違う道と思い出
呼び出されたのは、二回目。
それなのに、もう何回もこの部屋を見ている気分になる。
百合は気付かれないように大きく深呼吸する。緊張しているのは、自らの処分が決まるから。ではない。彼女の処分が決まると共に彰自身の処分も決まるからだ。
「よって、二人の処分を決めたいと思います」
ゆっくりとした物言いに若干イラつきながらも、百合は静かに聞く。
「百合ちゃん!!」
鞄を手に持って帰ろうとした百合は後ろからかかった声に振り返る。案の定、二人がいた。少し疲れた笑みを向けて、百合は彼女達の元へ歩く。
「今までありがとう」
そう紡がれた言葉に、二人は聞こうとしていたことが、ある意味で答えられたことに気付く。
「そ、そんな!」
驚愕と衝撃で顔を青ざめる二人に百合は苦笑した。生暖かい風が頬を撫でる。もうすぐ春になることを知らす温度。彼女はそれを軽く感じて目を閉じた。
「私は………今年度が卒業なんだよ」
「何で! まだ一年あるじゃん!」
「そうだよ! 受験はっ!」
「私は進学しない。就職するよ」
はっきりと、ゆっくりと、強い口調で、百合は二人を突き放す。
「ごめん、いつも………一人で決めて。ごめん、二人を悲しませて。ごめん」
いつも、彼女は何の相談も無しに自分のことを決めてしまう。何度も二人に怒られた。何度も心配かけた。
些細なことでも、いっぱい。彼女は言うよりも聞くことを優先してしまうから、二人は未だに気付けない。それがもどかしくて、悲しい。
「ばか………」
「本当………ひどいよ」
「私ね、二人と親友になれて……彰と恋人になれて、本当嬉しかった。親が死んでから無意味に流れる時間が憎くて堪らなかったのに、今はこの時間の先に何があるのかすっごい楽しみなんだ!」
子供のようにはしゃいで話す。両親がいなくなってから、彼女の周りには誰もいなかった。だけど、彰がいて、みりがいて、紫央里がいて、誰かが……彼女の周りにいる。それがとても嬉しい。
「ねぇ、私ね、皆と違うの。ずっと一人でいた。思わず不良になるくらい高校が嫌いだった」
「それは…」
「仕方ないよ」
「だから、だからね!もうこの際人とは違う道を歩いてみようって決めたんだ!」
誰かと一緒の道を歩くためにここにいるんじゃない。
誰かの真似をするために生きてるんじゃない。
自分のために、自分の意思で、ちゃんとした理由を持って、物事を見つめて行く。
彼女が、この一年で決めたことがそれだった。
「だから、ね? 応援してよ。私はこれからなりたいものになりに行くから!」
「「――――っ」」
清々しい笑顔に言葉を失った。彼女からこんなにはっきりと応援して、と嘆願することは今までなかった。それほど、この道を歩むことを望んで、喜んでいるのだ。
たとえ、学校という居場所を無くしても。
「…………ばか!」
「当たり前じゃん! ばかぁ!」
辞めることを責めたいのに、彼女の強い意志を応援したい。そんな葛藤からか二人は投げやりに返事する。
それが堪らなく百合には嬉しかった。
「ありがとう。大好き」
涙を浮かべて百合は微笑んだ。もう、見れないかもしれない、二人と赤く染まる学校の風景を頭に焼き付けながら。
ただ、そこには、
思い出しか残らないことを噛み締めて。
そして、舞台は一年後に移る。
話をものすごく無理やり進めています。次か、その次くらいで終わる予定です。