1章12話 俺は強くない
「準備は出来てるか?」
フードを被った小柄な少年がポツリと数千の部隊に煽りを入れる。
「「「おおーっ!!」」」
『ブロー・シェイト』は『変装』の能力を持っている。彼、もしくは彼女の本当の姿はカイトにも分からない。ある時は逞しい好青年であるし、ある時は可憐な美少女である。ついこの間はノラ猫に化け、カイトをからかってやった。
この能力は一目見ただけで変装ができ、一声聞けば声帯の変化をし、共に過ごせば性格もなり切れる。いわば最強のスパイになり得るものだ。
だが、彼(彼女)の変装以上の、純粋な戦闘能力。広範囲の魔法、その辺の兵士にはまず負けない剣さばき。それに、今回の迎えうつ形の戦いでは前線に立つ方が良いと言えるだろう。
幾千の兵を従えた彼(彼女)に怖いものは無い。緑の『魔力』による飛行能力や自然を利用した攻撃も見逃せない。
『緑』の魔力、クローバーの証の『変装』の能力。
「援護射撃部隊の準備はオッケーよ!いつでも行けるわ!」
赤と黒、そして胸を強調した服を着た『ブラッディ・ラヴ』の能力は『治癒』と呼ばれ、自身の魔力を粒子化し負傷者の体内に注入、『ハートの証』特有の魔力により回復を行う。
今回の戦いではバリアを国全体に張り侵入を遅らせ、後衛で補助や弓で援護をする。
カイトはブラッディの魔力の色を知らないが、彼女の赤々とした力強い目を見れば『赤』であることは明らかだ。身体強化を行い、力強い弓術をするのだろう。
『赤』の魔力、ハートの証の『治癒』の能力。
「カイト様…お覚悟はなされましたか?ほほ、安心してください。私が御守り致します。」
紳士を体現した様なダンディなおじ様、『ソード・キンライ』は魔法が使えない。つまり、魔力を体内に有していない。詳しく言うと、魔力エネルギーを剣技に全振りしたのだ。
剣を握れば技術は魔力補正でさらに研ぎ澄まされる。例え、手に持つものがなまくらでも、木の棒でも髪の毛一本でも魔力補正で武器になる。
『剣は銃よりも強し』と言う言葉はチープなお話にありがちだが、彼は正にそれだ。ただし、それは長年の経験や、血や汗、涙の滲む努力、多くの師からの教え…充分過ぎる程の過程があって、キンライは初めて成り立つ。
龍人族である彼は『龍化』の能力を持っている。自身の体を数十倍もの大きさの龍に変身し、龍人族本来の超魔力で殲滅する。
ちなみにカイトは『ダイヤの証』については何も知らない。ただ、キンライは『ダイヤの証』を扱えないらしい。
研ぎ澄まされた剣技、龍人族の『龍化』の能力。
「…大丈夫。もう割り切ったぜ。」
クロサキカイトは『スペードの証』によって魔力を自在に操り、武器にしたり、盾にしたり、生き物として操ったり...なんでもできる万能能力だ。
ただし、ある程度自由に操るには2~3年ほどかかるとブローは言う。魔力消費も激しく、ガス欠になりやすい欠点に加え、かろうじて壁が作れるレベルの想像力のカイト。
カイト本人は『青』の魔力を持っている。低い温度の魔力を使い、氷を生成するのが得意な事から、次第に魔力の具現化に特化した色である。『青』の具現化に加え、スペードの証の『超具現化』によって、一般的な青魔法使いよりも魔力をグニグニ曲げやすい。
『青』の魔力、スペードの証の『超具現化』の能力。
国を守る塀から敵を待ち構える四天王の目線の先、緑のない岩山やヒビの入った乾いた地面のその先に深い青に染まる海が広がっている。
魔法で発達してきたこのミリネア大陸では珍しい、機械での発達をしたメカトロニカ国によって制限されていた海はこの戦争のために解除されている。
カイト達がしばらく海を見張っていると、何隻もの船が堂々とこちらに向かって進んでいるのが見えた。サンライト国である。あまりにも無防備に見えるその船の先は真っ直ぐ城を指している。
「な、なあ、今これチャンスじゃないのか。上陸される前に…。」
