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今日から俺は四天王!  作者: くらいん
第1章
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1章16話 剣豪、最期の意志












side ブロー&ユージン








「ーーっ!?この魔力は、じーさん...!」



一瞬、四天王であるブローが剣撃の手を止める。隙を狙い、西の勇者、ユージンが斬りかかる。


「クソっ!カイトはどうなったんだ」


ブローは逆手で持った剣で素早く弾き、間を取った。


「ふむ、(あっち)で動きがあったみたいだね。この魔力...龍のような...四天王の1人?」


剣を構えるのをやめ、城の方を眺めるユージン。

溜息をつき、それからブローの方へ向き、言った。


「僕は城へ向かう...一旦君とはここまでにしよう。」


「待てよ。まだ勝負はーー」


「優先はカイトだ、お前じゃない。...君、なんの種族かは知らないけど、実力を出し切れないなら無茶はしない方がいいんじゃないかな。こちらとしてはありがたいけどね。」


「...。」


西の国『サンライト』が東の国『アズフィルア』を攻めた理由。勇者『黒崎海斗』の救出。ユージンは状況を冷静に判断し、今すべきことを考える。


「近いうちに、また会おう。」


「ーー何、逃げる気になってんだよ!」


背を向けたユージンにブローが迫る。

しかし、刃が首に届くか否かのところで、どこからか飛んできた弾丸状のエネルギー弾によって弾かれる。


弾の飛んできた位置を確認するが、そこは戦争真っ只中。わずか数メートルで四天王を狙う(やから)は誰一人としていない。誰も彼もが目の前の敵に必死であった。考えられるのは、遥か遠くの崖。


ぱっとユージンがいたところに目をやると、既に彼は居なくなっていた。


(また、流れ弾...?いや、あの形状、明らかに今のは狙撃だった...!僕を殺さず、ずっと勇者のサポートを...?)


「あ、遊ばれてたっつーのかよ...!」


ユージンがいなくなると、ブローの周りをサンライト兵が囲み直した。


「クソッ、これじゃ追えねぇ!カイト...!キンライ...!」


再びブローはサンライト兵と応戦を始める。





「クス、『三銃士』を舐めないでね...♡」


「レイに敵う狙撃手なんていないさ」



そしてそれを遠くで、『2人の子ども』が見ていた。














side キンライ&ヴァン




広間は、片腕の老兵(キンライ)を中心に渦のような風を起こし、ピリピリとした空気を漂わせている。

老いた体とは思えない程の筋肉のハリ、膨張によって、鎧は軋み、遂には破壊された。

体全体の色も変色し、やがて黄土色の鱗を纏った。


(この風じゃ、近づけねー...!ジジイの変身を止められねーじゃねーか!)


太刀を構えたヴァンは龍化を阻止しようとするが、激しい風によって、身動きが取れずにいた。





「ぐ...グぐグググッッ...!!!」


もはや龍と呼ぶべきそれは、失った右の肩に力を込め、変身能力によって新たに力強い腕を生やし、そして、



反撃の狼煙と言わんばかりに咆哮をした。





「グガァァァァァァァァアアア!!!」


「うるせー...!」




完全に変身と遂げた四つ這いの龍は本来の姿(キンライ)の何倍も大きくなり、ヴァンを睨みつけていた。

龍が大きく口を開けるとそこに光が集まり、球体になった。


(で、でけー...!)




