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今日の話題:夢

県立青葉高校。

稲作を中心とした農家が発達した、いわゆる『田舎』にある学校で、周囲を田んぼに囲まれている。

そのため、放課後になると運動部の掛け声程度しか聞こえない、とても静かな空間が生まれる。

特に、ここ『サブ研』は、部員数が少ない文化部であるため、本を読んで過ごすには快適な場所と言える。

だが……。


「はよーッス、アッキー。」


その静寂をぶち破ってくる者が一人。

金髪のボブカットにヘッドフォンを首から掛けたコイツは、俺の後輩の呉朱音(くれあかね)。家同士が親戚の関係のため、俺のことを軽々しく『アッキー』などと呼んでいる。


「ああ、朱音か。一応学校内では『センパイ』をつけろよな。」

「別にいいじゃないッスか、今はワタシたち以外誰もいないんスから。ところで、なんでアッキーだけなんスか?」


朱音が教室を見渡す。


「今日はみんな来られないってさ。昴は野球部だし、未来は委員会の仕事だし、明子先輩は用事があるって言って帰ったし。」


俺と朱音は『サブ研』の中でも暇な方に入る。ちなみに一番暇なのは俺だ。朱音もたまに『あ、ちょっと用事あるんで帰るっス。』とか言うので、俺は本当に暇な存在らしい。


「なるほど。……あ、そうだ。アッキー、ワタシが今朝見た夢の話とか、聞きたくないッスか?」

「いや、別に?」


朱音が唐突に話を切り出した。

ちなみに朱音の話は大抵が面白くないので基本聞き流している。


「そう、あれは第三宇宙時代、漆黒の魔人『ダークシャドウ』が支配していた頃……、」

「……するのかよ。」


そう。朱音は厨二病なのだ。今回は『夢』ということになっているが夢でこれなら現実はもっとヒドい。

ちなみに『ダークシャドウ』というのは朱音の妄想の中での名前らしい。本名に一切由来しないあたりが朱音らしい。


「フハハハハ!我はダークシャドウ!我が闇の力の前に、畏れひれ伏すがいい!」

「やめろ、ダークシャドウ!これ以上、無辜の人々を傷つけるな!」

「貴様らこそなぜ分からん、ミスタークリスタルよ。アレが無辜だと?ヤツらは、我らから領土を奪い、侵し、破壊した!だから取り返した。ただ、それだけだ。我は全てを支配し、我らだけの理想郷を建国する!」

「俺は、お前を止める!くらえ、クリスタルパンチ!」

「ぐっ……、なかなかやるな……。だが!我は退かぬ!」


待て。なんだ『ミスタークリスタル』って。どう考えても俺じゃないか。さっき『本名に一切由来しない』とか真顔で言ってた俺が恥ずかしくなるだろ。それに必殺技が『クリスタルパンチ』って、もうちょいなんかあっただろ。少し安直すぎやしないか?俺なら……、いや、要らぬ墓穴を掘るから言わないでおこう。


「……そして、熾烈な戦いの果てに、両者は和解し、世界に平穏が訪れました。」

「へえ、未来に頼んだら小説にでもしてくれるんじゃないか?」


どうやら終わったらしい。ちなみに後半はまったく聞いていない。

面白いかどうかはともかく、話として出来上がっているなら小説にするのもありかもしれない。


「……アッキー、ワタシが未来センパイのこと苦手なの知ってるッスよね……?それはそれとして、この話が小説になるほど面白いんだったら、『クリスタル』に寄稿するのもありッスけど。」


……そうだった。なぜか朱音は未来を嫌ってるんだった。まあ、朱音は自分で書けるタイプの人間だから問題ないだろうけど。ちなみに俺は読む専だから書けない。というかなぜ未来には『センパイ』を付ける。俺には尊敬とかは抱かないのか。俺は嫌いな『センパイ』以下だとでも言いたいのか。


「うん、昴あたりが気に入りそうな話だし、いいと思う。」


とりあえず適当に流しておく。

別に朱音が嫌いということではない。むしろ後輩としていいヤツだと思っている。

ただ、なぜか朱音の話は面白くないと感じてしまう。


「ところでアッキー。将来の夢とかって考えてたりするんスか?」


またしても朱音が話を振る。


「いや、特に。まあ、大学に入ってから考えるさ。朱音はどうするんだ?」

「ワタシもまだ決めてないッス。普通に考えると進学なんスけど……。」


特に夢も目標もない二人なので、必然的に『進学』以外の道しかなくなる。


「その判断が無難だよなあ……。」


「そういえば、他のセンパイ方はそういうの決まってるんスかね?」

「未来は小説家になるって言ってたな。ジャンルまでは分からないけど、アイツならどれでも書けると思うし。」


未来の場合、『本が読みたい』という目的のために『本を書く』という手段を選んでいるのでかなり特殊であるが。


「よしっ……じゃなかった。やっぱりそうなんスね。」

「ん?」

「……いえ。なんでもないッス。」


朱音は時折変なリアクションをすることがある。小さい頃、俺や未来とよく遊んでた時はそうでもなかったのだが、中学に入ってからだろうか、妙な返答を返すことが多くなったような気がする。まあ、厨二病の影響みたいなモノだろう。


「明子先輩は絵が上手いから美大とかに行くんじゃないかな。でも、先輩ユルっとしてるし、直接聞いてみないと分からないかも。」

「あ~、なんかわかるッス。」


そもそも『サブ研』の前にあった『遊楽部』は、明子先輩が絵を書くために立ち上げた部活なので、もともとそっちの方面に興味はあったはずだ。先輩の絵のレベルなら、美大に進むのも道としてあるかもしれない。

「昴は……、運動できるし体育教師とかかな。あ、でも前に見せてもらった漫画の模写が上手かったから、案外漫画家とか言い出しそう。」

「昴センパイならありえそうッスね。『オレ、漫画家になる!』なんて言いそうッス。」


昴はああ見えて手先が器用だ。まあ、漫画家になった姿はとても想像できないが。


「さて、そろそろ帰るか。」

「そうッスね。じゃあまた明日。」


思いのほか話が続いてしまった。

時計を見ると下校時刻の10分ほど前だった。

こうして駄弁ってるのも案外悪くないかもしれない。

そう思いながら、俺たちは家路についた。

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