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クリスマスと遊園地

色とりどりのネオン。ちらほらと降る白いもの。銀色の世界がそこには広がる。



「ホワイト…クリスマス」



冷たい空気も、触れる冷たい水滴も、今だけは…今日だけは嬉しく思う。

百合はいつもより上着を一枚多く羽織り、だけどできる限り可愛らしい服装でアパートの前に立つ。約束の時間にはまだ五分ほど早い。携帯に連絡が来てからでもよかったのだが、待ち切れずに飛び出したのだ。



「プレゼント、持った。財布も持った。携帯、ハンカチ……よし」



バックの中のものを再確認して百合はそわそわと待つ。考えてみれば付き合い始めてからの本格的なデートだ。もしかしたら初デートと言ってもいいかもしれない。

そう考えていくと百合の中でどんどん緊張が高まっていく。



「はー。何話そう……」



白い息が吐き出され、空気中に分散されていくと同時に黒い車がアパートの前に止まる。中には軽くワックスをきかせた髪型をした彰がいた。



「お待たせ、乗って?」


「あ、うん」



いつもよりも若い印象を持つ顔に不覚にも一瞬見とれていた百合は慌てて車に乗り込んだ。意識しないよう前だけを見つめて、肩に力を入れる。



「ぶっ、何緊張してんだよ、いつもの怒声はどうした?」


「い、いつも怒ってねーよ! ばか!」



急に恥ずかしさが募り、更に顔が赤くなる。丁度赤信号でブレーキを踏んだ彰はじっと百合を見つめて、微笑した。あまりにも余裕で、柔らかいそれに彼女は目を奪われる。



「勿体ない、せっかく可愛いのに、その言葉遣いはなぁ」


「う、うるさい。誰のせいだよ」



冬だというのに顔がほてり出す。彰から目を逸らして百合は窓から雪を見やる。

ちらほらと未だに降り続けるそれらは少しずつ彼女の緊張をほぐしていく。



「綺麗…」


「これからいく所はもっと綺麗だよ」


「遊園地が?」


「あぁ…」



にっこりとまたあの余裕な笑み。だけど、百合はそれに微笑み返して、また雪に見とれた。






止むことのない雪。積もるそれら。とてもロマンチックで、幻想的な風景。だけど、目の前にある看板はそんな気分を吹き飛ばした。



本日、大雪のため誠に勝手ながら休業させて頂きます。



「ねぇ、何か見えるんだけど」


「ごめん、百合………。予定変更だ」


「だぁ! 楽しみにしてたのにぃ! ばかぁ!」



思わず力任せに肩を揺らす。そして勢いあまり、手を放した瞬間、彰は雪に埋もれてしまった。友達もいなかった百合は遊園地という場所に行く機会がほとんどなかったため、かなり楽しみにしていたのだ。それなのに、という気持ちが強く、悲しみが広がる。



「はぁ………」


「百合、また次のデートで連れて来てやるから」



後ろから包み込むように抱き締められる。温かさに頷いて、こういう時に年の差を思い知らされる。八歳差、それは思うよりも遠い存在。



「じゃぁ、車に乗って。他の所連れてってあげるから」



促されるまま車に乗り込み、また道路を走る。他に行く場所を考えていなかった百合はどこに向かっているのか検討もつかない。

聞くのはタブーな気がして黙って窓の外を見やる。



「でも、どうしてそんなに遊園地がよかったの?」


「………遊園地は、お父さんとお母さんの三人で行った思い出の場所だから」



今はいない、両親の記憶。楽しい、思い出。だけど、いないからこそ哀しい思い出でもある。だから、彰と行くことで哀しみよりも楽しみの方を強めたいと思った。



「そっか。じゃぁ、いつか絶対行かなきゃな」


「うん」



気遣ってくれる彼の言葉が嬉しくて、百合は密かに涙を流した。







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