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気遣いと行動

「え?」


「だから、クリスマス。どうしたい?」



予想もしなかった言葉に百合はドキドキだった。教師と生徒。その関係である以上出かけることは容易ではない。しかし、こう聞いてくる以上、それを願ってもいいのだろうか。



「あ、でも……」


「大丈夫、変装しなくてもいいような場所に行けばいいんだから」



心配していたことを答えてくれて、百合は一気に笑顔になる。考えてみれば百合とは外に出かけたことがほとんどない。夏祭りくらいだ。しかもそれも変装をして。



少しは甘えさせてやらないとな。



「何処行きたい?」


「えっと………ゆ、」


「ゆ?」


「遊園地」



顔を真っ赤にして彼女は言った。素直になることが少し恥ずかしいのだろう。彰も百合がそのような場所に行きたがるとは思わず、しばらくまじまじと彼女を見つめてしまった。



「わかった。じゃぁ、少し遠い場所に行こうか。車で」


「あ、うん! 楽しみ」



本当に嬉しそうに笑う彼女に彰はやっと素直に喜んだ。先ほどまでは微かだがまだ章へのわだかまりが残っていたのだ。

百合は食器を片付けてテーブルを拭く。その時片隅に普段は使わないパソコンが置かれていることに気付く。



「あ、でも彰。丁度忙しい時期が過ぎたばっかりの時期なのに大丈夫?」


「そのくらい平気。それに、いい休暇になるよ」


「………何ならその日まで来るのやめようか?」



彼の身体の心配をして言った言葉は逆に彰の表情を曇らせる。それに気付いていない百合は既にそうするき満々で内心溜め息をついていた。



「あのな、百合」


「ん?」


「気を遣ってくるんのは非常に嬉しいけど、それでも今会えるの日が少ないのにこれ以上減らすと逆に辛い」



率直な感想に百合は目を見開く。喜んでいいシーンだったが、驚きの方が勝ったためぽかんとした表情をしている。



「だって、俺だって百合と同じように思ってるんだから、会いたいに決まってる」


「そうなの?」



そう、なんだ。

あれ………そうだ、じゃぁ。



「そっか! そうだよね! ありがとう、彰」


「何か妙な喜び方だな……。そろそろ送るよ」



彰に促されて百合は車に乗る。家はあまり遠くないが、最近はよく家まで送ってくれるようになったのだ。

暗い道を見つめながら百合は小さく呟いた。



「ねぇ、彰。お願いがあるんだ」


「ん?」


「あのね…」



静かに、その願いを紡ぐ。そして、家の前に着いて百合はじっと彰を見つめる。



「ごめんね、ありがとう」



百合の願いを快く受け入れてくれた彰に感謝して、ゆっくりと顔を近付ける。ほんの一瞬、口付けを交わして慌てて車から降りた。



「ゆっくり寝ろよ」


「うん。ちゃんと、ケリがついたら全部話すから。それまで何も聞かないでいて。あと、あらかじめ言っとくね。ごめん!」


「何か、変なこと考えてないか?」


「………変なことではないけど、あまり頭のいい行動ではないことは確かかな?」



苦笑して百合は肩を竦めた。しかし、その顔はすっきりとしていて、少し不安を感じるものの、彼女にとって一番確実な方法なのだろう。

彰はそれ以上何も聞くことはなく、ただ頑張れよ、と軽く呟いた。



「じゃぁ、おやすみ」


「うん、おやすみ」



消えていく車を最後まで見送り、百合はすぐに携帯を取り出してボタンを押し始めた。






「何だ。まだ来てないじゃん」



土曜日のお昼。彼女は呼ばれてある公園に来ていた。がらんとしたその場所に溜め息をついてブランコに座る。



「こんにちわ」



聞き慣れない声に顔を上げるとそこには微かに見覚えがある女性が佇んでいた。







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