1章13話 混沌、戦争にて。
バトル始まります
城の窓を覗くと、そこは戦場であった。
side ブロー
「翡翠、サウザンドアロー!」
空から大量の緑の針が降り注ぎ、ブローの周りの敵兵を次々と刺していく。刺さった針は相手の体内の魔力に反応し、小さな爆発を起こす。ブローの技によってサンライト兵、いわゆるモブ達がなぎ倒されていく。
「ちぃっ!キリがない!」
フードからはみ出ているミント色の長髪が、素早い動きによってなびく。少し小柄な彼女(彼)は軽業師のように動き、敵を翻弄する。
「四天王!覚悟!!」
突然、剣を振り下ろした煌びやかな装備の青年が力強く叫ぶ。わずかに反応が遅れ、腰に刺してあった剣で受け止め、数歩下がるブロー。
「ぐぅっ!...へえ、さっきの勇者様か。」
「カイトを返してもらおうか。」
正義という言葉を体現したような、金髪の男は、真緑色の目でフードの敵を睨む。ユージンのミディアム寄りの髪型や身なりは、まるでどこかの王子のようだった。
「はっ!返すも何も、こっちに来たのはアイツさ。随分と過保護だね」
「彼を連れてきてしまったのは僕の責任だ。何としても元の世界に返さなくてはならないんだよ。」
「それは困る。アイツはうちのエースなんでねっ!!」
姿勢を低くし、懐まで素早く入り込もうとするブローに対し、剣で応戦するユージン。攻めにかかるブロー、守りの体制に入り、隙を伺うユージン、彼ら2人の戦いは他の兵士が見惚れるほど。
ブローが斬り込み、ユージンが弾く。弾いた隙を狙い、また攻める。最小限に抑えた隙でまた弾き、牽制のような反撃を入れる。一歩下がってよけ、それから一歩前へ出て、斬り込む。それをひたすら繰り返す。
永遠に続くかと思われたその剣舞は、どこからきたかもわからない流れ弾が、ブローの右足に当たる事によって終わりを迎えた。
「がっ...!流れ弾かよっ」
右足の膝が折れ、崩れた。隙を逃さず最短距離でユージンが剣を振りあげる。剣はブローの左腕にくい込み、断ち切らんとする勢い。
瞬間にブローの右手は剣を離し、手のひらからエネルギー弾を放つ。それを確認し、断ち切るのは不可能と判断したユージンは腕を引き、そのままブローの血と共に回るように剣を振り、弾を弾いた。
離され、宙に浮いた剣をまた握り直し...否、今度は逆手で持ち直したブロー。
さらに数歩下がって、先程とは違う構えをとる。だらんとした左腕には力が込められておらず、血を流しながら、ぶらぶらと揺れている。
「ハァ...ハァ....いっってぇな...つまらねぇ剣の振り方しやがって。マニュアル通りの剣筋で腹がたつ。」
「マニュアルだろうが、僕の方が強い。...君のだらしない腕を見れば...または、僕の息遣いを見れば確かだ。」
「たまたま、ラッキーでできた隙のくせに、よく言うぜ。」
「避けない君が悪い。周りが見えてない証拠さ。」
剣を前に突き出し、構えるユージン。再び二人の間にピリピリとした空気が張り詰めた。
side ブラッディ
援護射撃班の指示。元メカトロニカの発明者であった『アストラル・アーキア』によって作られたマイク付き小型イヤホン(片耳)によって指示を出している。
少しづつ、押され始めている状況に焦り始めるブラッディ。相変わらず体のラインや胸を強調している服を着てはいるが、本人は一切気にせず、戦場の指揮をとっている。
「魔力はこっちが上よ!隙なくドンドンぶっ放して!」
「「「「おおー!!」」」」
「アーキア班!前線が押されてるわ!足を狙え!動きを止めろ!負傷兵を増やせ!船にある分しか資源はないわ!」
「ブラッディさん!救護班、間に合いません!」
「なっ...!アタシが今から行くわ!アーキア、あなたが射撃兵の指示を!」
「了解!ホークス、ミラージュ班はクローバー隊の援護に!前線をアーキア班と共に上げろ!パトロ班はそのまま高台からの射撃!ネズミ一匹でも寄せ付けるんじゃないっ!」
「「了解!」」「オーケー!」
「メリー、アリー!重症兵はアタシがやるわ!動ける兵の回復を、ソフィー達としなさい!」
「はい!」「了解」 「ブラッディさん、そろそろ」