龍は叫びと共に巨大エネルギー弾を放出する。


「カエンダン!...おわっ!?」


衝突したカエンダンの爆発も虚しく、エネルギー弾は勢いを変えないままヴァンに向かっていった。

ヴァンは飛び上がり弾を回避するが、振り上げられた龍の巨大な爪に襲われる。


太刀で咄嗟に防ぐように構えるが、重い一撃のせいでヴァンは蚊のように弾かれ、地面に強く叩きつけられた。


「がはっ!」


強い衝撃によって太刀が手から離れ、カランと転がっていってしまう。

口から出た血を拭い、ふらりと立ち上がるヴァン。



龍は再びエネルギー弾を溜める。


理性の(たが)を外した(キンライ)は、『生きる為に殺す』という野性の本能から、から『死んででも殺す』という殺意の塊へと根底の意識を変えていた。

もはやキンライは人であった頃の感情、『ヴァン・フレイビア』だけは止めねばならないという残された僅かな思念に動かされている。




「ーーーーけほっ。...ちっ、あの勇者(ゆーしゃ)、連れ去る時に抵抗(ていこー)しねーだろーな...!」





「グガアアアア!!!」




ヴァンは膝を曲げ、腰を落とし、両手に赤色の、火の魔力を込め始めた。



「...こっからは、後先考えねー。本気(マジ)って事だぜ、ドラゴンのじーさん!」



龍は先程よりも大きいエネルギー弾を放った。


ヴァンは龍に向かって、エネルギー弾に向かって真っ直ぐ跳ぶ。




衝突する瞬間、巨大エネルギー弾が3つにスッパリ切れた。


「うおおおおっ!!」


切った弾の間から、赤く燃える大きなツメを纏ったヴァンが飛び出す。左手で切ったエネルギー弾は炎に包まれ、消滅する。





「コレが俺の、龍をも(つんざ)く必殺技!」


ヴァンは叫ぶ。








「『赤蛇の爪甲(カッチャ・ガレタ)』!!」







必殺技の詠唱をすると、ツメはさらに巨大化し、ヴァンは右手で龍の胸を鋭く斬り裂いた。血が溢れ出る前に切り口から橙色の炎が瞬間に燃え広がり、龍を包む。




「ゴ、ガアアアアアア!」



龍は突然の炎と深く抉られた傷に動揺し、暴れまわる。着地して直ぐ、ヴァンは両腕の痛みに歯を食いしばった。腕は赤くなり熱を持っている。腕から蒸気を上げ、痙攣しながらも、ヴァンは得意そうに龍に言葉を放った。



「ぐっくぅ...!その炎は魔力に引火してる。理性のないテメーじゃあ魔力を抑えらんねーだろーよ。」


「グガアアアア!!ガアアア!」




龍は足掻こうとエネルギー弾を生成する。しかしそれは魔力の塊。火達磨(ひだるま)となって爆発。苦しそうに叫ぶ。


「へっ、相性が悪かったな。こんな技があるなんて知らなかったろ。テメーの言った、『経験』っつーのはあながち間違いじゃなかったみてーだな。」




炎に包まれ苦しむ龍に背を向け、よろつきながらも、ヴァンはカイトを追った。


「ガアアア!!!ギャ、ガアア!アアアア!」


龍はただ、ヴァンの背中を睨んでいた。












side カイト



「はあ、はあ...!」


広間の窓の先、渡り廊下のような所から階段へ向かい、城の裏口へと急ぐカイト。


(上の階にヴァンが来たってことは下の階は全滅。とにかく今は上に向かうしかない!)


「...くそっ!どこだよここ!」


今まで同じ階にしかいなかったカイトは、城の構造を理解していない。同じ階段を上り下り、同じ廊下を行ったり来たりしている。


「はあ、はあ、さっきも通ったなここ!このドアは...トイレじゃねーか!こっちのドア...トイレじゃねーか!」









「...よお、楽しそーじゃねーか。」


「はあ、はあ!...キンライは、どうした!」


目の前の、太刀を持った血だらけの男。ヴァンがここにいる意味が理解出来ないカイトではないが、その事実に認められず、キンライの行方を聞く。


「あのじーさんだろ?...呼吸を落ち着かせろよ。そう遠い距離じゃねー。」


「はあ、はあ、はあ...?」




カイトはヴァンの言葉の意味がわからず、呼吸を整え、周囲に耳を澄ませる。




僅かに聞こえる、






『.............ァ........ァァ......』


龍の、悲鳴。





「っっっ!!!!!!!」


目を、見開く。


目の前の敵にふつふつと湧き上がる、怒り。



『.....................』




「...死んだか?」











「うあああああ!!!!!!!」


カイトはヴァンに殴りかかる。


「おっと、いくら俺がボロボロだからって、普通(ふつー)のヤローになんざ遅れは...」


「カエンダン!!!」


「ああっ!?」


火炎、というにはあまりにも青い『それ』はヴァンの目の前に放たれ、爆発する。


(今の、爆発。威力はさておき、ありゃー、俺の...!)


