咲いてと羨み
裏切られるのを恐れて友達を作らなかったみり。
本気になって、自分を捨てて接したことのない紫央里。
いつも、友達を作れずに一人でいた百合。
どれも自分から近寄らない理由があり、確かめることもできなかった。
だから、わからないまま今までいた。わからないまま逃げてきた。それに気付いて、それが素直に嫌だと気付いたのが、百合だった。
「気持ちは、知らぬ間に………咲いてるか」
みりは苦笑して呟く。百合の身体を徐々に放して、顔を伏せたまま息をついた。
同じく彼女から腕を放す百合はそれでもみりの顔から視線を外さない。
「本当、百合ちゃんは一人だったくせに、何でそんなに目敏いかな」
「多分、近いから」
「うん、そうだね。………本当はわかってたんだと思う。自分の気持ち」
諦めたように呟いてみりは顔を上げる。涙でぐちゃぐちゃになった顔はそれでもちゃんとした形になって、彼女の心情の変化を表している。
ただ、逃げていた。それを認めることが簡単なようで難しい。悟っているのではなく、理解しているのではなく、ただそうである自分を知るのが怖くて、自然と逃げていた。それは彼女だけではない。紫央里も百合も誰にでも言えること。
「あのね、確かに百合ちゃんに話しかけたのは同情からだった」
言いにくそうに切り出す。百合はそれを表情を変えずに黙って聞いた。
「でもね、本当は百合ちゃんが羨ましかった」
「え?」
「一人でいて、先生に歯向かって、不良に絡まれて………。私とは似ているけど全く違う境遇で、ある意味で私より辛い状況なのに………それなのに人を愛することを諦めなかった。人を憎もうとはしなかったから!」
立ち上がると共に百合の両腕を掴む。眉を寄せて哀願を向けるみりは必死に言葉を繋いだ。
「百合ちゃんは一年の時と全く変わってなかった! 変わらなかった! 二度も、私のこと助けて……二度も自分だけ責任取って消えた!」
一度は二年の一学期。
もう一度はもっと前。二人は出会っていた。それは一年の冬。
「それじゃ、失礼します」
日誌を届けたみりが紫央里が待っている下駄箱に急いでいる時だった。同じように日誌を届けようとした百合と丁度すれ違った。
しかし、よけ方が少なく、互いに肩をぶつける。
ガシャン―――
ぶつかってよろけた百合は端に飾られていた花を花瓶ごと倒して割ってしまったのだ。蒼白してみりは近付いた。
「ごめんなさい! 大丈夫?」
「………」
茫然と割れた花瓶を見つめている百合に更に不安になった。今ので怒らせたのではないかと。紫央里以外に接点がない彼女は他の人の反応に過敏になっていた。
「どうしたの?」
割れ音を聞いて中にいた先生が様子を伺いにきた。みりは怒っているのかと思い、思わず謝ろうと口を開いた。
「あの、すみま」
「すみません、先生。少し具合が悪くてよろけたら……花瓶が」
そんな彼女の言葉を遮り、百合は口を押さえて答えた。その言葉に何の疑いもせず先生は対応する。
「そう、仕方ないわね。じゃぁ、早く帰りなさい。天上さん、途中まで一緒にいってあげて。ここは先生が片付けるから」
「あ、はい」
みりは歩き出した百合の横に並び、彼女の様子を窺う。先生には姿も声も確認できない場所に来ると百合は突然何でもない表情に戻してみりに笑いかける。
「もう大丈夫。あれ嘘だから。ごめんね、付き合わせて」
にっこりと笑って百合は一人で下駄箱に向かう。みりとはちゃんと話しもせずに。
「いつもそう、他人と距離置いてるのに他人のために自分を犠牲にする! その後不良になったって聞いたけど、何となく気になってた! 教師に反抗して、金髪になって………だけど、それでも百合ちゃんは私を助けてくれた! 変らなかった! それが、羨ましくて………そしたら声かけてた」
肩を震わせてみりは顔を伏せた。
「まっすぐで、純粋で、素直で、優しくて………百合ちゃんなら裏切らない。百合ちゃんならなれるの思ったの」
「本当の友達に―――っ!」