1章24話 美女達とほのぼの異世界旅〜ショタを添えて〜
深い深い森を、砂利道に揺られながら馬車が走る。馬車小屋の中は、数ヶ月分の食料と、無造作な青髮の俺と、水色の短髪美女と、紅髪の大人しいショタで狭く埋まっている。
水色の短髪美女――『フィシカ』は大陸地図を広げ、ペンで印をつけている。『トド』と呼ばれる国への道中ではいくつか休憩場所があるらしく、フィシカは地図を見て今日の宿を探しているんだろう。
一方の赤いショタ、『レツ』は寝袋に包まって寝ている。なんでも、移動の時は常に睡眠をとり、いつでも体力がある状態にしておく、という行動が染み付いてしまい、馬車などの乗り物に揺られると眠気が襲うらしい。『おとなたち』の言いつけとはいえ、染み付いているのなら仕方ない。まあ、数分前まで俺の顔を見てニコニコしながらアホ毛を揺らしていたので、精神面では今のところ問題はないだろう。
――さて、俺の方はというと…異世界の森の風景に目を奪われっぱなしだ。この異世界――大陸『ミリネア』に来てから、ほとんど俺は外を見ることができなかった。
異世界召喚された最初の数ヶ月は窓の少ない『アズフィルア』という国の魔王城。城を出てみれば荒地の殺風景。しかも淡いピンクに包まれた空間(魔王城を守るバリアである)に包まれていた。国で見た緑といえば、四天王の1人『ブロー』が植えていた苗木くらいのものだ。
王国城――『サンライト』国では数ヶ月牢生活。血みどろ汗まみれ。地獄の肉体改造をした。外に出たのは一瞬だけ、しかも脱走の日。白煉瓦で作られた優美な街並みはゆっくりと見ることができなかった。
それが今はどうだ。想像を絶する大樹が、森を形成している。一本一本が世界遺産に登録されていてもおかしくはないだろう。木の上では見たことのない、沢山の生物が生活していた。ログハウスのようなものも時々見かけ、そこからオークやゴブリンのような姿を発見した時は感動したものだ。
会話をしていみたいとは感じたが、フィシカ曰く、「日本語は通じませんよ。基本はどの種族も『大陸語』を話しますから。」という。確かに、召喚先で日本語が使えたことになんの違和感もなかったが、ここでの公用語は日本語ではないのは当たり前だ。まあ、例えるならば、日本での英語の普及率が更に上がったようなもの、だろうか。
つまりこの異世界では言語が大まかに分けると2つあるわけで、俺が急に『ユニークスキル 言語理解』的なモンを女神的なモンからチート的に受け取っているわけではないという事だ。残念、この話は俺TUEEEE系の冒険譚ではないらしい。ちなみに日本人の異世界召喚は過去に何度もあり、今も俺とユージンの2人の勇者の他にも召喚されてるらしい。知識無双もできない。残念。
考え事をしていると、木々の隙間から数メートルはあろう巨人が地響きを鳴らして闊歩していた。左手には使い古した槌のような物を持っている。フィシカにあれは何かと尋ねると、「あの巨人種は言語を持たない生物です。基本的に言語を持たない種は獰猛なものが多く、基本的には『魔獣』と称されます。」と教えてくれた。俺が少し前に戦った『機械魔兵』のような危険な生物なんだろう。とはいえ獣は獣なので、最近は多くの種類が家畜化されているらしい。
よく見ると巨人の口に血がべっとり付いていて、一層俺を怖がらせた。―――脱出した時は考えていなかったが、やはり整備されてない環境はどの世界でも危険だ。
そんな事を考えながら、俺はつい先週当たり前の脱出劇を思い出していた。
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先週――
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上機嫌なヴァンと、寂しげなレイを後にして、俺たち2人は脱出するため城の西側の塀へ走っていた。
「はあ、はあ、カイトおにいちゃん。」
「ん!どしたレツ。やっぱ戻りたいか?」
レツは俺に付いていこうと必死に走ってくれている。その事実をありがたく思いながら少しイジった。
「はあ、そうじゃ、なくて。ぼくにあわせて、はしってるのはなんで?」
確かに俺はまだ幼い子どものレツがついて来られるように加減をしている。大勢の兵士に追われているからといっても、子どもを置いて18歳スポーツマン全力ダッシュはまずい。せっかくの新しい仲間は大事にせねば。俺はその旨を伝えた。
「はあ、はあ、子どもは、だいじにしないといけないの?」
「そりゃあそうだろ。子ども大事にして悪い事なんかねーよ。」
と、言ったものの。このペースでは捕まるのは時間の問題だ。西の高くそびえる塀は見えているがいかんせん道が複雑で辿り着かない。俺の土地勘がないのはもちろん、レツもこの辺りの荒んだ廃墟群は来たことがないらしい。
幸運なのは、遭遇する兵士が全員ヴァンの隊員である証のバッジをつけていて、顔を合わせるたびに「あっ」と言って目を逸らしてくれることだ。中には周りの目を気にせずに「お話はお聞きしております。どうかご無事で!」と敬礼をしてくれる人もいた。そんな優しい人たちにこっそり道を聞くも、全く辿り着かないのだから困ったものだ。くそ、塀は見えているのに…!
