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協力と幸せ

かなり事は深刻なのだと、やっと百合は理解した。別れる、という言葉に背筋を冷やす。じっと見ることしかできない百合に真司は苦笑した。



「別れたくはないんです」


「じゃぁ、どうして?」


「時に感じるんですよ。歳の差の、壁が」



淋しそうに呟いて彼は深く溜め息をついた。歳の差の壁、それは百合にもいつか感じるかもしれない試練。

みりと彼の関係は他人ごとではない。みりと友達だというのも含めて、二人の関係が今後の百合と彰の関係にも関わりがあるかもしれないからだ。



「でも、神谷さん」


「はい?」


「私の所に来たってことは、別れないために努力したいってことですよね?」



にっこりと優しく微笑んで、彼女は問う。それに真司は少し戸惑いながらも頷いた。



「あ、でも!」


「何ですか?」


「私、現代っ子とは言えない環境下にいたんで、あまり参考にならないかもしれません」



流石にこの言葉には真司も少し困った顔をしたが、すぐに百合は言葉を付け足した。



「みぃちゃんが思ってること、二人で一緒に考えましょう? ね?」


「………はい、よろしくお願いします。とりあえず今日はもう遅いので、ご飯だけいただいたら帰りますね」



そうして二人は次に会う約束だけをして、今日は別れた。






翌日、百合はみりの顔を見ると申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、いつも通りの日常を送っていた。

いつものように三人でお昼を取っているとふと紫央里が微妙な表情をみりに向けていることに気付いた。



「何? 何かついてる?」


「ううん、みぃ、少し気をつけた方がいいよ」


「何が?」



紫央里は少し歯切れ悪く呟いて、次の言葉を考えている。



「よくない噂、流れてるから」


「…………?」



結局紫央里はそれ以上何か言うことはなかった。噂がどういうものなのか、百合もみりもよく理解できなかったが、耳に挟まなかったので、あまり気にはしなかった。

学校は無事に終わり、百合は家に向かう。真司と約束したのは明日の放課後で、今日は前々からの約束で彰の家でご飯を作る予定だった。制服のままでは目立つので、一度家に帰ってから彼の家に向かう。

合鍵を使って中に入ると部屋の中は前よりもかなり片付いていて、百合は掃除はしなくていいことだけはわかった。とりあえず干してある洗濯物だけをたたんで、百合は食事の準備を始める。



「よし、完成」



二人分の料理を並べてふと考える。何かが足りない。何か本当に大事なものを忘れている。じっと作った料理を見つめて悩むこと一分。



「ただいま。ごめん、待った?」


「あぁあぁぁああ!」



彰が帰ってくると同時に思い出した。突然の絶叫に彼は目を丸くして百合を見やる。



「ご飯炊いてない」



沈黙。



「は、ははははは! 流石、腹いてー!」



爆笑。



今までやったことのない大失敗に百合は顔を真っ赤にして彰を見る。少し涙目だ。笑ってもいられなくなり、彰は百合の頭を撫でる。



「確かパンならあったよ」


「うぅ、煮物とかにパンって………」



仕方なくバターロールで主食は我慢して、二人は食事を取ることにした。違和感のある組み合わせの食事に百合は苦い表情だ。



「ごめん、なさい」


「別にいいって。俺は食事作ってくれるだけで充分だよ」



にっこりと安堵したような彼の笑みに百合は一瞬ドキリとした。まだ、こういった表情は慣れない。

落ち着かなくて、少し苦手だけど、いつかもっと見れたらいいのに。そう、心の中で静かに思った。



こういう時、幸せって言うんだろうなぁ。



慣れない感情にくすぐったくて、百合はぎこちなく笑った。







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