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それからと初詣

色とりどりの振袖をきた女性。その姿を見ながら彼女、時条百合は大きな溜め息をついた。

彰誘拐事件(みり命名)からまだ数日しかたて以内、今日一月一日。彼女は彼氏である彰を待っている最中だ。

何故、元気がないのか。それは彰が遅れている、というわけではなく。気分が悪い、というわけでもなく。ただ、その数日前の出来事が頭の中で整理しきれていないからである。



それと、皆さんも理解できないと思いますので、ここで一度整理しましょう。(作者の実力不足故)


和洋菓子店の社長である財津総一郎は、二人の女性と付き合っていた。どちらも総一郎のことを慕い、総一郎も二人を同等に愛していた。ある時、その片方と結婚する。しかし、その直後に結婚していない方の女性の妊娠が発覚。

自分と血のつながった子供をおろす、そんな恐ろしいことは出来なかった彼は正妻との子供と偽って長男、章を授かった。

そして、本当の妻との子供がその数年後に無事誕生する。それが彰だった。

腹違いの子供だと知った二人はその時から自分の心をしまうようになり、その二人を見て、また総一郎も扱いがわからなくなった。

次第に愛し方を忘れ、薄れていく。

こうして不良となった彰と、総一郎の望通りに生きる章と、思うこと、やりたいことが異なる二人ができる。

総一郎は素直すぎる章を見て、思う。正妻との子供じゃないことを気にやみ、側にいてくれるのではないか、と。二人とも心から跡継ぎになりたいとは思っていないのだと。

そのうちに子供から跡継ぎを見つけることは諦め正社員の中から優秀な者を作り出そうという考えが生まれた。しかし、それが生まれる前に総一郎へのガンの発覚。

焦る気持ちから彰への跡継ぎを考え、強行突破をしたのだ。



「だけど、全ては空回り。結局、皆不器用だっただけなんだよね」



不器用な人が一心を込めて作ったお菓子。

だから、すごく優しい甘さがするのかな?



百合は薄く笑って時計を見る。そろそろ約束の五分前となった。ゆっくりと周りを見渡せばあの黒髪が見えた。

人ごみにまぎれていても一発で見つけ出してしまう。



「彰!」



声に気づいた彼はまっすぐに彼女の方を向いて微笑んだ。久しぶりに見る心からの笑顔に百合は思わず顔を赤らめる。



「早いな」


「思ったよりも早く着れたから。明けましておめでとうございます、今年も勉強と恋、両方の面でよろしくお願いします」


「はは、よろしく」



彰はじっと下から順に彼女の姿を確認する。赤い振袖に包まれたその姿はいつもよりも大人びていて、綺麗だった。その視線に気づいたのか、彼女は思わず視線をそらす。



「そんなじっと見ないで」


「やだ」


「恥ずかしいじゃん」


「は、何それ、すっげー可愛い」



そんなバカップルなかいわを繰り広げる二人をじっと乾いた目で見る者が一人。



「ここにもこんなカップルいたよ」



沈んだ声でそう呟いたのは野原柴緒理だった。そんな彼女の後ろには彰と百合と同じように頬を染めるみりと真二がいた。



「しおちゃん、みぃちゃん…神谷さん」


「あ、百合ちゃん。明けましておめでとう」


「おめでとうございます」


「ちょっとぉ、一応百合ちゃん達の関係をカモフラージュするためにわざわざ一緒に行くんだから、少しはそういったオーラ消してよね」



おそらくみりと真二のやり取りをここに来るまでさんざん見せ付けられたのだろう。うんざりしたように強く念を押した。苦笑をしながら百合は頷く。



「あ、そうだ百合ちゃん! どうして先生の誘拐の時、私の所にも声掛けてくれなかったの!」


「あー、ごめんね。あの時何か考えまとまんなくて」



事件が終わった後に事を聞いた柴緒理はこれ以上ないほどショックを受けて、一日まともに口をきいてくれなかった。

百合が財津家に潜入するために用意した狩野朱理という人物と、設定はほとんどミリが考えてくれたものだ。



「びっくりしたよ、財津先生のところに潜り込むために名前とキャラクターを考えてだもんね。よく思いつくよね、そんな方法」


「みりちゃんもよくあんな短時間であそこまで考えてくれたよね」


「お陰でこっちはすっかり騙された」



和気藹々と話す彼女達の会話についていけていない真二は区切りのいい所でぼそりと提案する。



「あのぉ、ぼちぼち初詣行きませんか?」



混雑する神社前に立つ人のもっともな意見だった。







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