プレゼントと翌朝
未だ静かに降る雪を窓を通して眺める。既に食事を終えた二人は何もないこの状況に暇を感じ始めた。
先ほどの行為で気まずさを覚えたこともあり、会話が思ったよりも続かない。山奥のこんな場所では行く所もないし、時間は九時近い。
「…………あ!」
「な、何? いきなり」
百合は突然大きな声を上げると同時に自分の鞄の中から何かを取り出した。綺麗な白い包装紙に包まれたそれはメリークリスマスと書かれている。
平たい長方形の形をしていた。それを迷うことなく彰に差し出す。
「メリークリスマス。楽しい一日をありがとう」
先ほどのぎこちなさを忘れるほど柔らかい笑顔を彼女はした。
本当……女性って何よりも成長が早くて困る。
誤魔化していた感情が表に出てきそうになり、彰はぐっと堪える。そして同じく穏やかな笑顔で受け取った。
「ありがとう」
面と向かって渡したことが照れくさかったのか、百合はすぐに視線を外して背中を向けた。髪から覗く耳はほんのりと赤く染まっていることに思わず口元を緩ませる。
彼女の小さな肩を優しく抱き寄せると微かに震えた。彰の温もりと同時にひんやりと首元が冷たい何かと触れた。
「――――っ、ひゃ」
突然生暖かい感触が首筋に入る。寄せた彼の唇が離れるとちゅ、と小さく音がなる。更に追い討ちとばかりに耳元に口を寄せて囁くように…。
「メリークリスマス。君の一日をもらえてよかったよ」
瞬間、彼女の思考はショートして全身真っ赤になって倒れてしまった。もちろん彰が支えたのだが、やり過ぎたかと反省をしながら布団に寝かせる。
彼女の首元に光るそれを眺めながら彰は微笑んだ。
「年が離れていること。教師と生徒だということ。色んなことで迷惑かけるけど………」
それでも―――
障子から入る柔らかい光で部屋が明るく照らされる。ぼんやりとその様子を眺めて彼女は瞬きを繰り返した。あの後、気絶したままで彼女は寝てしまったのだ。
顔を動かして時計を覗けば短針はまだ六の数字を差していた。
まだ、普通は起きないよね
隣りを見ると普段よりも緩んだ表情で彼が寝息を立てている。思わず微笑んで百合は洗面室で着替えを済ませる。
目が覚めてしまったため、もう一度寝るのは難しい。だけど、暇でもあるので百合は散歩でもしようと靴を履いて部屋から出た。一応彰が起きた時のために携帯は所持している。
窓から外を見ると一面は綺麗な銀世界だった。見たことのない光景に百合は目を丸くする。あの中を走りたいという子供染みた考えが浮かぶ。けれど、こんな時間に女が一人で雪遊びをしているのはいささか痛いものだ。
「今は………やめよ。彰が起きてきたらで」
必死に考えを打ち消して百合は購買などがある方に歩き出した。微かにだが食器などの物音が聞こえる。既に食事の準備をしているのだろう。
ちょっとした休憩所で百合は温かいコーヒーを買い、一口飲む。肌寒い身体をじんと暖める。
「まだ七時にもならないんだ」
昨日はすぐに時間がたったのに。
ふと自分の首元に違和感を覚えて触れる。そこには宝箱と鍵の飾りが付いた金色のネックレス。夜のことを思い出して微笑む。プレゼントというより、彰との思い出をつくれた記念というものができて、彼女は純粋に嬉しかった。
「今日は二人でデートなの? 昨日から泊まりで」
突然の声に百合は硬直する。ゆっくりと顔を動かせば視界に入ったものは見覚えのある顔。顔の作りが彰とそっくりな彼。
「ね、時ゆりえさん。いや、時条百合…さんかな?」
そこに立っていたのは彰の兄である章だった。