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兄と秘密

年齢は二十歳前後、綺麗にされた化粧と淡く浮かべる笑みは高校生等では出せない大人の空気を醸し出している。茫然とする彰に気付かず、彼は妙にテンションを上げて彼女に詰め寄る。



「へぇ、美人〜。時ちゃんかぁ、今何してんの?」


「あ、まだ大学で…、私も教師の免許が取りたくて。彰さんとは研修の時お世話になったんです。あの、貴方は?」


「あ、悪い悪い。俺、彰の兄の章。よろしくな」



にっこりと笑う彼には邪気もなく、疑いもかけられてもいないようなので、彼女は素直に笑い返して握手した。ふと、未だに惚けている彰に視線を送る。

淡い茶色の髪を肩に垂らし、膝まであるスカートを上手く着こなす大人の女性。大学生とは思えないくらい落ち着いた彼女。彰には何も覚えがない。

なくて、当たり前なのだ。彼女は大学生でもなく、大人でもない。まだ、高校も卒業していない少女なのだから。



「百合………」


「何そんな顔してるの? 彰。今日約束してたじゃん」


「あ、だから焦ったのか。しょうがねーな、今日は本当に帰ってやるよ。じゃぁ、時さん。こいつのことよろしくな」


「はい」



章の姿を最後まで見送り、百合はゆっくりと扉を閉めた。そしてちゃんと鍵をかけて上がり込む。まだぽかんとしている彰を放って置き、窓のカーテンを閉めて安堵の溜め息をついた。



「な、何その格好」


「何って、変装。大体、毎回毎回私服だったとしても素顔で行ったらバレるのは時間の問題だろ? だから、カラースプレーで髪の色変えて、わざわざ大人っぽい格好で来たんじゃないか」



そう、わざわざ自ら自分の姿を変えて彰の家に訪れた。そして、それが早速役にたったわけだ。いくら学校の者でなくても、彰が高校生に手を出しているなどとバレたらどうなるかわからない。念には念を入れなくては。



「は、はは! すげーなお前。よくそこまでできるよな」


「できるよ。だって、どんなことしても、彰と一緒にいたいんだもん」



穏やかな笑み。けれど心臓は驚くほど早く動いていて、それが彼女のその表情に艶をつける。

見た目だけではなく、少しずつ百合は大人の女になっている。その度に胸が苦しくなる。我慢、できなくなる。

彰は思わず彼女を抱き締めた。強く、強く。胸がいっぱいで、感情を言葉にできない代わりに。長く、口付ける。



「…………っ、ん―――」



きつく目をつむり、百合はそれを受け入れる。

薄目を開けて間近にある彼女の顔を見つめる彰は、ふるふると震える彼女のまつげに頬を緩ませた。

ファンデーションの白さや唇の艶、軽くついたマスカラ、彼女らしい控え目のピンクのアイシャドー。どれも今までの百合とは思えない大人の魅力。けれど、慣れないこのキスですぐに年相応の反応をする。



「ありがとう」


「………キス、長いよ」



すっかり顔を赤くして百合は彰を睨んだ。それに苦笑を返して、途中だった食事の用意をするために台所に向かう。百合もその後についていき、手伝うために鍋を出した。



「えっと、さっきの章さんて何でここに来てたの?」


「さぁな、知らない。何で?」


「いや、だって」



彰の家族の話なんて、聞いたことないから……。



意外にも冷たい返答にこの会話はタブーなのだと気付いた。けれど、彰のことは少しでも知りたい百合は聞きたくて仕方ない。



………やめよ。私も聞かれたくないことあるし。



今、みりとのことは彰に言う訳にはいかないと、百合は自分に言い聞かせている。これは、人に容易に話していいものではないと。

話せば、本当にみりのことを裏切ることになってしまう。



みりちゃんにも、私秘密ある。

何だか、心苦しいな。



何もできなく、何も話せない自分が情けなくて、百合は一つ溜め息をついた。







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