統治と憧れ?
「あの野郎………いつかぜってぇ殺す!」
テスト期間が終わった初めての朝。彼女が言った言葉はこれだった。
丁度よく声を掛けようとしたみりは思わず動きを止めてしまった。
「ちょっとちょっと! 何があったの?」
「うわ、びびったぁ! いや、何でもない」
慌てて笑顔を取り繕って笑う。
言えない。
「当時僕は親に変な反抗をして、学校は行かず、変な仲間を作って周辺一帯を統治してました」
「とう、ち?!」
驚愕して百合はすっ頓狂な声を上げた。
「はは、だけど途中からすごく学校に行きたくなって……」
儚く笑う彼に思わず百合は目を細める。
「だけど、行けなかった。素直になれなくて、意地を張って…だから、百合さんはすごいです」
「………そんなこと、ない。私は……ただ…」
そんな意地を張るような人間がいなかっただけ。
言おうとしていた言葉は何故か飲み込んでしまい、俯いた。
「今……」
「え?」
気付けば彼の顔は緩んでいた。何故笑っているのか百合は理解できず、眉を寄せた。
「にしても、僕のためにこんだけ頑張ってくれたことは感激です」
「な、ちが! 何でてめーはそう都合のいい思考ができるんだよ!」
「百合さんは……可愛いですよね?」
瞬時に彼女の顔は赤く染まる。自分でも予想できないそれに彼女は走り出した。
「くそ、だから嫌いだお前なんかぁ!」
捨て台詞と共に彼女は消えていった。
言えない……そんな恥ずかしいこと。
大きく溜め息をついて百合はみりと学校に向かったのだった。
順調に授業は進み、テストも順調に返ってくる。それを興味なく見ながら百合は昨日のことを思い出していた。
いつかあいつの正体もあばいてやる!
熱く、新たな目標を立てた。
「よく頑張りましたね、時条さん」
同じく数学のテストも配られ、手渡された。85と赤ペンで書かれた紙に薄く笑って席につく。
授業が終わり、帰ろうと鞄を持った時、彰と目線が合った。にっこりと先生の笑顔を向けて教室を出て行く。
「?」
何故かその笑顔に違和感を感じる。何か、いつもと違う。
気のせいかな?
しかし、それは気のせいではなくなってしまう。
「最近百合ちゃん財津先生と話してないね」
「何かあったの?」
やはり一番最初に気付いたのはこの二人だった。百合は首を横に振り、頬杖をつく。
「知らない。何かあっちから避けてるみたいだし」
「あ、だから百合ちゃん不機嫌なんだね!」
紫央里は軽く確信して笑顔で言った。咄嗟に否定する前にみりはあぁ、と納得してしまう。
「違う!」
「でも、好きなんじゃないの?」
「違うっ! 何でそうなる! 俺は………別に」
「じゃぁ、憧れとか?」
憧れ……か。
もしかして…やっぱり俺はあいつの憧れにはなれなかったのかな?
もやもやと、すっきりしない日々が続く。
平和な学校生活。それが既に当たり前になりつつある。
そんな時。
「よぉ、久し振りだな」
「………誰だっけ?」
「いつかは先公共々世話になったなぁ!」
ガラの悪い連中は下校途中の彼女の前に立ちはだかり、そこらに置かれたゴミ箱を蹴り飛ばした。
「今日は…そうはいかねぇよ!」
「お前ごときに俺はやられない」
ガンを飛ばして百合は鞄を投げた。
身軽さを武器にした素早さで彼等の間をくぐり抜け、蹴り飛ばす。
「さぁ、やってみろよ」
「調子に乗るなっ!」
反射的に彼は百合の足を掴む。バランスを崩してタイミングを逃した彼女はそのまま彼に捕まった。
「さぁ、どうする?」
少し今日が投稿の日だということを忘れるところでした(汗)
もうそろそろ第一部が終了致します。