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大好きと特別

不安そうに紫央里は百合を見つめている。みりは必死に警戒しながら彼女を見やる。

ばらす、それは百合にとって一番の恐怖で、一番の苦痛。だから、みりは勝利を確信して心なしかほっとしていた。



「ばらさないで」



案の定、百合は思った通りの反応をしてみりは完全に緊張を解いた。

もう、友達というもので悩みたくなかった。もう、考えたくもなかった。



「だけど、無理だよ。ほっとくことなんか、できない」


「なっ!」


「だって、好きなんだもん! 彰もみぃちゃんもしおちゃんも! 全部! 大好きなんだもん!」



余裕のない声で百合は叫ぶ。無くしたくない存在。失いたくない関係。それが、今目の前にある。



「彰も、みぃちゃんも、しおちゃんも、皆…私にとって大事な人で、かけがえのない存在。だから、失いたくない!」



一つでもなくなれば、絵は完成しない。彼女の思い描くパズルに当てはまるものをまた見つけた。だから、それをなくす訳にはいかない。



「好きだから、知りたくもなるし、好きだから、一緒にいたい。ウザイ時もある、嫌な時もあるかもだけど、でも! それでもいたいから……」



百合は思い切りみりを抱き締めた。温かい彼女の体温に、みりは思わず目を見開く。



「なに、言ってんの? はな、して」



もがくみりを覆うように、薄い影がかかる。顔を上げればそこには紫央里が立っていた。



「ごめん、みぃ。どうしても、放っておけなかった」


「何で?」


「だって、あまりにも、近くに居過ぎたから。身内よりも、身近にいたから」



学校は半日いる学生の生活場。その中の三分の一は友達と過ごす他愛ない時間。

更に二人は休日もほとんどいた。それがみりが求めた願いでもあるから。

結果、心の底は見せずとも、二人は一番身近で、一番わかりあった存在になった。



「私は、人に本気になるのが怖かった。上辺だけの生活にあまりにも慣れちゃったから。だけど、あの時、みぃの噂を聞いた時…助けたいって思った。もちろん、行動なんてできなかった。そんなの、今更変えれはしなかった」


「当たり前でしょ! 私達は友達であって、友達じゃない!」


「だけど、もう二人じゃないことに気付いたの。私にはみぃだけじゃなく、百合ちゃんがいた。だから、彼女がどんな行動を取るのか試したかった。だから、噂のことを知ってもらおうとした…」


「でも、私は結局それを聞かずにあの事件が起こった」



抱き締めているみりの身体が微かに震える。百合は目をつぶって、溢れる涙をそのまま流した。



「百合ちゃんが知らないでその状況に陥れば、私とみぃの関係も変わってしまう。それは嫌だった! 怖かった! だから、焦った。だけど、結局間に合わなくて、しかも予想とは違う事態が起きた」


「違う?」


「百合ちゃんが、私達を見捨てなかったことだよ。私、びっくりしたと同時に嬉しかった。これで、私も素直になれるって」


「………、素直に?」



訝るみりに怯むことなく紫央里は見つめる。

友達であって、友達じゃない関係。同情で、心を許さない相手。

始まりがそんなだった。だから、歯車が狂う。



「始めがいけなかった。だけど、その関係があったから、私は気付いた」






「私は、みぃと百合ちゃんとなら特別な関係になりたいって」






今までで一番彼女は身体を震わせる。ぽたぽたと涙が落ちる音が微かに百合の耳に届いた。

少しだけ抱き締める力を強めて百合は更に涙を流す。



「何、それ。今ごろ…困るし」



か細い声でみりは言った。だけど、その言葉とは逆に彼女は百合の身体をきつく、締める。






「そんなこと、言われたら………求めたくなる」







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