『―――カイトは全体的に魔穴がある万能型っていうのがわかったんだけど、それを使うの。穴一つ一つから魔力を放出、ブーストさせるの。』
『おお!それめちゃくちゃかっこいいな!考え方次第じゃ空も飛べるぞ!』
『ただ...、魔力の消費はかなり激しいわ。極めちゃったりすれば最小限の魔力で済むだろうけど、練習のし過ぎでぶっ倒れないでね?―――』
ふと、随分前の魔法の修行の会話を思い出した。四天王の1人、『ブラッディ・ラヴ』という露出の高いピンク髪の女性との会話だ。俺が出せる魔力の場所は沢山あって、使い方次第では色々と応用が効くらしい。
実際、牢屋で過ごす中でも、空中に浮く練習はしていた。結果は乏しいものだったが、維持ではなく移動ならば、一直線に吹っ飛ぶくらいなら、もしかしたらできるんじゃないか?俺はそう考えて、レツに声をかけた。
「レツ!おいで、空飛ぶぞ!」
「ええ?どういうこと?そらをとぶの?…魔力放出による空中浮遊は実例が少ないから―――」
レツは戦いの事や魔力関係の話になると急に饒舌になる。これが本来の彼か否かはわからないが、多重人格というのはなにかと苦労が絶えないだろう。戦争を生き抜くための、脆い自分の心を守るための工夫だと考えたら、少し可愛そうには思える。
「いいからいいから!お前話し方変わると怖いからヤメテ!」
無表情になりかけているレツの手を引っ張り、抱きかかえる。レツは考え事で目の前の俺より『空を飛ぶ事の合理性』を考えながら走っていたので、引っ張られて抱き上げられた時に、つい「あぅ」と声を漏らした。
俺は走りながら背中あたりに熱をイメージする。狙いはあの空、西の塀。
「カイト、いっきまーーーーーす!」
「きゅうにうるさいねおにいちゃん!?」
俺は背中から青い光を噴き出して、空へ飛び立った。
空中にいる間、急降下したり、体がゆっくり逆回転をし始めたり、乱回転によってレツが飛ばされそうになったり、塀に直撃したり、問題はあったがなんとか目的地に早く着くことができた。
あの時ほど危ない事はなかっただろう。
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「また野宿ですかぁぁ?」
夜が深くなり、空を見上げると半月が俺たち『4人』を淡く照らしていた。フィシカの持っていた地図によると、この大樹の森の一帯は宿が少ないらしく、1番近くても数時間はかかる。
「悪いな『マタ』さん。馬車引いてて疲れてんのに。」
「ワタシはどこでも寝れるから別にいいですけどぉ。カイト君もフィシカちゃんも、レツ君の事も考えてあげてねぇ。」
宿が無いと言ってもポツポツと草木の少ないスペースが道中に作られていて、旅人達はそこでテントを張り野宿をしているらしい。各スペースには魔獣や魔兵除けの魔法陣が張られていて、悪意や敵意を持ったものはサークル内を認識できない仕組みになっている。そんな場所で、俺たち4人は異世界らしく丸太に座り、たき火を囲んでいる。野宿は今回で6回目、流石の俺もそろそろ、ふかふかの布団が恋しくなるものだ。
「そうですね、私の配慮が足りませんでした。ごめんなさいね、レツ。」
「えっと、だいじょうぶだよおねえちゃん。のじゅくはたのしいもん!でも、子どもはだいじにしないといけないんだよ。」
『マタ』と自分から名乗ってくれた女性は、今回の旅においてのみ馬車引きとして雇われたらしい糸目の獣人だ。キツネを彷彿とさせる妖美な雰囲気を醸し出しつつも、発言や行動はおっとりとしている。マタは俺たちの旅のサポートをしてくれる、心強い助っ人と言えるだろう。
「レツくんは優しいねぇ。」
そう言って彼女はテントの骨組みなどを馬車小屋から降ろしに席を立った。
