過去と真実
私はこの人を知っている。
優しく微笑むその顔。落ち着いた服。綺麗な声。どれもが大人の女性をまとう彼女。その人をみりは会った覚えがある。
「浴衣……美人の、えっと先生の従兄弟さん!」
「そう、覚えててくれたの」
「こんなとこで何してるんですか?」
あまり人が来るような場所ではない。みりは人と待ち合わせしていたから来たが、夕方にこんな場所を用もないのに来るのは珍しい。
彼女はにっこりと優しい笑みを浮かべる。
「ちょっと、みぃちゃんに話を聞いてもらいたくて」
「え、な…んで、私の名前」
驚愕で声が上手く出てこなかった。その顔に彼女は苦笑して、目を伏せる。とても苦しそうに眉を寄せた。
「ずっと隠しててごめんなさい。でも、もう隠さないから」
「………ゆ、りちゃん?」
決意した百合は、もう迷いない顔でみりを見据えていた。
「私は、もう………彰と付き合ってるの」
誰にも知られてはいけない秘密の関係。それが、百合にとって最後の切り札だった。
冷たい風が首を通る。緊張で指が上手く動かなかった。
「何を、今更。それで、何? 話すから信じろって? ふざけないでよ!」
「信じてなんて言わない。ただ、聞いてほしいだけ」
「――――っ」
みりにとってはそれは意外な言葉だったのか、大きく目を見開いて口を閉ざした。百合はまっすぐに彼女を見つめたまま独り言のように話し始める。
「これはね、彰にも言ってない。私の本音」
静かに、本に書かれていることを読み上げるかのように話し始めた。
一年の時。私はそれでも優等生を演じてきた。教師を敵に回すのも面倒だし、下手に同学年の人が近付いてくるのを防ぎたかったのもある。
面倒なことが嫌いだった。だけど、面倒なことに何故か不良はよく私をターゲットにした。最初は何とか逃げ切ってた。
だけど……。
「日直なんて、面倒だな」
順番に回ってきた当番。何も思い付かない言葉。窓の外を見ると楽しそうに遊ぶ人達。それを羨ましなんて思わなかった。
それが、どんなものなのかわからなかったから。
何とか日誌を書き終えて職員室に向かった私は扉を開ける時、先生達の会話を聞いてしまった。
「時条さんは確かに成績は優秀ですね」
「だけど、あれは何を考えているかわからないからなぁ」
ただ、それだけ。わかってる。それは、自分が招いたこと。自分がそう見られるよう徹してきた。
だけど、何か苦しくて、何かムカついて、私は日誌を忘れたふりをして学校を出た。
一人になりたかった。無意味に走って、空気がなくなるまで走って、何も考えなくてもいい時間が欲しかった。
だけど、不良はそれをさせてくれなかった。
「金、くれない?」
どろどろした世界。
きたない。
きたない、自分の心。
苦しくて、ムカついて、見たくなくて、何もかも面倒で。
気がついたら逃げることもしないで彼等を殴り倒してた。空虚な自分に涙も出なかった。
「時条。お前昨日日誌出すの忘れただろ………って、何だその傷は!」
「もしかして誰かに襲われたの?」
「………喧嘩しただけです。これ、日誌……」
「なっ! 何を考えてるの!」
ウザい。うるさい。近寄るなよ。
何を考えてる? 何を望んでる? 何が大切?
そんなこと、あの時の私にはわからなかった。ただ、もう教師の言いなりになるのも面倒で、私は口だけは反抗するようになった。それらは少しずつエスカレートして、髪は金になり、服は次第に崩れた。
苦しくて、苛ついて、何をしたいかなんて一向にわからないから、更にムカついて。
だけど、どんなに嫌になっても、何故か学校には行こうとしていたんだ。
また………。三連休とか曜日を忘れてしまいます。申し訳ありません(汗)