本音と憧れ
そして月日は流れ。
「終わったぁ!」
「よし、遊び行こうぜ!」
彼等の地獄と思えるテスト期間は終わりを告げ、この日は午前で学校は終了した。
「百合ちゃん、三人でご飯食べに行かない?」
「へ、あ、うん! 別にいーけど……」
未だに女子(友達)とのノリになれない彼女はぎこちなく返事をする。
あまり時間がたたないうちに紫央里も顔を出して、三人は学校を後にした。
向かった場所は近くのファミリーレストラン。同じような考えをもった生徒達が席を埋めている。
「やっぱりお昼時は混んでるね」
「まぁ、待ってないからまだいい方じゃない? あ、そういやぁしお、テストどうだった?」
「聞かないでぇ! 数学ズタボロだよぉ」
情けない声を出して伏せる。
紫央里は文系、みりは理数系と見事にわかれている二人はいつも互いに教え合ってテストを乗り越えているらしい。
「百合ちゃんは?」
「あー、多分それなりに書けた気がする」
曖昧に答えて苦笑する。合っている自信はないため、断言はできない。
「そっか、よかったね!」
「先生の度肝抜いてあげないと」
軽く笑い合える。そんな存在に彼女は目を細めて思った。いいな、と。
陽が暮れかけた時間、彰はまだ職員室にこもっていた。
「財津先生まだやってたんですか?」
「えぇ、明日授業があるからその時にもう返したくて」
「そうですか。あ、今回は多分先生にとって嬉しい結果があると思いますよ」
「?」
国語の先生の意味深な言葉に彼は首を傾げる。疑問に感じながらも、少しずつ回答用紙に赤ペンをつけていった。
「58点……さぼったな、古田。えーと、…78点。まぁまぁだな。…………お、こいつは頑張ったな、んーと…………」
動かしていた手は突如止まり、目を丸くする。
見慣れた名前。けれど、予想していなかった名前。
「え………?」
疑問と共にその場にノック音が響いた。彰以外誰もいない職員室。当然彼が返事をする。
「やっぱりいた」
「百合さん!」
まだ制服姿の彼女は何も言わずに部屋に入る。
髪が軽く揺れて、一定のリズムの足取りで目の前を通り過ぎる。
「なぁ、どうだった?」
「あ………すごいですよ、百合さん! 85点です! 頑張りましたね。 はっ、まさか…カンニングじゃぁ」
「するかっ!」
いつも通りの空気に百合は息をついて窓を開ける。少し蒸し暑い風が部屋の中に入る。
「百合さん?」
「なぁ、本当は…どうなんだ?」
「…何がです?」
ゆっくりと身体の向きを変えて、彰と視線を合わせた。
「俺が、憧れって…話し」
「………」
「本当はどうなんだ?」
いつもふざけた口調の彼が、唯一真剣に語った。だから、ずっと気になっていた。本当は、それは冗談ではないんじゃないかと。
「それは……」
「まぁ、どうでもいいけどな。そんなこと。俺は、見ていてくれたことだけが…嬉しかったからさ」
誰も、気付いてくれなかった。
「わかって、くれてたんだな。俺が学校行こうとしてたこと」
「当たり前ですよ」
彰は立ち上がって百合の顔を覗いた。
にっこりと穏やかに笑って頭を撫でる。
「だって、僕の憧れですから」
頭から伝わる体温が、妙に心地よい。久し振りに感じる温かさに百合は目を細めた。
不意に出た涙に彰が驚く。
「えっ、あっ! 何かしましたか?!」
「な、何でもねぇよ! ちょっとゴミが入っただけだ!」
くそ、不覚だ。
涙を乱暴に拭って、百合は彰を見る。蒸し暑い風のせいか、少しだけ顔が熱く感じた。
はい、今日から八月に入りました。
あらすじにも書いた通り、今日からしばらく月、水、金曜日で小説を投稿したいと思います。