騒ぎと辞める
どこから広まったのか、百合と彰の関係はいつ間にか学校中に知れ渡り、もちろん親友の二人にもそれは耳に入っていた。
かなり動揺した様子でみりと紫央里は顔を見合わせた。
「何で、皆知ってるの?」
「ちょ、やばいよ!百合ちゃんまだだし」
騒ぎの原因はいつもより遅くてまだ顔を見せない。ざわざわと騒ぎは治まらず、生徒の皆は勝手な想像で話を盛り上げている。
「一体………何があったんだろう」
「もう、何で電話にも出ないの!」
焦りばかりが募るみりに紫央里は苦い顔をした。こういう時、親友であっても彼女のためにできることは少ない。ただ、今の状況を教えることしかできない。
「財津先生も来てないし」
多分、バレたことを知ってるんだ。
明らかに見計らったような現状に確信する。
みりは仕方なく携帯をしまって教室を出た。思わぬ行動に紫央里は慌ててついていく。
「何処行くの?」
「門で待ってる。話したいし」
今、百合が来ればすぐに先生達に捕まることは目に見えている。その前に少しでも彼女を見たい。
紫央里も頷いて一緒に階段を降りる。しかし、途端に辺りの声が一際大きいものになった。
二人の目の前を堂々と歩くのは黒く髪を染め直した百合と彰だった。二人同時に学校に来たのだろう、噂のはずが、事実と皆の中から考えが塗り替えられる。
「ゆ、りちゃん」
「髪が」
「ごめん、心配かけて」
にっこりとこんな状況でも余裕に微笑む。一体何処からそんな余力を出しているのか、二人には理解できない。
何か聞こうと口を開こうとしたみりを視線で制止して、もう一度呟く。
「ごめん、ね」
「ぇ………」
先ほどと同じ言葉。だけど明らかに違う理由で述べられた謝罪。瞬時に二人に不安が募る。彰も彰で今までには見せない落ち着いた覚悟を醸し出している。
そのままゆっくりと自らの足で校長室まで歩く。
「百合ちゃん…」
「何する気?」
この状況ですること。そう考えると身体が自然と震えた。
まさか………。
ソファとテーブル、そして机がセンス良く配置されたそこは、校長室。大体が茶色か黒で構成されている部屋は独特な重苦しさを醸し出している。
そこには彰と百合、校長、そして昨日の女教師がいた。
「さて、昨日のことですが」
「言い繕う気はありません」
「私と財津先生は互いの立場を理解した上で交際をしています」
きっぱりとした対応に少し戸惑う。隠した所であの状況を見られたらもう無理に近い。それならいっそと二人は決意したのだ。
「そうですか、それなら…それ相応の処分を受けてもらいます」
「どちらか一方が学校から消えますか?」
率直の質問に彰さえも目を見開いた。百合は顔色一つ変えずに返事を待っている。そこまで正直に聞かれると、逆に答えづらいのか、校長は表情を曇らせて唸った。
「まぁ、………そういうことにならないとは言えない。PTAにも相談して、それからだけど」
予想通りの言葉に彰は失笑した。この場合考えれば消えるのは彰の方だ。他の学校に飛ばされるか、または最悪教師免許を失うか。どちらにせよ、もうこの学校にはいられない。
逆にいい機会だったのかな?
いつかは、百合も卒業する。いつかは、この学校でも会えなくなる。それが早まるだけだ。
ちょっと違う状況なだけ。早めにちゃんとした恋人になれて、いい機会だと無理やりに納得した。
「なら、私がこの学校を辞めます」
「「「!!」」」
意外なセリフにまた硬直した。至って真剣な彼女の顔に、彰はかける言葉が見つからない。
「私は……中退させてもらいます」
きっぱりとした高い声が広い部屋に虚しく響いた。