「カエンダン!」


「ちぃっ!そんなニセモンで俺に敵うとでも」


「...明星一閃(みょうじょういっせん)!」


「ああっ!?...って、んだよ名前だけか?」


「クソッ!」


カイトは右手に魔力を乱雑に放出し、かろうじて形にした剣のような尖った棒をヴァンに突きつける。棒を弾いたヴァンは人間特有の魔力の多さに押されたものの、威力は一般人が思いっきり突いた程度。キンライの本物の『明星一閃』には遠く及ばない。


(一回見ただけじゃできない!...でもこいつなら...カエンダンならヴァンを討てる!)




「カエンダン!」


仕組み、威力、そして安易に想像できるほどの回数見たカエンダン。『スペードの証』の能力を付与されたカイトならば、例え平凡な人間でも想像し、創造することができる。



「...チッ」


一瞬睨んだヴァンは舌打ちをし、力を抜いて両手を広げる。カイトの作った青いカエンダンは真っ直ぐヴァンの胸に向かい、爆発した。


「これで...!」





「...気が済んだか、ガキ。こっちは魔力切れだ。いい加減眠ってもらうぜ。」


「な...!」


ヴァンは手に持った太刀を、カイトの前に突きだす。



「...奇妙な模様してんだろ。コイツァ『妖刀 蛇崩(じゃくずれ)』だ。剣をキンライに渡しちまって、何も持ってないアンタに使うのは『三銃士』としてはいかがなもんか...なんて思うが、俺もギリギリでな。容赦はしねー。」



ヴァンが太刀を強く握り直すと、斜めに刻まれた模様が赤く光った。刀身は模様を基準にグニャリと折れ曲り、(むち)のように垂れた。



「...刃に当たったら切れるぜ。ジッとしてな。」


「なんだよ、その変な刀...!」


ヴァンがカイトに向かって妖刀を振る。棒をイメージし、創造。咄嗟に防ごうと棒で受け止めようとするが、妖刀はしなり、棒に巻きつく。巻きつかれた棒は妖刀の刃によって斬られ、消滅。すぐさま二撃目、峰の部分がカイトの頭に強く当たる。


「がっ...」


「オラオラ、斬られてねーだけありがてーと思いな!」


何発も、何発もしなった攻撃を食らうカイト。頭の中は、キンライの死への怒りと驚き、そして妖刀の痛みで考える余裕がない。能力の『超具現化』をうまく発揮できず、武器のないカイトは一方的に攻撃を受けるだけだった。




やがて、攻撃が止み、カイトは膝から崩れ落ちる。




「キン...ラ...イ...」


手を伸ばすカイト。フッと意識が消え、動かなくなってしまう。





「...やっとか。さっさとサンライト国に帰ろ。」


為すすべもなくやられたカイトは、そのまま気絶してしまった。妖刀は光が消え、元の形に戻る。背中の鞘にしまい、カイトを持ち上げる。


「しかし、勇者様が二人、ね。めんどくせー事になっちまったな。しかも片方は敵のアズフィルア国に懐いてるときた。あー、めんどーだからさっさと引き上げて寝るに限るな。」













「それは少し待って頂こう。」



「なっ!?」


「秘技、『胡蝶剣舞(こちょうけんぶ) 露草(つゆくさ)』!」


「キンライ...!テメェまだ...!」


カイトを手放し、妖刀を取り出し、キンライとの激しい、素早い撃ち合いを始める。瀕死とは思えないほどの手数。長く続く撃ち合いに、少しずつヴァンが押される。


(なんだ、この技...!俺のスキを完全に突いてきやがる!加えてこの手数の、ありえねーくらいの多さ...!こんなの、撃ち負けるに決まって...!)


一太刀受ければもう一太刀、二太刀、三太刀、四、五、六...減ることのない剣の勢い。


「クソッ...こんなとこで、俺は...!」


「龍より舞い戻りしこの力…侮るなよ――!」
















「悪いね、邪魔するよ。」



音も無く現れた二人目の勇者―――ユージンはキンライの胸を背後から突き刺した。たまらずキンライは吐血する。




「―――――ふ。もはや、これまで。...少々、熱くなってしまいましたなぁ。...西の勇者殿。暫く、カイト様を、よろしく、お願い、しま...」


―――彼は言い終える前に気絶。倒れる。そして、そのまま―――




四天王の一角『ソード・キンライ』は、勇者の聖剣により死亡した。



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