっか…!良かった、俺もアンタの事年上かと思ってたよ!」
「え、ええ。それは良かったわね」
「なあ、アンタも日本から来てるんだよな!?」
「そうよ、私は――」
「やっぱりか!そっかぁ、ユージン以外の人間っつーか日本人っつーか、召喚者を初めて見た!」
「ええ、それでね?私――」
「アンタいつから異世界にいるんだ!?俺が来たのは、そうだな、そろそろ7ヶ月くらいに――」
「――あーもう!!うるさいっ!!」
「…へ?」
玉座から勢いよく立ち上がり、彼女は俺に指を指す。
「私はこの国の王様よ!さっさと恐れ慄き、ひれ伏しなさい家畜っ!」
「な、なんだよ急に!」
「さっきからうるさいのよ!女王の私が話すんだから、家畜のアンタは黙って聞きなさいよ!」
「家畜って…いや、同種なんスけど…」
「この私に会えたのだから、嬉しすぎて胸が張り裂けそうなのはわかるわ?でも人の話を聞こうとか、アンタ思わないワケ!?見た目通りの自分勝手さね!異世界召喚されて勇者呼ばわりされてるからって調子に乗らないでよね!!」
「ごめんなさい」
「何よせっかくの同世代かと思ったらこんな礼儀知らずのボサボサ鎧男とか、少しでも喜んであげた私の身にもなってよ!アンタだって嫌でしょ!?いきなり来た小汚い男が話も聞かずにベラベラベラベラといつまでも――――」
「すいません…すいません…」
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「じいやも止めてよね。これじゃあ私、黒崎君に対して優しいキャラできないじゃないの。」
「これも運命。ワシが手を出す事はないのじゃ。」
「じいやはいっつもそれね。」
緑髪の女の子は頬杖をついて隣の老人に話しかける。シックな緑のワンピースの下の足を組み、先ほどまでとは全く違った雰囲気を出している。
「…悪かった、話聞かなくて。」
「ええ、全くよ。私は心が広いから許すけどね。自己紹介が遅れたわ。私の名前は雫。『緑川雫』よ。よろしくね、黒崎君。」
雫は強気な笑みで俺に話しかけた。自信満々に話す姿、これが本来の彼女なのだろう。
「さっそくだけど、君に聞きたいことがあるわ。事故でこの世界に召喚されたと言っていたわね?これまでの話を教えて欲しいの。私も、この世界について少し話してあげる。」
「あ、ああ。俺がこの世界に来たのは――」
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俺が、この世界に来たのは、7ヶ月くらい前かな。俺の親友――『朝田悠仁』って奴の家がさ、異世界と深く関わりがあったみたいで、悠仁は召喚される予定だったんだと。…それを勘違いして「俺も異世界召喚できる」って思い込んでたんだよね。学校も辞めて、生みの親と育ての親に感謝と別れを告げていざ出発って感じだったんだけど、ビックリだよなぁ。
なんで召喚されたかって言うと、召喚するためのアイテムを間違えて持ってたからなんだ。本当は悠仁が持ってなきゃいけないモンを、借りて観察してた所をってカンジ。
召喚先は魔王城、しかも魔王は俺を四天王にすると来たもんでさ、大変だったよ。悠仁は俺を助ける為に魔王城に乗り込み、俺を連れ出したんだけど、俺は俺で魔王サイドと仲よかったんだよ。その仲間の1人が殺されちゃってさ…力不足の自分が嫌になったんだ。そこから、俺の浮かれた異世界生活は終わり……本題はここから。
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「長いわ。」
雫はバッサリと一言放った。話せと言われてそれはないだろう。
「待てって、これでもかなり短くしたんだぜ。本題っつーのは、その仲間の事だ。仲間…四天王の1人で、『キンライ』って言うんだけど、本当は助かったはずなんだ。」
「含みのある言い方ね。」
「魔王がめちゃくちゃ強いのは大体わかるだろ?四天王キンライと、勇者&四天王の俺。失うのは魔王側としても痛い筈だし、何より魔王が加勢できる場所で戦ってたんだ。」
「魔王城…アズフィルア国。黒崎君を奪うために悠仁君が戦いを挑んだって事よね?たしかにアズフィルアの王様は強いわ。国の自然エネルギーの大半を自分に取り込んだ、とか。恐ろしいわね。」
「魔王は、『今のカイトに興味がない』みたいな事言って俺を見放したんだ。お陰で俺は捕まって、キンライは死んだ。俺の力不足が何よりなんだけど――俺に興味がないならなんで四天王にしたんだ?キンライまで見放す必要はなかったんじゃないか?――あのとき魔王は何をしていたんだ?……それが気になって、こうして国に戻る最中ってワケだ。話終わりっ」
俺がこれまでのあらすじを話終えると、悲しそうに「そっか」と言った。そして質問を、横の老人にした。
「じいや、今の話嘘じゃない?」
「いや、聞くなら俺だろ?そこのじいさんに聞いても――」
「嘘はついとらんよ、この小僧は。」
「そう、そうなのね。…知り合いの死は辛かったでしょうね。」
俺の事も知らない老人の話をやけに信じるな?俺は不思議に思った。
「ああ――このお爺さんはね、『魔神眼』を持っているの。」
「はぁ?まじんがん?」
「嘘発見器って事よ。能力はそれだけじゃないけどね。」
