好きと………
自分の部屋を男に見られるなんて、思いもしなかった。
慌てて選んで着た服はいつもなら絶対着ないミニスカートで、何故この服を選んでしまったのか、百合にもわからなかった。
少しそわそわしながら彰を見ると興味深そうに彼女の部屋を見渡していた。
「何でいきなり? 来るなら来るって言って欲しかったんだけど」
「ごめん、ちょーっとだけ百合の部屋着姿が気になって」
恥ずかしいことを言われ、百合は思わず彰の胸倉を掴む。
「お、お、お前は変態かっ!」
「ちょ、ギブギブ!」
自分でやったことなのに、百合は近付き過ぎた顔を認めて、硬直した。急激に心臓が運動を始める。従って身体が熱くなる。
目を逸らそうとも逸らせない雰囲気に呑まれて、百合はただ彰を見てるしかなかった。
「………百合」
低く、教師とは違う声音に肩が震える。
イケない雰囲気に百合は身体を離した。本当は、望んでいた状況。だから、今はそんなことをしたくなかった。
「………、彰。また聞いていい?」
「何を?」
「私と彰の関係って、何?」
気付いてしまった。
教師と生徒の関係ではない。それは互いに望んだ関係。だけど、望んだ関係に名詞がないことを。
また、気付いてしまった。
「私、言ってなかった。多分、言うのが怖くて」
「百合?」
「…………、私、す…き、だよ。私、彰が好きなの」
教師である、彰が。
特別な人。
教師だからこそ、他人よりも近い人だからこそ、やっぱり言うのが不安で。だけど、"付き合う"という関係が欲しかった。
「好き。だから、私と付き合って」
小さな、か細い声。けれど、真剣さも切実さも感じられるはっきりとした言葉。
彰は無表情で百合を見やる。その顔が彼女の中の不安を増幅していく。揺れる瞳はそれでも逸らすことなく、まっすぐに彰を捕らえている。
彰はそんな彼女の身体を引き寄せて、抱き締めた。
「―――!」
「じゃぁ、聞くけど。俺がどうして百合をここまで欲してると思う?」
「ほっ………! 変な言い方しないで!」
「どうしてここまで気にしてると思う?」
そんなこと聞かれても困る。
わからないから不安なのに。
百合が戸惑っていると彰は 一つ小さく溜め息をついて、百合の顎に手を当てる。
自然に顔を上げる態勢になり、百合は思わず顔を赤く染めた。
「彰…」
目が合う。息がかかる。こんなにも近い場所にいる。
それだけでも、幸せのはずなのに。
はまっていく。病んでいく。どうしようもできない、やめることができない、苦しくて、切なくて、贅沢になるこの気持ちから、逃れられない。
吸い込まれていく。次第に近付いて、触れる。どっちからなのか、わからないまま。
「ん……」
身体が熱くなる。恥ずかしいはずのその行為に夢中で、自分が一体何をしているのか百合には理解できてなかった。
次第に呼吸が苦しくなって、離れる。けれど、すぐに彰に押さえ付けられて口を塞がれる。慣れない行為に目眩が起きる。
「ん、ふっ」
息苦しさから小さく息を吐くごとに声が漏れる。いつしか身体は痺れて、咄嗟に出てしまう抵抗も無くなる。
「はぁ………」
長い、長い行為がやっと終わる。とろんとした目を力なく彰に向ける百合はまだ思考が停止しているのか、何も言ってこない。
彰はそのまま彼女を抱き寄せて、肩に顔を乗せた。襟から覗く彼女の首筋にわざと音を立てて口付け、更に羞恥を煽る。
「や」
「駄目、動くな。俺はいつも、こういうことする関係になりたかったんだから」
よじる彼女の身体をしっかりと捕まえて、更に口付ける。ぞくぞくとした感覚に百合は身体を震わせる。
「…じゃぁ、付き合ってくれるの?」
「今さら聞くことじゃないだろ?」
にっと意地悪い笑みを向けて、彰はまた彼女の唇を塞いだのだった。
第二部終了しました。一部終了時に三部構成と言ってしまったんですが、すみません。四部に変更されました(汗)
では、予告。
願いが叶って、幸せだと思った日々。
そんな時にまた気付く…。
彰がいて、みぃちゃんがいて、しおちゃんがいて…
それだけで幸せだと思ってた。
「援交だっけ?」
流れる噂。
注がれる視線。
この状況を、私は知っている。
助けたいと思った。
だから必死になった。
だけど、それが間違いなんて…。
「そうだよ、同情で近付いた」
崩れる関係。
いや、最初からそれは見せかけだった。
「友達も関係も何もいらない!」
突き放された。
だけど、もう…戻れない。
彰の時と同じで、
知らなかった頃には。
「もう、わかってるんだよね?気持ちは、知らぬ間に咲いてるんだよ」
ふたつのピース、第三部。
友情編…全十七話。
今週金曜日からスタート。