「ああもう!忙しい!メリー!転送装置!救護室まで行くわ!」「はっはい!」
重傷兵の救護。
膝に矢を受けた程度の軽傷の兵や、前線で重傷を負った兵がそこに集まっていた。
「みんな、大丈夫!?気をしっかり持って!」
「うあ...四天王様、どうか、めぐ...みを...」
「っ!(体が、もう...!)あまり喋らないで。落ち着いて、息を整えて、魔力の流れを落ち着かせるの。魔力の出る先を、右肩、右足にもれ出させて...」
「ブラッディ様、こっちも頼みます...!」「いてえ、いてえよぉ」「四天王様、次は私をっ」「誰かっ誰かぁ...!」「は、早くしてくれ!気を失いそうだ」「た、助けてください!ゲホッ、ゲホッ!」
「静かにしてて!気が散るわ!ソフィー!薬草をありったけ!私の能力だけじゃ足りないわ!」
「はい!」
「してんのう、さま、わたしは...も...う...」
「手足の1、2本で弱気になるなっ!死なせて、なるもんかっっ!!!」
救護室は混沌の渦、地獄よりも苦しい地獄であった。
『治癒』の能力を持つブラッディは溢れ出る涙を拭きもせず、重症兵の手当てをしていた。
side カイト、キンライ
城の窓を覗くと、そこは戦場であった。
剣を振り、弓を引き、4色の魔法を放ち、儚い命を激しく、散らしてゆく姿があった。
「 次元が...違う」
「いずれカイト様もあそこで戦うことになります。ですが、今はここで。」
落ち込むカイトを、四天王の一人、熟練の老兵士、キンライが励ます。
「正直、機械魔兵ってのを倒したことで天狗になってた節がある、と思う。あんなの、この戦場に比べれば...」
「カイト様、機械魔兵を侮ってはなりません。確かにカイト様が討伐したのは弱いタイプです。それでも、民を殺す殺戮機をあなたは倒し、救ったのです。決して無下にしてはいけません」
「ああ...でも...」
「フン、面倒なやつだ」
カイトを冷たく見つめる魔王と呼ばれる少年の見た目をした男、黒崎海斗を召喚した本人、『ソニット・オルビット』はこの国で一番の実力を持ち、王として統治している。
国の地脈エネルギーを吸収し絶大な強さを手に入れたことは、他国への良い牽制になっているが、民からの批判の声は少なくない。
「魔王...。お前強いんだろ?お前が加勢すればこっちはかなり優勢になると思うが?」
「貴様なんぞのために俺は戦わん。」
「な、なんだ、随分と様子がちげえな。俺がサンライト国に行っちまってもいいみたいだ」
「構わん。好きにしろ。今の貴様に興味は、ない」
「なっ...!」
「魔王様、それは私にも分かりかねます。クロサキがサンライト国に囚われて、この国に何の利益がありましょうか。」
「サンライト国ごときに捕まるような奴はこの国にいても利益はない。国の為であろうがなんであろうが、 人一人も傷付けられない、なんて抜かす半端者なんて特にな。」
「...。」
「王室に戻る。ダイヤ、任せるぞ。」
「はっ」
魔王はそうして、広間から去っていった。
「気にしておられますかな?」
「...やっぱり、こういう世界では人殺しは当たり前か?死ぬことに重みはないのか?」
「......命は決して軽くない。」
突然の、ハッキリとした口調に、カイトは思わず心臓が締められる。
「...ですが、戦場においてはそれを重く捉えすぎてはいけません。多くの命を背負い続ければ、自分でいられなくなります。...加減は貴方次第です」
再び優しい口調に戻るキンライ。過去に何かがあったと伺えたその話し方に、気にはなったものの、自分の軟弱さに気づいたカイトは
「...悪い、甘かった。」
と呟いた。
突然だった。
なんの前触れもなく、その男は広間に入ってきた。
「あー、見つかんねーな、勇者。...もしかしてお前がクロサキカイトか?」
橙色のパンチパーマに黒いハチマキ。力強い眉毛、奇妙な太刀。話し方。
今まで見たことがない。
つまり、それは、単純に、
_____敵が侵入したのである。
「...!城の兵はどうしたっ」
剣を抜くキンライ。
「サンライト国『三銃士』、『ヴァン・フレイビア』だ。ヨロシクな?勇者サマ。」
窓を覗くと戦場。
そしてここもまた、戦場と化したのだ。




