親友と謝罪
「みぃちゃんは本気になるのが怖かったんだね。そしてしおちゃんは本気になることを知らなかった。そして、私は…本気になる相手がいなかった」
泣きじゃくるみりの肩を優しく抱いて百合は小さく呟いていく。既に一時間もこの場所にいる。すっかり身体は冷えきって、少しだけ震えてもいた。
「だから、やり直そ。ちゃんと、本気の友達として。嫌なことがあるなら言い合って、いいとこがあっても言い合って…。友達だから互いに譲り合うことも必要だけど、友達だから本気で言い合うのも必要だと思う」
「だから………もう、私と百合ちゃんとみぃは、友達だって」
百合の言葉を引き継いで紫央里が締めた。
確かに言いたいことを言った。思っていることを。綺麗事でも偽りでもない本音を今まさに吐き出し合った。これが、本当の友達。
「友達? 冗談……私達は……」
百合の腕から離れて涙を拭う。赤くなった目をそのまま二人に向けてみりは軽く笑んだ。
「これじゃぁ、親友だよ」
顔をくしゃくしゃにして彼女は破顔する。勢いよく二人に抱き付いてまた涙を流した。これには対応していなかった百合と紫央里はそのまま尻餅をつく。
やっと繋がった三人の心。
やっと友となった。
それが嬉しくて二人は尻の痛みなど気にしない。
「ごめん、百合ちゃん………ごめん、しお」
「ううん、私こそごめんね」
「これでやっと友達になれた」
長い間隅に追いやられていた本気になる気持ち。それがやっと表に出た。
だけど、それは全員がお互いに希望を持っていないとできなかったこと。
全員がお互いを想っていないとできなかったこと。
「もう、一人にはならない」
「一人になんてさせない」
「親友、だもんね」
全員が同じくらい涙でくしゃくしゃになっていた。それを合わせて、思わず苦笑する。
「にしても、百合ちゃんが既に財津先生の物だとは……」
「夏祭りの時には付き合ってたの?」
「え、あ…違うの。付き合ったのは、」
「文化祭の後だよ」
溜め息混じりの声に三人共同時にその方へと顔を向ける。声からして大体の想像はしていたが、やはりそこには彰が立っていた。みりも紫央里もどういう反応を示していいかわからず、硬直する。
「全く、ごめんってこういうこと?」
「うん。そう……。あ、神谷さんは?」
「ちゃんといるよ、後ろに」
さり気なく百合の腰を抱き寄せながら会話に対応する。その言葉通り彰の影からおずおずと真司が姿を表した。
「みり……」
「真司、どうして?」
まさかこんな所で会えるとは思わなかった彼女は驚きを隠せない。しかし、そんなことお構いなしに彼は突然走り始める。勢いよく彼女を抱き締めた。
「え! し、真司?」
「ごめん!み り、君は心配してくれてただけなんだね!」
困ったように周囲を見渡すと百合は苦笑して頷いた。
「みぃちゃん、大切な人と一緒にいるには、内緒にすることも大事だけど、逆に打ち明けることも、必要だよ」
友達でも、恋人でも、それは変わらない。どちらでも他人で、どちらも原理は一緒なのだ。
大事にしたいなら、その意思を相手に伝えなきゃいけない。
「うん、そうだね」
「………時条さん」
真司は一度彼女から離れて百合をまっすぐに見つめた。それを不思議そうに見つめ返す。すると、彼はゆっくりと軽く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「え、あ、いいですよ! 気にしないで下さい!」
この行動には流石に驚き、彼女は慌てる。思わず吹き出して、彰と紫央里は笑い出した。それにつられるようにみりも、真司も、そして百合も笑った。そして、長い…長い夜は終わりを告げた。