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スキーと一泊?

すっかり雪は止んで、残ったのは積もった雪。白いそれを踏みながら百合は目をみはった。



「うわっ、人いっぱい!」


「それでも少ない方じゃない? ほら、早く履けよ、スキー板」



そう、二人が来たのはスキー場。丁度遊園地の近くにある冬限定の遊び場だ。スキーなどやったことのない百合は履くのにも滑る板にドキドキしながら足をはめた。



「百合ならすぐできる!」


「その根拠は何! て、あわわわ!」



軽く動くだけで滑る。少し恐怖を感じて動けなくなると彼女の手を彰が優しく引いた。



「大丈夫、すぐ慣れるさ」


「本当ぅ〜?」



何度か端にある軽い斜面で慣らしながら彰が百合に指導する。元々運動神経はいい方でもあり、飲み込みは早く、それなりに滑れるようになるのにさほど時間はかからなかった。

そして、ついにゴンドラに足を伸ばした。



「あぁー、緊張するぅ」


「大丈夫だって、思いっきりいけば」


「………彰はさ、いつスキーなんかやったの?」



ふとした疑問を口にすれば、彼は何故か眉をひそめて口を閉ざした。珍しい反応に百合は顔を窺う。



「…そうだなぁ、不良時代かな」


「そういえば彰の不良時代っていつ頃なの?」


「中学後半から高校二年かな。だから大学もちょっとギリギリだったよ」


「へぇ、どうして彰は教師になろうと思ったの?」



また沈黙。次第に百合の表情も曇っていく。不良時代は彰にとってあまりいい思い出がないのだろう。その話を振ってしまったことに今更後悔しているのだ。



「俺が教師目指したのは、ある奴が学校の先生は楽しいって言ってくれたからだよ」


「ある奴?」


「また、いつか詳しく教えるから。な」



笑って説得される。こんな風に扱われるとやはり自分が子供だと実感してしまう。もっとちゃんとしたい、そう思うようになる。



「いつか、本当に教えてよ」


「あぁ、約束だ」



そして一回目の着地ポイントに到着する。上に行けば速度がゆっくりになる。そ

こを見計らって降りるのだが…。



「あれ? 百合?」


「あぁあ! 降りれないぃ!」



降りるタイミングを見事に外した百合は一人淋しくもう一周冷たい風に身を任せたのだった。

やっと地面に足をつけた時は彰が話せないほど腹を抱えて笑っていたため、板をつけたまま蹴り上げた。



「だって………結構ベタなことするから」


「わ、悪かったな! 好きでやってるわけじゃない!」



こんな寒さの中でも火照ってしまうほど彼女は顔を赤くして、先に進む。しかし、すぐにそこは坂になり、彼女を阻んだ。

初めての下り。これは予想以上に恐怖を煽る。



「大丈夫、まずは斜めに滑ってみよ」


「あ、う〜。わかった」



できる限り降りる坂を緩やかにするため、斜めに板を向ける。その後を彰はゆっくりとついていく。

そして、数十分後。

ゆっくりと滑れる人達の間を軽やかに通り抜ける者がいた。誰もが目を瞠る滑りを維持し、綺麗にターンする。しかし、首だけは妙に忙しなく動き、何かを追っていた。



「たく、飛ばし過ぎだ」



彼、彰は前を走る百合に追いつくことで必死だった。あれから幾度なく坂を下り、とにかく慣れることを努めていた彼女はすっかりと自信までつけて彰よりも早く滑れるようになっていた。

しかし、フォームはぎこちなかった。どうしてあれほど固い格好をしているのに早く滑れるのか、彰にもわからない。



「器用なんだか、不器用なんだか……」



そう言いながらも、彰は優しい笑みを向けて、彼女の後をついていく。






「はぁ、楽しかった」


「それはよかった。ちょっと雪がまた降り始めたからそろそろ帰るか?」



既に時刻は五時を回っている。辺りは暗さを増し、客もほとんど残っていなかった。百合は異論は特になかったため、笑って頷く。

更衣室に入り、レンタルしていた板を返す。最後に小さな喫茶店で身体を暖めてから二人はその場を後にした。



「…………」


「…………っ」



二人は口元を引きつらせた。これは予想にもしていなかった出来事だ。

深々と降り積もる雪はいつの間にか勢いを増し、地面を埋める。それは人の膝上まで達し、車までも埋めている。



「ねぇ……どうするの?」


「〜〜〜、仕方ない。百合、今晩は一緒に過ごそう」



にっこりと無邪気に笑んで彰は百合を横抱きにし、来た道を引き返す。奥にあるホテルに向かって。



「え、え! えぇぇぇええ!!」



彼女の声が木霊する。







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