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事情と誤解

「僕は病院で、みりは学校。休みも上手い具合に合わず、周囲の目もあって、あまり会えないのが事実です。会えても何処かへ連れて行くこともできず、ただ外で話をするだけでした」



話し始めたのは彼女と彼の事情。本当はみりを通して聞きたかった内容だ。百合は静かにそれを聞いて頷く。



「だけどみりはそれだけでいいといつも笑ってくれてました。そんな彼女がまた愛しくて、僕もできるだけ必死に休みを取りました。だけど、技術や知識を身につけていくうちに僕の休みは次第になくなり、疲れも溜まって……そんな苛々をみりにぶつけてしまうことも時にはありました」



人は万能ではない。疲れも溜まるし感情もある。こんな時それを改めて感じる。百合もそうだった。自分のふがいなさに悩み、物に当たることもあった。以前は絡んできた不良に八つ当たりをしてたが、あれは正当防衛だと相手を気にしたことは一度もない。

しかし、彼の場合は大切な人。それに八つ当たりをした時、彼はおそらく自分に嫌気をさしただろう。



「それでも彼女は必死に笑って僕を慰めてくれた。だから、休みが減った分仕事をできるだけ早く切り上げて彼女に一時間だけでも会いに行くようになりました」


「ほとんど、毎日ですか?」


「はい」



この言葉には彼女も驚く。そこまでして彼女に時間を当てるのは珍しいケースだと、経験のない百合にも理解できたからだ。しかも彼は社会人。仕事が忙しければ会う時間が減ってしまうのは仕方ないことだ。だけど、彼は。



「だけど、逆に彼女は不機嫌になるばかりで、次第には来ないで………と」


「え! でも、私が見た時はみぃちゃんが神谷さんを引き止めてましたよね?」


「はい。僕も彼女が何を望んでいるのかわからなくなって。そんなに僕が嫌なら別れようって思ったんです。けど、それも彼女は拒んだ」



訳のわからない彼女の言動に真司は振り回されているのだ。重く溜め息をついた彼を見ると少し顔色が悪かった。



「大丈夫ですか? 今日は休んだ方が」


「そうですね、最近寝不足で」



とりあえず今日は状況説明だけということで解散することになった。会計を済ませて外に出る。



「では、また次の機会に」


「はい。身体、大事にして下さい。みぃちゃんが哀しみます」


「あ、は………」



突然真司は目眩を起こして身体を崩した。百合は咄嗟に手を出して支える。

顔を覗けばやはり彼の顔は真っ青で、今にも気絶しそうだった。



「だ、大丈夫ですか?」


「だい、じょうぶ。ちょっと立ち暗みがきただけです。時条さんは先に帰ってて下さい…」


「でも!」



帰れと言われて放って帰れるほど大丈夫には見えない。百合は心配そうに真司見ているとものすごい殺気を感じて振り返った。

今まで不良に絡まれてきた経験だろう。彼女の視線の先には今一番会いたくなかった人物が佇んでいた。



「………みぃ、ちゃん」


「え?!」



百合が呟いた名前に真司は異常な反応をする。そう、二人のやり取りを茫然と見ているのはみり。信じられないというように大きく瞳を見開いている。



「な、んで…二人が?」



驚愕している内容に百合はやっと気付いて慌てて立ち上がる。しかし、みりは既に走り出していた。すぐに追い掛けようとしたが、未だうずくまったままの真司を置いて行くこともできない。



「いいです、行って下さい」


「できません! みぃちゃんなら、わかってくれます」



そう、自分に言い聞かせて百合は真司の自宅まで付き添うと言い、彼の身体を支えた。



「すみません」


「無理、しないでください」



にっこりと弱々しく微笑む。もう、そのくらいの余裕しか百合にはなかったから。







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