「ぼくやさしい?ねえカイトおにいちゃん、ぼくやさしい?」
「自分で考えてみな。…で、フィシカ。サンライト国から大分離れたと思うんだが、追っ手の心配はまだあるのか?」
「え、ええ。それならもう心配はいらない、です。ヴァン様やユージン様が私達の旅の事を伝えて下さっている筈ですから。賛否の声はあると思いますが、今の所は追われてないわ…です。」
フィシカに声をかけると、彼女は俯いて歯切れ悪く答えた。
「フィシカ?敬語じゃなくても良いって…」
「あぅ、わ、私は敬語で話すべきですか?平常語の私は似合いませんか?」
フィシカが困った顔で俺に聞いてきた。といっても目はそっぽを向いている。照れ臭いというよりは、純粋に困っているようで、自分の今の環境の変化についていけてないのだろうと感じた。
「どっちでもいいよ。敬語気分が抜けないならそれでいいし、好きに話してよ。てか、俺だって別に敬語使われるような偉い奴じゃねーし。」
「…そうですか、では暫くは敬語で話しますね。この話し方の方が冷静でいられるので。」
「ああ、お互い楽に行こうぜ。」
初対面の相手は基本的にタメ口で言ってしまう俺(年齢を考えて明らかに目上の場合は別)なので、魔王と話す時やフィシカと話す時から俺はずっとこのスタンスだ。大体はタメ口で話していても気にしないでいてくれたり、俺が相手の事を嫌いだったりするので、今後もこのスタイルは変わらないだろう。
そう考えると、フィシカはどの相手に対しても敬語だった。そのおかげか、エルベハート家という名家のイメージは厳しく気品のあるものだ。今彼女がタメ口を使おうとしているのは、『自分はエルベハートの者ではない』という強調の表れなのかもしれない。その証拠に―――
「―――フィシカ?」
「ひゃいっ―――な、何ですか。」
名前を呼ぶと彼女は照れてしまうのだ。今まで『エルベハート』と呼ばれ続けていた反動だろうか。楽しい。
「わ、笑わないで下さい。貴方も名前で呼びますよ。」
「呼べばいいだろ、何で名前呼ぶのが脅迫になるんだよ…」
「く…!そのだらしない口元を閉じなさい!」
「ワタシ早く寝たいんですけどいつテント張るんですぅ?」
テントを張り終え、数時間。夜はさらに深くなる。レツもマタもテントの中で仲良く寝ている。明日には国境も超え、国の中心部に着くだろう。
俺は年の離れた姉弟のような微笑ましい姿を後にし、さっきまで談笑していた焚き火の辺りまで歩いた。火の明かりが座っているフィシカを薄暗く、赤く照らしていた。フィシカが立ち上がると、俺は呟いた。
「《創造》―――剣」
青い色の光がどこからともなく現れ、やがて右手に集まり、眩い渦を巻きながら形を成していく。縦に長い青色の渦の中から、実体として鋭利な剣が形成されていく。持ち手を強く握りしめると、剣として完成したそれは俺の手に確かに馴染んだ。目の前の彼女に鋒を向け、構える。静かに呼吸を行い、身体の魔力の循環を感じる。夜で暗いのもあり、分かりやすく俺の身体は青く発光していただろう。
フィシカはその姿を見ると、同じ様に手元の剣を取り、片手で構えた。彼女が言う。
「では、今日も稽古を始めます。いつも通り、気絶したら終わり。」
フィシカと俺―――お互い刃の先に魔力を集中させる。見た目はまるでビームサーベルだが、光自体の熱量は小さく、これなら刃先が丸いので相手を斬り殺す事はない。
「ああ、やろうか。」
稽古、修行、鍛錬は牢屋から出ても変わらない。それどころか前よりレベルは格段に上がっている。剣の天才と打ち合う日々。俺は強くなり続ける。何も失わない様に。
刃と刃の交わる音が、今日も夜空に響いた――。
あ〜〜設定詰め込むの楽しい〜〜テンポも忘れてバカになっちゃう〜〜〜〜