「ははあ、成る程な。雫、お前が女王になれてるのってそこのお爺ちゃんのお陰だろ。」
図星をだったのか、怒っていた時と同じように声を荒げ、また俺を指差した。
「なっ、何よ悪い!?別に何も悪さはしてないわよ!じいやと仲良くなったのも人望よ、人望!この私が心配又は同情してるって言うのになんて口よ!!」
「本当かよ…で、俺は話したぞ。この世界の事って言ってたな。教えてくれないか。」
「――そうねぇ、フィシカさんも待たせているから、今日は少しだけね?もう黒崎君は信頼できるから、またいつでも話ししてあげる。―――黒崎君は戦うのよね。だったら『生命エネルギー』のことはご存知?」
「いや、知らないな。自然エネルギーとかと同じか?」
生命エネルギー。初めて聞いた単語だ。この世界に来て7ヶ月も経つのに、戦いにおいてもやはり知らないことばかりだ。
「そんなものね。このミリネアという名前の大陸には4つのエネルギーがあるの。魔力エネルギー、生命エネルギー、自然エネルギー、超魔力エネルギー。この4つ。自然エネルギーはそのままの名前。その土地に根付いた物凄い量のエネルギー。異世界では、これが循環する事で自然が生まれるの。」
「ああ、俺が乗った円盤は自然エネルギーだって言ってたな。」
「この国は自然エネルギーの量が凄まじいから、利用させてもらってるわ。使い過ぎは土地を枯らすわ。あなたの国と一緒ね。」
「あの、荒野…」
俺は自分の召喚された国、アズフィルアを思い出す。城の周りを囲うように町が作られ、囲うようにピンク色の大きい半円のバリア。バリアの外側は、ひび割れた大地がどこまでも続き、枯れ木に枯れ草、生物は一匹たりとも居なかった。あの光景は、魔王の仕業である。力を持つ事で、他の国に対しての抑止力になるとか。
「魔力エネルギーは、人が持つエネルギーの事。これを使って魔法や能力を使うの。私は素質がないから使えないけど、黒崎君は違うのよね?」
「まあ、特訓したからな」
「いや、修行しても難しいのだけど。まあいいわ、魔力エネルギーが切れて、それでも魔法を使うとどうなると思う?」
「え?…『しかしMPが足りない!』って事だろ?使えないんじゃ――」
「使えるの。その時に使うエネルギーが『生命エネルギー』。いわばその人の本質的な力。少し違うけど、例えるならMPの次はHPよ。魔力エネルギーよりも力は強いわ。」
「それが、無くなると…?今度は超魔力とやらか?」
「いいえ――――死ぬわ。言ったでしょ生命だって。寿命みたいなモンよ。使ったら回復しないし、精神汚染も起こる。だから、魔力エネルギーの使い過ぎに注意してねって話。超魔力エネルギーは神秘的な謎に包まれた力。まだ解明されてない部分が多いわ。」
「…全然知らない事だった。教えてくれてありがとうな。」
「私たち異世界人は元々の魔力の保有量が多いって言われてるけど、その分生命エネルギーの代償が大きいと思う。知らない筈はないのだけどね。…ねえ、君の仲間の中で、無茶な事してる魔術師とか居なかった?」
「…そういや、四天王の仲間で1人。『ブラッディ』って言うんだけど、デカいバリア張り続けて…鼻血出して倒れたとか…まさか!」
「生命エネルギーの典型的な代償ね。その人から魔法を教わったのね?…きっと心配させたくなかったのよ。戻ったら止めるように言いなさい、気が狂い始めて最終的に死ぬわよ。」
「ああ。早く帰らなきゃいけない理由がまたできたな。」
「――さて、まだまだ話したいことはあるけど、疲れちゃった。説明だけじゃ誰もついてこれないわ。また今度にしましょう?」
「…そうだな、日も暮れてきたし、今日は帰るよ。色々ありがとな。じいさんも、今度話がしたい」
「奇遇じゃな。ワシもお前と話がしたかったんじゃ。次会うときは、ワシからも話をしよう。」
長くなった白髪の眉毛や立派な髭のせいで顔はよく見えなかったが、老人が笑っていたような気がしたので、俺も笑い返した。
玉座の間を後にすると、眼帯をつけたウルフっぽい獣人と話すフィシカを見つけ、声をかけた。
「ううん、大丈夫。待つのは慣れてますから。宿に向かいましょう。」
フィシカがそう言ったので、俺も返事をし、2人でくだらない話をしながら宿に向かった。
宿で聞いた話だが、あの見栄っ張り女王様はトドの国では超カリスマウーマンらしく、やることなす事全てが上手くいき、今の立場があるらしい。「私、何かやったかしら?」と言うのが彼女のキメ台詞らしいと言うのを聞いて、「やはり『なろう系』は環境に恵まれて育つんだな」と俺がゲンナリしたのはまた、別の話。
なろうの小説に置いて、読みやすいのは大体3000字くらいだと友人が言っていました。気がついたら説明だらけの7,000字です。...兎に角、完結の事だけを考えることにします。
こんな矛盾だらけの駄文をブックマークしてくださる方がいらっしゃる事が、私はとても嬉しいです(1人は友人だと思いますが)。きっと私はブックマークをしてくれている数人と、毎回チラリと覗いてくださる初見の方、そして自分の為にこの小説を書いているんです。なんと幸せな事でしょうか。きっとこの文を読んでくれる人も数える程ですが、それでも幸せです。これからも地道に頑張りますので、どうか末永くよろしくお願いします。




