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準備とだっこ

時は過ぎて、十月。準備は次第に本格的になっていく。企画や、用意する物などをクラスごと徐々に固めていき、活気付いていく。



「文化祭かぁ」


「楽しみだね!」



二人で準備しながら会話をする。百合は提案者として店の様子を紙に書いていた。シャープペンの動きをふと止めて、百合は思う。



「何か、思い出ないんだよねー」



さらりと淋しい発言。結局彼女が道を外れてしまったのは家庭環境もそうだが、友達がいなかったことも大きな原因だろう。



「だ、大丈夫だよ! 今年は私としおが百合ちゃん一人にさせないから!」


「ありがと」



こういったちょっとした言葉がとても落ち着く。そう、百合は思った。

普通授業の合間にちょこちょこと書き足していくだけなので、休み時間だけでは思うように進まない。

百合はみりを先に帰して居残りをすることにした。



「体育館、よく取れたなぁ…」



カラオケを流石に教室で行うわけにはいかず、体育館を取った。一番競争率が高いはずのその場所をよく取れたな、と感心する。



「………本当、生徒思い」



笑って、シャープペンを置く。書きかけの紙を放って置いて彼女は窓の方へ歩いた。

まだ夕陽が顔を覗いている。じわりとくる暑さに息苦しさを感じながら、彼女は息をついた。






すっかり遅くなって陽が沈んでから彼女は教室を出た。



「結構涼しくなったなぁ…」



まだ暑さは残るもののまとわりつくほどのものではない。秋に近付いている証拠で、何故かそれが彼女には淋しかった。



「ゆ、時条さん。まだいたんですか?」



聞き覚えのある声に肩を震わせた。振り返るとそこには案の定彰がいる。



「………ちょっと、文化祭の店を考えてたから」


「あぁ、あまり根を詰め過ぎないようにね」



爽やかに笑う彰の顔に息が詰まった。これは、今まで彼女に向けてきた特別のものではない。誰にでも向ける、上辺の笑顔。込み上げてきたものを必死に抑えて、百合は必死に笑う。



「はい―――っ、」



けれど、それは脆くて、百合は泣き出す直前で走り出した。



馬鹿!


ばかっ!


これじゃぁ、困らせてることに変わりない!



一気に人気のない道まで走るとやっと足を止めて顔を上げる。頬に伝う涙は止まらなくて、そのまま首まで伝う。



「最低…」



想いが枷となって彼女を襲う。






季節は秋に近付き、次第にあの背中にジリジリ来る暑さは無くなった。準備は進み、店のレイアウトも必要な道具、材料のリスト、設備等が次々に揃って行く。



「百合ちゃん、顔色悪いよ」


「え? あ、大丈夫。ちょっと眠いだけ」



今日も放課後残って準備が進められている。バイトも塾もない百合は毎日居残りをして中心となり用意を手伝っている。



「あ、みぃちゃん、この布そっちにまとめといて」


「テーブルクロスだよね! わかった」



百合から布を受け取ってみりは材料等が置かれている場所にまとめて置いておく。

慌てて戻ろうと身体を切り返した瞬間だった。



「百合ちゃん!」



彼女の目の前で百合が倒れたのだ。

その場にいる全員が彼女の周りに集まる。



「百合ちゃん! どうしよう!」


「誰か運んで」


「え、でも一人じゃ……」



どうしていいかわからず、ただ騒ぐだけ。その時タイミングよく体育館の扉が開いた。



「準備進んでますかぁ?」


「あ、財津先生! 百合ちゃんが!」



みりが叫ぶと同時に彰は咄嗟に身体を動かした。

真っ青な顔で倒れた彼女に駆け寄る。



「ち、無理しやがって」



誰にも聞こえないよう低く呟いて彰は彼女を持ち上げた。



「今日はもう終わりにしましょうか。丁度金曜日ですし、疲れを取って下さい」



百合を抱えて彼は保健室へと向かい、体育館から姿を消した。



「お姫様だっこだ…」



こんな時にそんなことでみりは顔を赤くしてしまった。







次第に題名が適当に………(汗)

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