本音と真実
ガンという言葉に彰は瞳を揺らす。父親の存在がなくなる、それは例え忌み嫌っている相手であっても動揺しないわけにはいかない。
肉親というのはそういうものだろう。
ずっと、居続ける。
そう錯覚する当たり前な存在。
「二年…」
遠いようで早いその数字にただ絶句するしかない。
「どうした? 同情して社長にでもなる気になったか?」
「な、そんなこと絶対しない!」
「そんな内容で言い争わないで!」
思わず口を開いた百合に総一郎は一度睨みを効かせてゆっくりと座り込む。一つ、大きな息をついて、疲れた口調で呟いた。
「もう、いい。彰も、お前ももう出て行け」
「嫌です」
やっていることと、言っていることの矛盾。それにそろそろ彼もいらつきを覚えた。それでも、やはり彼女は気にする様子もなくじっと総一郎を見つめる。
まっすぐな、強い瞳。その目に眩しそうに目を細めて苦い表情を作った。
「私はこの店を潰しに来たんじゃない。確かに彰は連れて帰るけど、それでもう関係ないとか言えない」
「素人が口出しできる問題じゃない。それはわかっているはずだろう?」
「でも、貴方に足りないことを指摘することはできます」
「部外者が口出しをするんじゃない!!」
「部外者だから口出しできる内容なんです!」
互いに息を切らしながらまた見つめ合う。そろそろ総一郎の身体を心配し始めた章がいつの間にか彼の隣りに控えていた。
ゆっくりと百合を睨んで首を振った。これ以上興奮させるなと、訴えているのだろう。
「そう、貴方ですよ、章さん。貴方がはっきりと自分の気持ちを伝えないから、こんなややこしいことになってるんです」
いきなり話を振られて、彼に目を丸くした。一斉にその場の者は彼を見る。
「一体何の話だ?」
「ずっと話聞いてたし、状況も何となく理解してるけど、でもさ……彰が社長にならないなら、普通に章さんを社長にすればいいんじゃないかって話」
もう面倒くさい、と呟いて百合は頭をかく。考えたこともなかったのか、三人は目を点にしていた。血のつながった親子。それは章も変わらないし、普通に考えれば彼が長男であるのだから彼が社長になるのが当たり前。
けれど、彼等の頭の中にはそれがなかった。
「ふん、それはありえん」
「ねぇ、母親の違う息子を作った貴方なら、血のつながりなんて気にしていないでしょ?」
彰と章。互いにいがみ合う理由は、腹違いの兄弟だから。
彼が後継ぎを章にしないのもそれが理由で、だけど。
「それなのにどうして貴方が章さんを後継ぎにしなかったのは、彼がその気がないと思っているからじゃないの?」
誰も考えなかったその理由。思いつかなかったその状況。
彼女が現れてから全てが一転しだす。
「どうせ、この仕事になんか興味ないだろう」
「────いつ、そんなこと言ったんですか!」
「腹違いの状態を好む者なんていない。ずっとお前は私を恨んでいるんじゃないかと」
「確かに、腹違いという状況には満足できません。だけど、だからと言ってこの仕事まで恨んだことはないです」
百合は隣りにいる彰と視線を合わせてため息をついた。
「結局ね、人ってさことばがないとわからないんだよ」
こうして、ぐだぐだなこの争いは、うやむやになりながら終了した。
うわぁぁ、悪い癖です。マンネリ+ネタ切れ。
本当にぐだぐだな話になって申し訳ないです。
次の話から雰囲気を一転させてエンディングに近づきたいと思います。