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熱とパニック

大きな背中。

大きな手。

力強いそれ。




甘えたくなりそう……。




「あき、ら?」



無言で彼女の怪我を処置する彰に百合はおずおずと口を開いた。シンとした空気が少し苦しくて、辛かったからだ。



「怒ってる?」


「……馬鹿、ああいう時は逃げろよ」



テープでカーゼを貼り付けて、無事に終了した。彰は冷凍庫の中から氷を取り出し、氷のうを作る。それを差し出したので百合は受け取ろうと手を延ばした。

が、その手は違う手で掴まれて、引き寄せられる。



「な!」


「じっとしてろ。冷やしてやるから」



怪我した場所に優しくそれが当てられる。ひんやりと優しい冷たさが徐々に伝わってきた。

何もされないと思って気を抜いたのも束の間、首筋に異様な感覚が走り、肩を竦ませた。



「―――っ」



顔の隣りに彼の顔がある。

必要以上に近い身体。

首筋にかかる息。



これじゃぁ、逆に身体が熱を帯びる…。



「次からは逃げろよ」


「でも…」


「逃げろよ」


「………はい」



妙に迫力ある声に逆らえる訳もなく、力なく頷いた。それに笑んで、彰は彼女の首筋に唇をつけた。

電撃が背筋を走る。小さく身体が跳ねる彼女を最後にきつく抱き締めて放した。冷やしているはずの顔は真っ赤に染まり、今にも爆発しそうなほど熱そうだった。



「ほら、早く教室戻れよ」


「〜〜〜〜、ばか、やろー」



上目で彰を睨み付けて百合はフラフラと保健室を後にした。






「で、どうだった?」


「どう、て。別に、普通」



お昼休みにご飯を食べようと訪れた紫央里が放った第一声はこれだった。何となく予想はしていたが、実際に聞かれると結構困る。努めて冷静に言葉を返す。



「なぁんだ、つまんない。あれ? みぃは?」


「今日休みみたい」


「うっそ! 珍しいぃ! 今まで皆勤だったのに」



そう言いながらも二人は弁当を広げる。紫央里は自分の鞄を探り、ある物を取り出した。



「百合ちゃんも読まない? 面白いよ!」


「何? 漫画?」


「うん! 禁断愛なんだけどね、面白いよ! だけどまだ一巻しか出てないんだ」



はい、と渡されて思わず読む。内容はお金持ちのお嬢様とそこに働く執事とのラブストーリーらしい。

互いに惹かれ合う二人だが、立場からして一緒になるわけにはいかず、けれど最後には結局互いに気持ちをぶつけて特別な存在になる。そんな話だった。



「読んだ? 面白かった?」


「うん! 絵も可愛いし!」


「でしょ? でも、はっきりしないで終わったんだよねー。互いに結局特別だとは言ったけど付き合ってはいないから、すっごい先が気になるんだよ!」



ふと、百合の動きが止まる。



特別な関係になった。

だけど、付き合ってはいない。

あれ? 結局私と彰の関係って、何?



やっと気付く、また関係の名前が出ないことに。特別な関係に戻っても、その関係が何なのか、やはりわかっていないことに。



彰は、私のことどう思ってるのか、わかってない。



足元から何かががらがらと崩れていく。






翌日。百合は家のチャイムで目が覚める。寝ぼけた頭で扉を開けるとそこには意外な人物が立っていた。



「うっわ! 不細工な顔だな」


「あ、あ、彰! 何で!」


「いや、時には俺から遊びに行こうかと」



当然のように言って、当然のように上がる。呆然とその様子を見ていた百合ははっと今の服装に気付いて自分の部屋に入った。



「そこに適当に座ってて! 着替えるから!」


「あぁ」



びっくりしたぁ。何で、しかもこんな早くに?

ってか、何着ればいい?



軽く(いやかなり)パニック状態だ。







次で第二部終了です。長かった…。

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