「いや、あの船...メカトロニカのだな。一番前の船の帆を見てみろ、カイト。魔法陣が描かれてるだろ?あの魔法陣の術式には『遠距離魔法反射』が組み込まれてる。」
ブローが指差す先、大きな船の帆には、紫色の巨大な魔法陣が光っていた。陣から放たれている輝きは船全体を丸く包み『これはバリアです』と言わんばかりの主張をしている。
「メカトロニカ特有の反射技術さ。素人目じゃわからないだろうが、俺にはわかる。奴ら...メカトロニカと随分いい話をしたみたいじゃないか。」
鋭い眼差しで船を見つめるブロー。その感情は、船の魔法陣がどうこうよりも、メカトロニカ国自体を嫌っているように思わせた。
「勝ち目あるかそれ?船の上から攻撃されちゃあおしまいなんじゃ…それこそ、魔法撃たれたら」
「無理だ」
「は?」
「こっちも、今から同じ魔法陣を展開するからな」
慌てるカイト。ドヤ顔でカイトを見るブロー。
今日のブローは女の格好だ。可愛い。
「メカトロニカの技術なんだろ?一体誰がそんなものを?」
「一目見ただけで真似できちゃうような天才がいるんだ」
ブツブツと呟き、目を見開いて魔法陣を見るブラッディ。ブロー曰く、世界一の魔法使い。
「…が………で......あれが....うん、展開できるわ」
「うちの自慢の魔法使いさ」
「なんでもありだなぁ」
「船から全員出たか」
「みたいだな」
岸につき、ぞろぞろと並び始めたサンライト兵達。その中から一人、煌びやかな装備をした若者が剣を掲げ、はっきりと、
「サンライト国、勇者ユージンである!」
そう言った。
「...ユージン!?」
「我が友...勇者、黒崎海斗の救出に参った!大人しく黒崎を出せ!」
「呼んでるぞ、クロサキ」
ジト目でカイトを見るブロー。そんなことも知らず、焦るカイト。
「俺が目的なのか...?な、なあ俺が大人しくあっち側に行けば戦争にならないんじゃないか」
「へえ、アズフィルア(おれたち)とやりたいわけか」
「そうじゃなくて!死人が出ないだろ」
「今は出ないだろうな。...ただ、勇者という希望を奪われた我が国アズフィルアは怒り狂ってサンライトを攻めるだろうよ。死人がどうとか、関係なくね。...勇者っていうのは、それほど大きな存在なんだよ。この世界では。」
「...戦争はどうやったら終わるんだ」
「お前が相手に奪われるか、諦めて帰るくらい叩き潰す」
「カイト様、死人はどうやっても出るのです。...カイト様は城で隠れていてください」
キンライはカイトをなだめるように話す。確かに、敵の目的は自分で、キンライと共にこもっていればかなり安全だろう。だが、
「なっ...俺だって戦う!なんのための修行だったんだよ。こういう時の為じゃないのか?」
いささか、カイトは動きたがりであるし、若干の正義感もある。何より、自分のせいで死人を出して欲しくない。
「悪いなクロサキ。お前に教えたのは最低限の護身術に過ぎない。動きがパターン化されてる機械魔兵ならまだいいが、対人戦となるとそうはいかない。」
「魔王様のとこで待ってて、カイトちゃん。アタシ達がなんとかするわ!」
「お、俺は...」
カイトは何も言えない。魔力を使えるようになった一般人であるカイトは特別強いわけではない。現代技術でチートできるほどこの世界は遅れてないし、秘めたる力が目覚めてるわけでもない。圧倒的無力っ...!
「...わかった。城で見てるよ。」
「城の中で呑気にしてるなよ?狙われてるのはお前だけじゃないぜ。...おそらく、魔王が本命だ。あの東の勇者...ユージンと言ったか。可哀想なやつだ。」
「悠仁が、可哀想?」
「まあ、今はいい。後で会おう、クロサキ。」
「またね、カイトちゃん!」
「ああ、また」
やがて、剣が交わる音が響き始め、爆発音と、悲鳴の声が戦場を包んだ。
忙しいので書きたいことがかけない日々。
何度も言いますが失踪はしないし、完結させます。
一章は大体、全30話前後の予定だったりします




