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同情と親友

近付いてきた百合から逃れるようにみりは数歩後ろに下がる。明らかな拒絶と肯定。顔を伏せて肩を震わせて笑い出す。



「何だ、わかってたんだ。そうだよ、同情で近付いた。本当はしお以外に友達なんて作るつもりなかった! 仲いい奴なんて作ったっていつかは裏切るだけだし! それに友達面して踏み込んでほしくない所までずかずか入って来られるのも嫌だった! だけど、あんたが嫌なくらい昔の私に似てたから思わず声かけちゃった」



堰を切ったようにみりはぺらぺらと話し出す。まるで今までの鬱憤を百合にぶつけるように、乱暴に。



「家が少しばかり金持ちだからって私をカモにする! そんな奴等が嫌いだった。前はそんな奴等にすがるしかなかった! だから、しおを見つけた時嬉しかった。あいつは心からの友達にならない代わりに私の望む人間になってくれる。だから、クラスが違っても私の所に来てくれる! 一番近くて遠い存在だから、安心できた。それでよかったのにっ!」



いつの間にか彼女の目には涙が溜まっていた。音も立てずにそれは地面に染みを作っていく。更に甲高い声になってみりは百合を精一杯睨み付けた。



「あんたなんかに声かけなきゃよかった!そしたら、またこんな気持ち持たなくて済んだのに! 裏切られる気持ち、味合わなくて済んだのに!」


「私は裏切ってない!」


「嘘! だって一緒にいたじゃん! 真司と、お茶してたじゃん!」


「―――神谷さんはみぃちゃんのこと知りたかったんだよ!」



負けないよう、彼女に届くよう、大きく叫んだその言葉はみりの口を止めさせた。その隙に百合は迷わず早口で訴える。



「神谷さんはみぃちゃんのこと知りたくて…だから、私に相談に来た。それだけだよ! 私もみぃちゃんのために何かしたかった。だけど、やり方を間違ったよね………」



一歩近寄る。

一歩離れる。

百合は進んでみりは下がる。



「ありがとう」


「――――!」


「同情でもよかった。それで私は救われたから。それで私には大切なものが増えた。ねぇ、みぃちゃん……、私達ら皆不器用で、だからちゃんと自分の気持ちすら表すことができなかった」



また一歩近寄る。

一歩離れる。

繰り返して繰り返して、最後はみりは後ろにあったベンチに膝を捕らわれて座る。



「みぃちゃんは一つだけ理解してないことがあるよ」


「え?」


「しおちゃんはもう、みぃちゃんと一番の親友だってこと」



一歩、二歩、二人の距離は縮まって、同時に彼女の余裕もなくなる。百合の言葉は的確に彼女を追い詰めて、混乱させる。



「何、言ってんの? 私とあいつはそういった関係にならないことを暗黙で……」


「大切な人を作るのが怖かったのに、どうして神谷さんと付き合ったの?」


「―――っ」


「もう、わかってるんだよね?気持ちは、知らぬ間に咲いてるんだよ」



儚い笑みを作った百合の後ろから微かに気配を感じてみりは目を凝らした。力なく近寄ってくるのは紛れもなく紫央里の姿だった。

深く関わるはずのない彼女。だから、紫央里の連絡には安心して応じた。彼女ならみりの気持ちを汲んで百合関係の会話を持ち込まないと思っていたから。

みりはとっくに理解していたのだ。みりに呼ばれて来た場所に百合が来た時点で。

紫央里の気持ちにも、変化がきていると。



「みぃ………」


「な、んで。何で皆で私を追い詰めるの! 何で!」



訳がわからずみりは叫び出す。一体何が本当で、何を信じていいのか。

偽りの友情。

信頼と裏切り。

だけど、本物の友情。

裏切りではなく誠意。

起こったこと、見たこと、聞いたこと。全てが信じていたことを覆して。



「もう、やめてよ! もう、近寄らないで! もう、いいよ! 友達も関係も何もいらない! 一人でいい!」


「みぃ!」


「これ以上関わるならあんたと先生の関係も学校にばらしてやる!」



泣きじゃくる彼女は既に自分が何を言っているのか理解できていなかった。







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