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少女と学校

まだ綺麗なランドセルをきちんと背負って少女はじっと曇りない瞳を向ける。

一瞬で我に帰った。それからゆっくりと周囲を見やる。血だらけの手、唸りながらその場に倒れる沢山の人。こんな惨状を少女に見せてしまった。

そう、彼はこれ以上ないくらい後悔した。



「お前………」


「ケンカ……してるの?」



うっすらとにじみ出る恐怖の色。目を大きく見開いて震える彼女に何故か彼は言い訳の言葉を探していた。

誤解してほしくない。

そんなことを考えて、すぐに頭を振る。




これのどこが誤解?

見たまんまじゃんか。




何も言えなくなり、口を閉ざす。俯いて黙っている彼に少女はゆっくりと近付いた。



「手、ケガしてる。ひどくなってる!」


「………え?」


「私、自分を大事にしない人嫌い!」



泣きながら訴える少女がやはり彼には理解できなかった。

何故、彼女は他人のために泣くのだろうか。

何故、さっき自分は彼女に言い訳しようとしたのだろうか。

全てが理解できなくて、訳がわからなくて、彼はただ泣く彼女を見つめていた。



「お前の、妹か?」



いつの間にか回復してた一人の男が彼女の後ろに立っていた。低い、冷たい声音に少女は思わず身体をすくませた。



「もう、この際なんだろうといーや。使えればな」



彼女の腕を乱暴に掴み、男はにやりと気味の悪い笑みを彼に向ける。



「さぁ、どうす………」



けれど、その笑みを向けるはずの相手が既に目の前にいなかった。驚愕で一瞬動きを止めた男を彼は後ろから横へと蹴り倒した。見事脇腹へ入った攻撃は猛烈な痛みを与えて、男を地面へと追いやった。



「大丈夫か?」


「う、うん」



座り込んだ少女を立たせてその場から離れる。じっと不思議そうに彼を見つめて、握られた手にも視線を送る。右手よりは幾分か綺麗なその手は以前よりも温かい。



「お兄ちゃんは恐くないね。あの人はすごく恐かった」


「………何で俺は恐くないんだよ?」


「だって、優しいし、逆に淋しそうだし」



明るく、簡単に述べられる言葉に彼はまた瞳を揺らす。




どうして、そんなに簡単に


聞きたかった言葉を言うんだ




「そうだ! そんなに淋しいなら先生になりなよ!」


「え?」


「私の先生ね、学校にいれば皆がいるから淋しくないんだって言ってたんだ!だからさ、ね? それに、私お兄ちゃんが先生になったところ見てみたいし」



突拍子のない提案に彼は目が点になる。ゆっくりと息を吐いて、しゃがんで彼女の目線に合わせた。




「あのさ、俺………ケンカしてたどうしようもないお兄ちゃんだよ?」


「そういうの関係ないよ。今から頑張ればいいだけでしょ?」



さらりと彼の言葉を否定して彼女は小指を出す。無邪気に笑んで彼の小指をそこに絡ませた。



「先生になって私の勉強も見てね! 約束」


「あ、おい! 勝手に決めんなよ!」


「ぶー。じゃぁ、せめて学校は行こうよ。楽しいよ?」



一歩彼女は彼から離れて、空を見上げた。まっすぐで曇りないそれをただ目を細めて彼は見るしかなかった。



「だってさ、学校はいろんなこと教えてくれる。嫌なことや楽しいことがそれをすることで増えるんだよ」


「嫌なこと増えたら嫌だろ」


「うん、でもさ、何が嫌で何が好きなのかわかるじゃん。それがわかって、好きなことをいっぱいやるようになって、それがいつかきっと未来の自分に繋がるんだよ!」



素敵でしょ、と彼女は笑う。考え方も、物事に対して抱く感情も全部彼女は他の人と違う。そしてそれは全部、彼の心を揺らした。



「だから、行こうよ! ね?」



優しく握られる手。温かく小さなその手を見つめて彼は微笑んだ。



「あぁ、そうだな」




少しずつ、溶かされていく心。







パソコンが開けなくて、こんな時間になりました(汗)

はい、いいわけですね。

でも、決して話ができていなかったわけじゃないんです!本当です!

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