カラオケと音痴
お化け屋敷、投げ輪、占い屋、ライブ、衣装店。飲食店以外でもかなりの店があり、三人はどこから行くか悩んでいた。
パンフレットと睨み合いながら廊下を歩く。
「と、とりあえず近くから行こう!」
「うん」
結局行き当たりばったりで行くことを決意し、パンフレットをポケットに突っ込んだ。
「百合ちゃん! たこ焼き!」
「あ、クレープ!」
「あぁ! あれ、あれ! 焼きそば」
「わたあめあるよ!」
「ジュースぅ」
「アイスだ!」
「……………食べ物ばっか」
二人が行くとこに付き合う百合はその行き先が飲食店しかないことにかなり驚く。アトラクション系ははっきり言って楽しめるものが少ないため、それは仕方ないのだが。
次第に重くなる胃に苦い表情を作り、百合は慌てて提案する。
「私達の店行こう?」
「よっし! ケーキだ!」
既に食べることしか考えていない二人は別に反論しない。百合はとりあえずそこでお腹を落ち着かせようと考えた。
夕方に差し掛かったためか、客の入りはほとんど生徒しかいなく、あまり混んではいなかった。四人テーブルの席に三人はついて、メニューを見る。
「えーと、ショートケーキ、チョコレートケーキ、ガトーショコラ、フルーツたっぷりのロールケーキ、紅茶のシフォンケーキ、チーズケーキ、シュークリーム、クッキー………はわぁ、よく作ったね!」
「うん、ケーキはスポンジとか、もちそうなものだけ作っておいて、デコレートとかはその日に準備したんだ」
「よし、皆で違う種類頼んで食べよ」
「うん」
それぞれ好きなケーキとクッキー、紅茶を頼んで、三人はステージの上で歌う人を見やる。
「やっぱり上手い人多いよねー!」
「ねぇ、百合ちゃん! 次歌ってよ!」
「えっ! やだよ」
ケーキが来て、まさに食べようとした時に言われたため、思わず百合はその一口を皿に落とした。
にやぁっと妖しい笑みを浮かべる二人は互いに顔を見合わせて、リモコンを手に取った。
「よし、これじゃない?」
「あー、そんな感じ」
勝手に何かを選曲して、送信してしまった。止める間もなく入れられた曲は誰もが知っているものだ。
「さぁ、行け!」
「だから、行かないって!」
「まぁまぁ、うちらも歌うからさ」
みりがなだめて百合の背中を押して、ステージに上がる。いくら人が少ないと言ってもそれでも十数人の客がこちらを向いている。
悩んで困っている間にあの綺麗な曲が流れ始めた。
「ささ!」
マイクを渡されて握り締める。
覚悟を決めて口を開いた。
「――――――!!」
そして、ワンフレーズ歌った瞬間彼女は思い出した。
自分が音痴なことを。
沈黙が続く百合にみりと紫央里は申し訳なさそうな表情でずっと視線を向けている。
「ごめん、百合ちゃん……」
「まさか、おん…ちとは知らなくて」
「うん、そうだね。私もすっかり忘れてたから、大丈夫だよ」
ふふふと乾いた笑いに更に二人は顔を青くした。
文化祭は無事に終了して、それぞれ片付けに入る。紫央里は自分のクラスへと戻って行き、百合とみりは自分の担当の場所を片付けていた。
「はぁ………」
疲れからか重い溜め息。片付けはほとんど終わり、他の人達は違う場所へ駆り出された。
百合は一人、椅子に腰掛けてぼーっとする。
「百合ちゃん終わった? これから打ち上げだって! グランド行こう?」
「あ、ごめんみぃちゃん先に行ってて」
「あー、うん。わかった」
深く突っ込まず、みりは先にグランドに向かう。しばらくその場で何度か溜め息をついていると誰もいないはずの体育館に足音が響く。
「あれ? 打ち上げ行かないんですか? 時条さん」
それは、いつものように微笑む、彰だった。