秘密と脅し
先程は入れなかったみりの家に今二人はお邪魔していた。
一人の子供部屋にしては大きい八畳間の部屋に入り、可愛いガラステーブルの周りに腰を落ち着かせた。
「お見舞い、来てくれたんだ。ごめん、変なとこ見せて」
みりはお茶を二人に差し出しながら謝った。流石に質問攻めにはできず、二人は黙ってそのお茶をすすった。
あまりきつくないハーブティーだった。
「………もしかして、話も聞いた?」
「ううん、様子だけしか見てない。ごめん、覗き見なんてして」
「あのさ、あの人みぃの恋人?」
思い切って紫央里は問う。これには百合が少し驚いたが、紫央里の性格をよく理解していたみりは諦めたように頷いた。
「随分、年上だよね?」
「………うん、今二十六歳だから、十歳差かな」
彰と私より差がある…。
みぃちゃんすごい。
別な理由で感心した百合を余所に紫央里は更に大胆な質問をする。
「上手くいってないの?」
「………」
これには彼女も答えられず、俯いた。しかし、それは逆に肯定しているようなもので、百合と紫央里は問い詰めることはしなかった。
しばらくしてみりは無理やりに作った笑みを二人に向ける。
「ごめんね、心配かけて。明日から学校行くから。この件も何とかするからさ、心配しないで! ね!」
その痛々しい姿に二人は頷くことしかできなかった。
「結局、みぃは私達に知られたくなかったんだね」
「…………」
少し淋しそうに紫央里は呟く。百合はその言葉に少しだけ胸を痛めた。言えない関係があることを彼女は理解できるから。
「ごめんね、しおちゃん」
「え?」
「あ、ううん。それより、どういう人なんだろうね。男の人」
彼の職業などは見た目では理解できない。少し気弱そうなイメージが強かったくらいだ。
「………恋って、私には理解できないからな。百合ちゃん、力になってあげて」
「………うん」
百合と紫央里は途中で別れて一人で家に向かう。
既に空は真っ暗で人通りの少ないこの道は静かな空間を作り出している。
暗い、孤独な道。そんなのはいつものことで、そんなのを気にしたことなどなかった。百合はみりのことを考えながらゆっくりと家に向かう。
じゃり………
微かに、彼女に届いた足音。一瞬ドキリとして肩を震わせた。妙に自分の鼓動が大きくなっていく中、彼女は次第に足の速度を早めた。
しかし、早くしても微かに聞こえる足音は消えない。逆に大きくなり、百合の恐怖を煽った。
「――――っ」
すぐ後ろに追いつかれたと思った瞬間、彼女は口を開く。しかし、それは声にはならず、逃げる直前に手首を掴まれた。
ぞぞぞと、背筋に悪寒が走る。腕を振りほどこうと力を入れてもどうにもできない。
「はい、暴れないの」
「?!!」
聞き覚えのある声に百合は目を瞠る。ゆっくりと振り返ればそこには彰の顔があった。
チカンではなかったことにほっとして、更には彰だったことで、堪えていたものを零してしまった。意外にも彼女が泣いてしまったことに彰はギョッとして、百合の手を放した。
「び、くり……した」
「ごめん、そんなに怖がるとは……。百合のことだから俺を蹴り飛ばすくらいすると思ってた」
「ばか! だからって質悪いことすんなよ!」
「百合がこんな時間まで出歩いているのも悪い!」
普通なら彰が謝るはずなのだが、何故か力強く否定されたため、百合は思わず謝ってしまった。何だか納得できないが、対抗する気力もなく溜め息をついた。
「でさ、さっき誰を呼んだの?」
問われている内容はおそらく襲われたと思った時に叫んだこと。百合はじっと彰を見やり、答える前に顔を逸らした。
「隣りの家に住んでる犬のロッキー」
「素直じゃねーの」
このぐらいの罰は当たり前だと百合は心の中で呟いた。