わかんないと恋人?
季節は冬に近付き、気温は下がっていく。すっかり制服の下にカーディガンを着込むように、寒がりの人はマフラーまでもしている。
百合は教室に入って席につく。いつものように登校は早めで、そこまで生徒がいるわけではない。
ふと、窓の外に目をやると丁度彰が出勤してきた時だった。一瞬目が合う。にっこりと教師とは違う笑顔を向けてきたので百合は顔を逸らした。
し、死ぬ。
いや、あの顔反則だって!
付き合い始めて三日目。彼女はやはりこの状況はキツいらしい。
彼の顔を見たことでこの前のキスを思い出したのか、顔はかなり赤い。しかし、すぐに違和感を覚えて彰から意識を放した。
「あれ?」
「うっそ! 今日もみぃ休みなの?」
「うん。どうしたんだろう」
お昼休み、いつものように一緒にご飯を取る二人はまだ来ないみりを心配していた。
いつもかかさず出席し、時には熱があっても来た彼女が二日も学校を休むのは珍しい。
「どうしたんだろう?」
「今日見舞いに行く?」
「そうだね」
そして、学校終了後二人はみりの家へ向かうことになった。
「こっちだよ」
流石にそこまで知らない百合は紫央里の案内で行く。気付くとそこらは結構大きな住宅が並ぶ場所だった。そして、紫央里が止まって見ている家も結構な家だった。
「すごぉい! みぃちゃんちって大きいんだね!」
「うん。そうだね」
あまり興味なさそうに紫央里は頷く。百合もだからといって何かあるわけでもないので、彼女がインターフォンを押すのを見ていた。
しばらくして無愛想な声が戻ってきた。
「あの、みりちゃんは?」
「まだ戻っておりません」
「え! だって今日―――」
何かを口走りそうになった紫央里を慌てて押さえて、百合はでは、また伺いに来ますと通信を切った。
「何すんの?」
「今のでみぃちゃんがズル休みしてるのがわかったから、無暗に変なこと言うべきじゃないよ!」
学校に来ていないはずのみりが家にもいない。これは完全にズル休みだろう。理由もわからないまま彼女のその行動を家に知らせるのはあまりよくない。
百合は紫央里を連れて近くのマックに足を運んだ。飲み物を片手にテーブルにつく。
「どういうことなんだろう?」
「わかんないけど、何かあったんだと思う。私もこういう経験ないから、わかんない」
「みぃが………」
シンとした瞬間紫央里がいきなり立ち上がった。驚いて彼女を見やるが、窓の外をじっと見ていることに気付く。その方向に顔を向けると、そこには探していたみりの姿があった。
同じく百合も立ち上がり、飲みかけたジュースなど気にせずに店を後にした。
近付くと彼女はやはりみりだった。しかし、一人ではなく、見覚えのない男性と一緒だ。
「誰、あれ」
「わかんない」
思わず物陰に隠れてしまい、二人の様子を見つめる。
みりはしばらくその男性と話をしていた。しかし、男の方が首を振って背中を向けて歩き出す。みりはそれを必死に止めようとした。
「待って!」
緊迫したみりの声が届いた。瞬間、彼女は男の前に回り、キスをする。みりの行動は彼にも予想はできなかったらしく、辺りを見回した。
「え、え! もしかして」
「恋人?」
これには二人も驚きを隠せない。百合はふと、ある時のみりの言葉を思い出した。
『でも、恋はわがままになった方がいいと思うよ?』
あの言葉の力はもしかしたら自分のことと重ねていたのかもしれない。
みりは男に引き離されて置いてかれる。小刻みに肩を震わせて立ち尽くしている彼女に百合は思わず走り出した。
「え! 百合ちゃん」
紫央里の言葉など聞かず、百合はそのままみりの身体を抱き締めた。
「百合………ちゃん?」
彼女の掠れた声が百合の耳元で聞こえる。